第20話 運命の赤い糸

 血盟の契約というものは、一度儀式を行えば無効にすることは難しい。ゆえに、二重のちぎりを交わすことは出来ず、生涯を主と共に過ごすというもの。しかし、過去の状況から窺えば、矛盾した事柄が幾つも散見された。よって、こうした内容を理解できないでいた烏兎うとに、そっと白狐びゃっこが言葉を囁きをかける。


「こん。確かにね、烏兎うとがいう通り二重の契約というものは出来ない。けど、これには二つの深い事情があるの」

「二つの事情?」


 ちぎりを交わし儀式を行えば、後戻りするのは不可能なこと。従って、これを破棄してしまえば、霊力が途絶え消滅してしまう。こうした事情もさることながら、更に深い理由があるのだと、白狐びゃっこ烏兎うとに詳しく説明しようとした。


「こん。その一つはね、先代が亡くなれば、縛りは無効となり解除されるの。だからね、一度結んだ血盟であっても断ち切ることは可能なの。といっても、私達に自由なんてものは存在しないけど」

「なるほどね、それが理由で再び主と契約ができたんだ。というよりも、ちぎりを再び交わさなければ消滅してしまう。――が、本当の理由だよね」


「こん。烏兎うとは理解が早くて助かるわ。そうよ、私達は霊力を共有しなければ生きてはいけない。だから契約を結ぶ必要があった。ただね、再びというのは、少しだけ意味合いが違うかも知れないわ」

「意味合いが違う?」


 現代社会において、就労を行っていれば少なからず上下関係は存在する。同じように、瑞獣ずいじゅうと人との間にも主従関係というものがある。ところが、盟約とは心の繋がりによって結ばれるもの。これにより、主人が眷属を選ぶのではなく、従う者が主を選び忠誠を誓う。


「こん。本来ならばね、契約によって忠誠を誓わなくてはいけない。けど、私達と那岐さまは、すでに結ばれた間柄だったのよ」

「それって、光華こうかの力と何か関係があるとか?」


 姉妹達と那岐なぎは契約を結ばずとも、最初から心を通わせた繋がりを持つ。言ってみれば、生徒と恩師のような存在であったと白狐びゃっこは話す。


「こん。そうね、二つ目の事情は光華こうかの力。だけどその前に、一つ質問してもいいかしら」

「質問? 別に構わないよ」


「こん。じゃあ、単刀直入に聞くけどね。烏兎うとは私達のことをどう思っているの」

「どうって、大切な友達だと思っているよ」


「こん。そういう意味じゃなくてね、なんていうのかな……つまり、九尾の狐って何?」

「えっ、それ僕が答えるよりも、白狐びゃっこの方が詳しいと思うけど」


「こん。そうなんだけどね、どんな存在なのか烏兎うとの口から教えて欲しいのよ」

「まあ、いいけど。簡単に説明するとね、妖術を使う何千年も生きた瑞獣。イメージとしては、九本の尻尾が生えた狐かな」


「こん。やっぱりね、そんなイメージだと思ったわ」

「どういう意味?」


「こん。じゃあね、さっきの言葉を意識して、私をもう一度よく見てくれるかしら」

「よく見る? 別にいつもと変わりないように思えるけど。耳があって、尻尾があって…………えっ?」


 烏兎うと白狐びゃっこに言われた通り、風貌をじっくりと眺めた。すると――、ある異変に気づく。


「こん。どうやら気づいたようね」

「どういうこと? 白狐びゃっこって、九尾の狐だよね」


「こん。そうよ、烏兎うとがいう通り、私はどう見ても九尾の狐よ」

「だったら何故、尻尾が一つしかないの?」


「こん。それが元々の認識違い。九尾は尻尾の多さじゃなくて、瑞獣ずいじゅうの個体数なの」

「ということは、君たちの仲間が他にもいるってことだよね」


「こん。正解よ、私の質問した理由がね、二つ目の事情。光華こうかの力で生まれた者達だけが、瑞獣ずいじゅうという存在になれるの。そして導かれる理由はね、既に光の霊糸で結ばれているからなのよ」


こうした意味深な言葉を話す白狐びゃっこ。光の霊糸というのは、赤い糸のように惹かれ合う繋がり。光華こうかの輝きによって、過去から未来へ心の想いを紡ぐ。この因縁で結ばれた絆こそ、いつの日か烏兎うとを支える力になるという…………。

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