第4話 愛に時間を:彼女は溺愛してくれるけど問題は別にあった

 教室。

 窓外にそびえ立つ壁を見ながら。


「僕ら二人の時間がなくなるまで、この世界は終わらないのかな」


「私、あと49年もここで生きるのかしら」:蝶原柚羽(49年1ヶ月2日14時間54分2秒)


「バーカ、ブース」


「……」:蝶原柚羽(49年2ヶ月13日7時間1分33秒)UP!


「なんで延びるの!?」


「橘君、可愛いと思って。それにわざと嫌わせようとしても、嫌いにはなれないわ」:蝶原柚羽(49年2ヶ月13日7時間50秒)


「くっ、女の子に嫌われるなんて超簡単なはずなのに。あ、そうだ。僕さ、保育園のころ、梨華と一緒にお風呂に入ったよ」


「……」:蝶原柚羽(49年6ヶ月24日1時間19分18秒)UP!


「だからなんで延びるの!?」


「過去を打ち明けてくれるなんて、私に心を許してくれたんだと思って」:蝶原柚羽(49年6ヶ月24日1時間18分46秒)


 ポジティブすぎる。ポジ原さんだ。


「とにかくなんとかしないと。外の世界が気になるし、梨華たちも元に戻してやりたい」


「そうね。橘君はそういう優しい人。だから私、好きになったんだもの」:蝶原柚羽(49年6ヶ月24日1時間17分2秒)


「そういえば、まだ聞いてなかったね。蝶原さんはどうして僕なんかを好きになってくれたの?」


「……。受験日のこと、覚えてる? そう、この学校を受験したとき。私、バスで学校の前まで来たんだけれど、緊張で気持ち悪くなってうずくまってたの。そこへ橘君が現れて声をかけてくれた」:蝶原柚羽(49年6ヶ月24日1時間15分22秒)


「え。確かにあのとき、具合が悪そうな女の子に話しかけたけれど。あれ、蝶原さんだったんだ」


「そう、私。橘君は優しくしてくれたわ。だから入学した後、同じクラスになれたとき凄く嬉しくて。でも橘君は覚えていなかったみたいだから、言い出せなくて」:蝶原柚羽(49年6ヶ月24日1時間14分26秒)


「ごめん。受験のときは自分のことで頭がいっぱいで、助けた子の顔まで覚えていなかった」


「ううん、それはいいの。それが当たり前だし、受験のときは髪を二つ結びにしていたから。でも私は本当に嬉しかったの。


 あのね。私、中学のころ、よく貧血を起こして倒れたりしていたの。だからクラスメイトに気持ち悪いって言われたことがあって。それがトラウマで他人が怖かった。


 だからそのときも私、最初は橘君に『結構です。気持ち悪いでしょう?』と言ってしまって。


 でも、あなたは――


『気持ち悪くなんかないよ』


『水でも飲む? もち、新品だけど』


『良かった。ちょっと顔色良くなったね。海を見よう。遠くを見ると気分、良くなるから』


 そう言ってくれた。

 それが私、嬉しくて」



 蝶原柚羽(50年1ヶ月21日5時間42秒)UP!



「このまま、すべて停まったままでもいい。私達二人なら、何年でも何十年でもこのままで」




 蝶原さんの言葉が嬉しかった。

 僕は――別にこれまでモテたこともないし、大して頭も良くないし。

 でも、こんな僕でも、そんなに愛してくれていると思うと本当に幸せだった。


 幸せで。

 幸せすぎて――




 でも、僕の残り時間は無情なまでに減っていく。

 二人でなんとかならないかと、いろいろ考えたりやったりしたが、なにもうまくいかなくて。


 二人で抱き合うたびに、蝶原さんの残り時間だけは延びていくのに。

 僕の時間はまるで延びず。




 気が付けば、僕の残り時間はあと5分だった。




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