第05話 少女、丸裸にされる

「まずは、いろいろと測定させてもらってもいい?」


「はい。いいですけど」


「それじゃあ、ちょっと右手を握らせてくれる?」


「はい」


 ドロシーが戸惑いながら右手を差し出すと、ライトはその右手を優しく握った。


「ちょっと、ピリッとするね」


「はい」


 瞬間。右手に刺すような痛みが走り、ドロシーの体がぶるっと震える。


 ライトはドロシーから手を放し、微笑んだ。


「ドリィちゃん。いいもの持ってるね」


「え、そうなんですか?」


「うん。魔力の量もだけど、質もいい。頑張れば、良い魔法使いになれると思うよ」


「ありがとうございます」


 ドロシーは照れながら答えた。ライトのことはよく知らないが、褒められて悪い気はしなかった。


「じゃあ、そうだなぁ。確か、実技試験に的当てがあったよね? あれをやってもらおうかな」


「はい」


「ベッドが邪魔だよね。ちょっとどけようか」


 ドロシーが立ち上がると、ライトは指を鳴らした。


 すると、ベッドが宙に浮いて、端の方へ移動する。また、部屋の照度も増して、白い光が部屋全体を照らす。


 ドロシーは驚きながら、その様子を見ていた。


「すごい。今のは、魔法ですか?」


「そうだよ。いずれ、教えてあげる」


「……はいっ!」


 ドロシーは興奮し始めていた。今の魔法を見て、ライトが只者ではないことがわかったからだ。


「あ、的が必要か」


 ライトが端に置いてあった木箱を漁り始めたので、ドロシーは部屋を見回す。


 明るくなってから、わかったことなのだが、床は水色に塗られていて、全体的にファンシーな雰囲気の部屋だった。


「あの、ライトさん」


「何?」


「この部屋の配色は、ライトさんが?」


「そうだよ。変かな?」


 少し子供っぽいというか、ライトの顔には似合わないセンスだったので、ドロシーは違和感を覚えた。


 が、もちろん、そんなことを本人に言えるはずがなく、「そんなことないですよ」と苦笑交じりに言った。


「というか、部屋の明かりも変えられるんですね」


「うん。ほぼ初対面の女の子と話すときは、薄暗いのが丁度いいと知り合いが言っていたから、それを参考に、ちょっと暗くしてた」


「へぇ、そうなんですね」


「見つけた。これだ」


 そう言って、ライトが取り出したのは、道化師の人形だった。


「それは?」


補助人形サブドール。魔力を与えることで、大きさを変化させることができるし、その他、いろんなことに使えるんだよね」


 ライトが補助人形に魔力を与える。


 すると、補助人形が大きくなって、ライトと同じくらいの背丈になった。


「サブは、あっちの壁に立って」


 ライトに命じられ、補助人形が歩き出し、壁のそばに立つと、腰を落として、両手を突き出した。


「ドリィちゃんは反対側の壁の方に立ってもらって。本番よりは短いかもだけど」


「はい。でも、あの、いいんですか? こんなところで魔法を使ったら、壁を壊しちゃうんじゃ」


「大丈夫。壊れたら壊れたで直すから。ドリィちゃんは、本番はどうするの?」


「本番ですか? えっと、その、【火球の魔法】を使う予定でした」


「わかった。なら、あの人形の顔面に向かって、撃ってみて」


「え、あの人形に撃つんですか?」


「うん。本番でも、人形に撃つんじゃないっけ?」


 ドロシーの記憶だと、円形の的に当てる試験だったはず。


 しかし、ライトがそう言うので、空気を読み、頷く。


「わかりました」


 ドロシーは、マントの下から細長い魔法の杖を引き抜き、その杖先を補助人形に向ける。が、壁を壊してしまう可能性が頭を過り、魔法の発動を躊躇した。


(……最初は弱いやつでやってみよう)


 ドロシーは気持ちを切り替えると、呪文を唱え、魔法を発動する。


「"当たって、燃えろ!"」


 ぼうっと音がして、杖先から小さな火球が飛んだ。


 ――が、その軌道が反れて、壁にぶつかりそうになる。


「あっ」


 ドロシーが焦った瞬間、補助人形が横に飛んで、右手を伸ばした。


 火球が右手に当たり、軽く爆ぜる。


 補助人形はそのまま倒れるも、何事も無かったかのように立ち上がると、再び定位置に戻って腰を落とし、両手を突き出した。


「ねっ」とライトは言う。


「変な方向に行っても、サブが止めてくれるから、大丈夫だよ」


「そ、そうなんですね」


 最初から言って欲しかったとは思う。


「でも、ありがとう。今、ちょっと力を抑えたでしょ」


「……わかるんですか?」


「まぁね。ただ、今見てもらった通り、サブが止めるから、次からは全力でお願い」


「わかりました」


 それからドロシーは、ライトの前で十回魔法を発動した。


 補助人形に当たったのは、二回だけで、残りの八回は全部それてしまった。


 十回目が終わったとき、ライトは「だいたいわかった」と言って、ドロシーを止める。


 ドロシーは外しすぎたことを恥じるように口を開く。


「あ、あの! 普段は、もうちょっとうまくできているんですけど」


「うん。でも、環境が変わった瞬間に、それができなくなるんだとしたら、駄目だよね」


 突然の正論に、ドロシーは唇を噛む。何も言い返せなかった。


「だけど安心してよ」とライトは不敵に微笑む。


「ドリィちゃんを丸裸にできたから、俺の話を聞けば、ドリィちゃんも魔法がもっとうまく使えるようになるよ」

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