第42話 常識をどんでん返しにして……(ドーラ視点)
私はパーティーの人たちと一緒にトクシーコシャードに遭遇していた。そしてもうそろそろ倒せそうなくらいに追い詰めている。
「できるだけ角に追い込んでください!」
私は指示役。こんな私が務まるか少し微妙なところだけど……。
魔法使いのガトーが魔法で角まで追いつめて、そしてファイターのキェスドルがとどめの一撃をいれた。……そう、入れたはずだった。
トクシーコシャードがぐったりと倒れて扉が開く。それをみて私はみんなに次の階層へ行こうと声をかける。そして扉から出る寸前、なぜか扉が閉まった。
「「「え?」」」
私たちが呆気にとられていると、後ろからさっき倒したはずの蛇が私を標的に頭突きをしようとしてきた。それに一番早く気づいたキェスドルは、私をかばって近くに壁に突き飛ばされてしまった。
「キェスドル!?」
「ミニサンダー!」
ガトーが蛇にミニサンダーを当てる。しばらく土埃が舞い、大きな物音がする。しばらくすると土埃が晴れたので周りを見渡す。すると血を流しながら倒れているガトーを見つけた。その近くにはトクシートシャードがいる。
ここでやっと蛇の異変に気付く。体をよく見ると色が変わってるのであった。普通トクシーコシャードは白と赤のぶち模様であるのだけれど、この蛇の体には黒ぶちがある。これってまさか……。
私の脳裏に納得のいく現象が思い浮かぶ。
……突然変異。
突然変異とは、モンスターの死に際に起きることがある。「おそらく、死に際に立たされた人間がすさまじい力を発揮するのと同じようなんじゃないか」と説があり、突然変異したモンスターを倒すとき、下手したら100人が犠牲になる可能性があるほどの力を持っていて、冒険者学校でも過去に被害があったらしい。そんな敵が……今、私の……私達の目の前に……。
どうしよう。このままじゃあガトーもキェスドルも私の目の前で殺されてしまう。なんとかして助けを……。
「誰か! 誰か助けて!」
そんな助けを求める私の声は誰にも届かない。閉じたドアを叩いてもやっぱりだめ。
『自分が殺される側になったらその変わり様か……』
私の後ろに突然変異したトクシーコシャードが迫ってくる。できるだけ耐えななきゃ!
私は急いで距離を取る。逃げる。逃げる。走って……走って……助けが来るまで……まだ希望は……ないかもしれないけど……あっ……
バタン
足がもつれてしまい転ぶ。この間にもトクシーコシャードがだんだん距離をめてきているんだから……ガトーに標的が行かないように……逃げないと……。
立ち上がろうとしても、恐怖で足が動かない……お願い! 動いて!!!
トクシーコシャードがもう私の目の前に来る。ああ……まだ死にたくない……。
死が近づいていることを感じてあきらめかけたその瞬間、どこからか子供の歌声が聞こえた。(私もまだ子供だけど)少しずつ大きくなり、歌詞も聞き取れるようになる。
『……めがすーべったー。うしろのしょうめんだーれ?』
その歌声が途絶えた瞬間、私の目の前がまばゆい光で包まれる。
光はだんだん粒になっていって、一つの形になっていく。私は、そのシルエットに見覚えがあった。
「ドーラさん! 私ちょっとコーギー達を冒険者学校に置いてきちゃったみたいで……」
ユ、ユイさん!? どうやってここに!? このままじゃあユイさんも殺される!
「い……いそ……」
私がユイさんに「急いで逃げて!」と言おうとすると、トクシーコシャードがそれをさえぎる。
『どこから来たが知らぬが、おまえもかみ殺してやる!』
あ、危ない!
そう言おうとしたけど、ユイさんの目には余裕があった。少し驚いている様子だったけれども。
すると、いつも持ち歩いているどこからどう見ても普通の袋から、とても大きい剣を出した。どうやってあの大きさのを入れていたの!? 私の頭がびっくりして少し地面にぶつかった。あの剣ってたしか……。私の頭にある記憶にいるユイさんが、この剣を説明する。
『ああこれですか? これは草薙剣です。別名は天叢むry……(噛んだ……)天叢雲剣っていう剣で、私が生まれた国の神話に登場していたじn……剣なんですよ。さいしょ見つけたときはびっくりしましたよ!? なんでこんなところにあるの!? って感じでした!』
……天叢雲剣……。この剣を少しさわろうとして許可をもらったことがあった。が、なんかの力にはじかれて触れなかった。あれは使うことが許されているものにしか使えない剣なのではないかと私に思わせた。
そんな過去を思い出している間にユイさんが剣をしっかり握る。そしてトクシーコシャードの頭をいとも簡単に串刺しにした。え? ……あの突然変異したトクシーコシャードを? 私の頭が情報を飲み込めずに混乱する。目の前で起きた光景を、いつもなら理解できるのに……。
その時、遠くから小さい変異したトクシーコシャードが迫ってきていた。え? どこから来たの!?
ユイさんはそれを見ると重力魔法を撃つ。そこに私はとてつもない違和感を覚えた。重力魔法って習得に15年必要なはず……。
それを気にしている間にもう一つの疑問点が出てくる。
ユイさんが重力魔法を使っているエリアの上側に大きな氷を作り出す。ここに出てきた一番の疑問は「この大きさの魔法は撃つのに1分くらい必要」ということだ。
この疑問点にはすぐに気づけた。
いくつもの疑問を感じているとその間にユイさんが小さな変異したトクシーコシャードを氷でできたハンマーで押しつぶして一掃していた。
私のパーティーを一瞬で半壊に追い詰めたモンスターを、ユイさんはサクッと倒していたという光景を改めて受け入れようとするけど、いまだに信じられない。こんな私より小さな子が一瞬で変異種を倒していたのだ。
「……えっと、なんの要件ですか……?」
いつの間にか、そんな言葉が私の口からスっと出ていた。今おかしなことが起きすぎていて忘れていたけど、ユイさんは要件を言いに来ていたんだったっけ?
「実は……私のコーギー達が3匹いないので、冒険者学校に探しに行ってもいいですか?」
私は驚きすぎてショート寸前になった頭で要件を理解する。つまり……冒険者学校に戻ろうとしていると。
「はい……大丈夫です」
コーギーを探しに行こうとする由衣さんに向かってしっかり許可を出す。するとユイさんは少し首をかしげながら「ありがとうございます!」とお礼を言って転移キーらしきものを作動させた。周りに光の粒がきらきら舞う。そしてユイさんが現れる前とは違う歌が聞こえてきた。
『しゃーぼんだーまーとーんーだー。やーねーまーでーとーんーだ。やーねーまーでーとーんーでー、こーわーれーてーきーえーた。しゃーぼんだーまーきーえーた。とーばーずーにーきーえーた。うーまーれーてーすーぐーに、こーわーれーてーきーえーた』
その歌を歌っているのは誰だかわからないけど、優しい女性の声だったからか私は一気に気が抜けた。ああ……私、生きてる……。ガトーもキェスドルも……。その事実で私の目が一気に温かい涙がほろほろと死の存在を頭から持って行って地面にたたきつけるようにこぼれた。
『かーぜかーぜーふーくーなー……。しゃーぼんだーまーとーばーそう』
私の頭がフラっとユイさんのステータスを思い出させる。
ステータス測定の結果
『 STR 61 CON 20 SIZ 23
DEX 07 HP 550 MP 594』
「そっか……STRが60もあったら当然だよね……」
ユイさんのステータス測定結果を思い出した私は口からそんな言葉が出ていた。ここには最悪な常識をひっくり返してくれる子がいる。だから私が死ぬという常識も今、ひっくり返してくれた。
「……ありがとう」
そこで私はハッとする。急いでガトーたちの手当てをしないと!
急いでカバンから体力を回復するポーションを取り出す。ふと横目に……ここにはいないはずのライさんが笑っているような気がした。
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