vol.23 黒幕の正体
[Ⅰ]
エアンディールからオルフェウス城に戻った俺とイアティースは、少し執務なども行い、夜を迎えた。
そして、イアティースの沐浴も終え、寝室へ帰ってきた俺達は、そのまま鏡を潜り、向こうへと移動したのである。
アパートでシャワーを浴び、互いの身体を洗った後、まずはこっちの布団の上で、俺達は愛し合った。
ちなみにそこでの営みは、結構激しいモノとなってしまった。
というか、イアティースが凄く求めてくるのだ。
もしかすると、俺とのセックスにハマってしまったのかもしれない。
まぁそういう俺も、イアティースとのセックスにハマっているところだったりする。
なんというか、身体の相性が抜群なのである。
めっちゃ良いィィィって感じなのだ。が、さっきはちょっとヤバかった。
なぜなら、イアティースがあまりに腰をくねらせてホールドしてくるので、俺は抜くのが間に合わず、中でちょっと汁が出てしまったからである。
まだ覚悟が出来ていないので、とりあえず……何もない事を祈るとしよう。
そして、行為を終えた俺とイアティースは、また鏡を潜り、女王の寝室へと戻ったのであった。
イアティースはその際、「女王の寝室でも、コースケを感じたいなぁ」と言ってきたので、今日は2ラウンドコースになりそうだ。
精力剤が欲しいと思う、今日この頃であった。
まぁそれはさておき、今日は色々と疲れた1日だったが、かなりの情報を得られた。
もう少しで事件は解決できそうである。
とはいえ、どうやってそれを暴くかだが、それに関しては慎重に場を選ばねばならないだろう。
かなりセンセーショナルな展開が予想されるからだ。
(さて……後はタイミングだな。でも余り放置はできない。敵はその間に態勢を整えて、オルフェウスを攻めて来るかもしれないからな。明日はメディアス卿の葬儀だから、その直近が危ないかもしれない。なるべく、早い段階で暴いて、奴を排除してしまわないと……ン?)
俺がベッドの前で突っ立って、そんな事を考えていると、イアティースが甘えるように抱き着いてきた。
「コースケ……愛してるよ。大好き」
続いてイアティースは、目を閉じ、キスのおねだりをしてきたのである。
2人きりの時のイアティースは、凄い甘えん坊になるのだ。可愛い小悪魔である。
つーわけで、俺はイアティースの期待に答えるべく、ねっとりと深いキスをした。
そして、お姫様抱っこをして、ベッドへとインしたのである。
俺はキスをしながら、イアティースのネグリジェの中に手を入れ、胸を軽く揉むと、そこにある突起物を指で優しく撫でた。
「あ……あん……き、気持ちいい……もっとして……コースケ、愛してる」
気分も盛り上がってきたので、俺はそこで、秘部に手を伸ばそうとした。
だがその時、茶々が入ったのである。
【お休みのところ申し訳ありません、陛下! 非常事態です!】
寝室の扉の向こうから、大きな声が聞こえてきたのだ。
声の感じからして侍従長だろう。
俺達は慌てて起き上がり、身なりを整えた。
「お、お待ちください」
そして俺は着衣を整え、扉を開けたのであった。
扉の向こうにいたのはやはり、侍従長であった。
だが様子がおかしい。
なぜなら、近衛兵や宮廷魔導師達もそこに待機していたからだ。
勿論、ディアーナの姿もあった。
どうやら何かあったようである。
とりあえず、イアティースはまだベッドにいるので、俺が要件を聞く事にした。
「これはこれは、侍従長様。一体どうされたのですか?」
「イアティース女王陛下、そしてコースケ殿、非常事態ですぞ! アルテアの方角から、悪魔共が押し寄せてきているそうなのじゃ! 今、アラム閣下より、招集が掛かっております。女王陛下とコースケ殿は至急、謁見の間に集まってほしいそうです。他の王族方にも、お声掛けをしております。一大事ですぞ!」
興奮気味の侍従長は、つるっぱげの頭を赤くしながら、そう捲し立ててきた。
どうやら、向こうが先に動いたようである。
それにしても間一髪だったようだ。
(ふぅ、危ないところだった。挿入してる時に、来られたらたまらんぞ。ったく、悪魔共めぇぇ! 襲い掛かるなら、時と場所をわきまえろや! このバカチンがぁ!)
などと、脳内で悪態を吐きつつ、俺は落ち着いた表情で返事をしておいた。
「わかりました。すぐに準備して向かいます」と――
その後、俺とイアティースは装備を整え、謁見の間へと向かった。
俺達が到着した頃には、もう既にお馴染みの面子が集まっており、慌ただしい様子となっていた。
謁見の間には、アラム卿にフィーネス神官長、それと、アレウス様とヘリオス将軍にレオナール卿といった面々が集まっている。へレーナ太后様やラムティースちゃんのような他の王族の方々もであった。
それに加え、将官クラスの兵士や宮廷魔導師の姿もあったのだ。
全員が不安な表情をしているので、まさに非常事態の雰囲気であった。
奇襲みたいなモノなので、まぁこうなるのも仕方ないだろう。
「イアティース女王陛下、そしてコースケ殿……お待ちしておりました。夜分遅くにすみませぬが、招集を掛けさせて頂きました。どうやら、大変な事態になっているようです」
アラム卿はそう言うと、険しい表情で俺達を迎えてくれた。
「今しがた、侍従長より、無数の悪魔共がこちらに迫っていると連絡がありましたが、本当ですか?」
「ヘリオス将軍が見張り台の兵士から、連絡を受けたそうなのです」
フィーネス神官長がそこで、ヘリオス将軍に視線を向けた。
「ヘリオス将軍……本当に、悪魔共が向かってきているのですか? こちらに来る前、エンサディルアの結界の反応も見たのですが、今のところ、何の変化もございませんでしたが……」
「フィーネス神官長、これは私も直に確認したのです。今夜は満月ですので、遠見の筒で覗いたところ、確かに無数の悪魔の群れが、北の上空を舞っておりました。ですが……奴等はそれ以上は進んで来ず、そこで待機してる感じなのです。エンサディルアの結界に反応しないのは、恐らくそれでしょう」
「離れた所で待機……確かに、エンサディルアはある程度近づかないと、その効果を発揮しませんからね。そういう事ですか……しかし、なぜそのようなところで待機してるのでしょう……」
フィーネス神官長はそれを聞き、難しい表情をしていた。
どうやら結界で探知するには、ある程度の距離に入らないとダメなのだろう。
だが、悪魔共の行動は、それを知っているが故の行動に思えた。
恐らく、待機の指示を出している奴がいるに違いない。
「イアティース女王陛下、万一の事も考え、王族の方々にはどこかへ避難を促した方がよいかもしれませぬ」
「アラム卿、今はどうやって悪魔共を迎え撃つかが先です。ヘリオス将軍、兵の状況はどうなっておりますか?」
「今、北の城塞の守りを固めているところにございます。そして、城内と街の要所には、配下の兵士と魔導師達が既に配置済みです。後は、向こうの出方次第。何れにしろ、この状況だと援軍は期待できませぬので、オルフェウスは籠城するような形になると思われます。悪魔共はかなり手強い上に、満月とはいえ、今は夜です。一気に上から来られると、厳しいかもしれませぬな……少し、状況が悪いです」
ヘリオス将軍は厳しい表情でそう告げた。
夜間襲撃は視界が悪いので、専守防衛だと中々厳しいところである。
「そうですか。ありがとうございます、ヘリオス将軍。引き続きよろしくお願いします。それと、アレウス主席、配下の宮廷魔導師達はどういう状況ですか?」
「配下の宮廷魔導師達も同様に、指示をしてあります。今頃はもう、所定の位置に着いているところでしょう」
「そうですか……となると、後は向こうの出方次第ですね……」
イアティースはそこで俺に視線を向けた。
かなり不安げな表情であった。
「コースケ殿……貴方なら、こういう時、どうされますか?」
「私なら……ですか。それは難しい質問ですね。ですが……少し腑に落ちないところがあるので、まずはそこの確認でしょうかね」
「腑に落ちないところ? それは何でしょうか?」
俺はこの騒動の疑問点を提示した。
「悪魔共はなぜ、北の方角に待機しているのでしょうね? ヘリオス将軍、他の方角はそういう兆候はありませんでしたか?」
「いや、他の見張り台にも確認したが、そっちにはいないようだ」
今のところは大丈夫なようだが……そうは問屋が卸さんだろう。
俺の推察が正しければ、どこかに潜んでいる筈だからだ。
「そうですか。ですが……そんな所で待っているから、オルフェウスはもう守りが固まってしまいましたね。兵士も魔導師も、所定の位置に着いてしまいました。妙ですねぇ……」
「ん、妙……何か気になる事でもあるのかね、勇者殿?」
ヘリオス将軍は首を傾げていた。
他の者達も同様だ。
誰も不自然さに気付いてないようである。
まぁいい。続けるとしよう。
「はい、非常に引っ掛かっております。なぜなら、夜間に襲撃を行う夜襲戦術というモノは、古来より、奇襲として行うのが殆どだからです。私の住んでいた所では、そうでした。基本的に夜襲は、相手が油断している中で、最大の戦果を上げるのが目的ですからね。しかし……今夜の悪魔達はなぜか、離れた上空で舞うのみ。おまけに、夜でも視界良好な満月の時をわざわざ選んでね。まるで、こちらに見つけてもらいたいような振舞いに見えますよ。なぜなのでしょうねぇ……」
俺は白々しく、そう告げた。
「言われてみると……確かにそうだな。いや、流石は勇者殿だ。こんな時だというのに、凄く冷静だな」
ヘリオス将軍も不自然さにようやく気付いてくれたようだ。
「コースケ殿……貴殿はどう考えているのだ? 貴殿の顔を見ていると、もう何かに気付いてるように見えるが」
アラム卿はそう言って、俺に意見を求めてきた。
この人も中々に勘が良い、オジサンである。
「コースケ殿……そうなのですか?」
イアティースが不安そうに訊いてきた。
俺は首を縦に振っておいた。
「ええ、敵の思惑は見て取れますのでね」
「では、コースケ殿……悪魔は何をしようとしているのですか?」
もう頃合いかもしれない。
まだもう少し調べたい事があったが、こうなった以上はもう、ここでケリを着けるしかないだろう。
というわけで、俺はここを謎解き会場とする事にした。
さぁて、解決編だ。
「イアティース女王陛下……今回の夜襲……これは恐らく、別の意図があると考えたほうが良いでしょう」
「別の意図?」
「ほう……別の意図ですか、なるほど。して……それはどのようなモノなのですかな?」
アレウス様も眉根を寄せて訊いてきた。
どうやら気になるようだ。
「アレウス様、今の我々の結果を見れば、それは一目瞭然ですよ。敵の目的は陽動作戦……つまり、オルフェウス内の兵力を分散させる事ですからね」
「分散ですと……」
「どういう事だ、コースケ殿……なぜ分散させる必要がある」
「な!? 勇者殿、兵力の分散だと!」
アラム卿とヘリオス将軍は予想外だったのか、少し戸惑っていた。
恐らく、彼等は面でとらえているので、悪魔の目的が見えないのだろう。
この問題は、ある意味では単純なのである。
「敵にはある目的がございます。それを遂げる為には、傷害は少ない方が良い。出来るだけ手薄な状態にして、そこを攻める方が楽ですからね」
「何を言うのかと思えば……敵の目的はオルフェウスの制圧でしょう。おかしな事を言う方だ、コースケ殿は」
アレウス様は、俺の素晴らしい推察を否定してきた。
これはもう反論するしかないだろう。
「いえいえ、アレウス様。敵の第一の目的はオルフェウスの制圧ではありませんよ。それは、その次の段階の話です」
「なッ!?」
「え!? どういう意味だ、コースケ殿」
「勇者殿! なら、敵の第一の目的とは何なのだ!」
「コースケ殿……敵の目的とは一体……」
全員が驚きの表情で俺を見ていた。
さぁ謎解きの始まりである。
「皆さん……思い出してください。これまであったオルフェウスの災いの数々を。まずは……先代の陛下が、パジィズに罹り命を落としましたね。続いて、その中における不死の王・ハンズの復活。それから、イアティース女王陛下が戴冠した後の悪魔の襲撃。その後、更に、不死の王・ハンズの襲撃もございました。そして記憶に新しい、先の謁見の間での一件……全部、ある事が目的の事件ばかりなのですよ。そのある事とは何か……それは即ち……オルフェウスの君主の暗殺です。それが、悪魔達の第一の目的なのですからね」
「陛下の暗殺ですと……先代の陛下は、病で倒れたのですよ。何を言うかと思えば……本当に貴方は変わったお方ですね」
アレウス様は少し憮然とした感じであった。
さて、ここからは、もう少し踏み込んだ説明が必要になる。
アラム卿は言わないでほしいかもしれないが、俺は今後の事も考え、もう暴露する事にした。
「いえいえ、あれは悪魔が、先王にパジィズを盛ったんだと思いますよ。ついでに言うと、メディアス卿のパジィズによる死も、ですがね。まぁそれはともかく……どうやら悪魔共にとって、オルフェウス王は都合の悪い何かがあるみたいですね」
するとその直後、この場がざわついた。
「え? メディアス卿がパジィズで死んだだって?」
「そんなの初めて聞いたぞ」
俺のカミングアウトに少しざわつく中、アラム卿は眉根を寄せていた。
だが、もうここは進むしかない。
後で謝ろう。
するとそこで、アラム卿が前に出てきた。
「コースケ殿……今、都合が悪いと言ったが、それは何なのだね?」
「すいません、アラム卿。今はまだ、そこまではわかりません。しかし、悪魔達が、陛下の暗殺を第一の目的にしてるのは、最早、疑いようのない事実だと思います。今夜の襲撃も、兵力を分散させ、別の場所に待機させている悪魔達を使って、このオルフェウス城を襲撃するつもりだと思いますからね。そう……つまり、今夜の悪魔達の陽動作戦は、それが目的なのです。ですが……こんな手を使うという事は、悪魔達もそこまでの手勢はいないのかもしれませんね」
俺が説明を終えると、辺りはシンと静まり返っていた。
全員が目を大きくしながら、驚きの表情を浮かべている。
そんな中、イアティースが恐る恐る口を開いたのであった。
「コ、コースケ殿……悪魔の第一の目的は、私を殺害する事だと、貴方は言いました。そして今夜の襲撃も、それが目的だと……。もしそれが本当なら、悪魔達はどこかから、このオルフェウスの状況を見ているという事なのですか?」
イアティースも、この襲撃の本質に気付いたようだ。
ここからは、彼女を辛い目に合わせる事になるかもしれないが、やむを得ない。
俺も覚悟を決めて暴くとしよう。
「そうです、陛下。よくお気づきになられましたね。今夜の襲撃……私が今言った事を実行するには、オルフェウスの状況を観測する者が、絶対に必要なのです。悪魔達は指示通りに動いているので、当然、それを指揮する者もおります。そして……その者こそが……この一連の事件を企てた黒幕なのですよ。奴は今も近くで、我々を虎視眈々と見ているのですからね」
「なんだとッ! 勇者殿、黒幕の悪魔がこの近くにいるというのかッ!?」
「黒幕だと! コースケ殿、本当かね!?」
ヘリオス将軍とアラム卿は、キョロキョロしながら少し慌てていた。
それは他の者達も同様であった。
この場はまた少しざわつき始める。
黒幕が近くにいると聞いて焦ったのだろう。
「勇者殿! もしや、どこにいるか、既にわかっているのか?」
「ええ、わかってますよ」
「教えてくれ! 我がオルフェウスの精鋭部隊を今すぐに向かわせてくれるわッ!」
ヘリオス将軍は勇ましく吼えていた。
容赦せん! といった感じだ。
というわけで、俺はそこで、奴の正体を暴く事にした。
「ヘリオス将軍、別に探しに行かなくてもいいですよ」
「何? どういう事だね?」
「悪魔の黒幕は……ココにいますのでね」
その直後、この場の雰囲気は凍り付いたのである。
まるで時間が止まったかのように、皆、動きを止めていた。
そして、時は動きだす。
「なッ!?」
「えッ!?」
「なんだってぇッ!?」
「コースケ殿、それはどういう意味ですか!?」
「そ、そんな事……」
「え? コースケ様、どういう事ですの!?」
謁見の間は、半端ないざわつきとなっていた。
さて、仕上げだ。
全員が驚きの表情を浮かべる中、俺はそこで、黒幕を指さしたのであった。
「これまで、陛下の命を狙い、このオルフェウスを滅ぼそうとした悪魔の黒幕とは一体誰か……それは、貴方の事ですよ……アレウス主席宮廷魔導師殿」
俺がそう告げた瞬間、全員が目を見開き、息を飲んでいた。
アレウスは忌々しそうに俺を睨みつける。
「私が黒幕ですと……馬鹿馬鹿しい! 何を言ってるのですか! 貴殿は……頭でもおかしくなったのではないですか」
「いえ、私は至って冷静ですよ。これまでの経緯を考えたら、この件に関する黒幕は、貴方じゃないと説明がつかないんですよ」
「貴殿は何の根拠があって、そんな事を言うのです。アシュナの民なのですから、でしゃばるのもいい加減にした方がよいのでは? 折角良くなった貴殿に対する評価も、今回の件で、悪くなるだけだと思いますがね」
他の者達は、この急展開についていけないのか、ポカンとしたまま佇んでいるだけであった。
まぁ無理もない話である。
だが、イアティースは少し悲し気な表情であった。
その昔、惚れた相手が、まさか敵だったなんて考えたくもないのだろう。
「根拠ですか。いいでしょう……まず、これから行きましょうか。不死の王・ハンズの封印を解いたのは、確実に貴方です。今日、エアンディールに置かれているディンギルスソーンという石板を見て、それがわかってしまいました。貴方……動かしてはいけない石板を動かしたんですからね。あの石板に書かれてましたよ……これは冥界の力を封じし、アムンナの結界石。この地から決して動かしてはならぬ。とね……」
ラムティースちゃんとディアーナに、後で突っ込まれそうだが、もう畳みかけるとしよう。
「何……貴殿……まさか、あの石碑を読めるのか?」
アレウスはそう言って、眉間に皺を寄せた。
「ええ、お陰様でね。それはともかく、あの後、エアンディールの長であるメーティア様にも確認したんですが……不死の王・ハンズは約500年前、当時の魔導師達により、サンマルスの大地の力で封じられたと聞きました。つまり、あの石板を動かしてしまった事で、大地の力が弱まり、不死の王の封印も弱まってしまったんですよ。その結果、2年後に、不死の王は復活を遂げる事になってしまったのです」
「だから何だというのです。結果的に、そうなっただけではないですか? 私は研究の為に、あの石碑をエアンディールに運んだだけです。ただそれだけですよ」
「あらら、そう来ましたか。まぁいいでしょう。まだ他にもありますよ。これは私の想像ですが、貴方はその当時、悪魔からパジィズを操る力を得ましたね。そして、その力を使い、貴方のお父様をパジィズで殺害したのではないですか?」
「なんですと……父の死まで、私の所為だというのか! いい加減にしろッ! 貴殿は頭が狂っているのか!」
ワンレンのアレウスも珍しく激高していた。
余裕がなくなってきたようだ。
「いえいえ、私はずっと冷静ですよ。話を戻しますが……パジィズはですね、そこそこエンギルの力を使える者ならば、そう簡単には罹らないんですよ。パジィズとエンギルの力は相反する力ですのでね。それが少なくとも……貴方のお父様が亡くなるまでのオルフェウスの常識でした。ですが……貴方はある目的の為に、どうしてもその常識を覆す必要があった。それは先王をパジィズで殺す為です。ですが、そこで問題がありました。なぜなら、今までパジィズに罹った王族なんていなかったからです。これはアラム卿や陛下にも確認したので、間違いございません。ですので、突然、国王がパジィズで死んだとなると、毒を盛られたのではないかという疑惑が生まれてしまいます。それを躱す為に、貴方はまず、主席宮廷魔導師でもある父親をパジィズで殺したのではないですか?」
アレウスは握り拳を作りながら、ワナワナと震えていた。
その表情はまさに、鬼のような怒りの形相である。
「黙って聞いておれば、いい気になりやがって……利いた風な口を聞くなァッ! 貴様、そこまで言うからには証拠があるのだろうな! ないなら、オルフェウスを乱した罪で、如何な女王陛下の護衛とはいえ、投獄させてもらうぞ! 私の事を悪魔のように言っているのだからな! 最早、許すわけにはいかぬわ!」
アレウスは怒りの形相で俺を指さした。
さて、ここからだ。
俺はそこで自分の推理を信じ、ソレを実行に移したのである。
「貴方が悪魔という証拠なら、ございますよ」
「何……」
俺はそこで小さく呪文を唱え、癒しの力をアレウスに行使した。
その直後、俺の掌から、輝く霧のシャワーがアレウスに向かって放たれる。
そして、輝く霧は、アレウスの身体を瞬く間に覆っていったのだ。
アレウスは発光体と化していた。
奴は苦虫を噛み潰したかのように、険しい表情をしていた。
「チッ……貴様……癒やしの力を使えたのか……」
つまり、俺の推理は正しかったという事である。
「え? ア、アレウス様の身体に、癒しの力が届いていない……なぜ……」
フィーネス神官長は口元を手で覆い、驚きの表情を浮かべていた。
「なぜだ……なぜ、アレウス様に癒しの力が届かない!」
「どういう事だ一体……」
他の者達も、この異変を前にして首を傾げていた。
そう、奴はもう既に、ニューフェンではないのである。
ニューフェンの形をしているが、その実は、悪魔に近い生命体なのであった。
「やはりね……貴方は3年前から、ニンフル神殿に行かなくなったそうですね。それと、メーティアさんの治療を拒んだ話を聞いて、もしやと思ったのですが、その通りだったようです。これが証拠ですよ。今の貴方には、パジィズに罹った者と同様の事が起きています。どうです? これ以上の証拠はないのでは?」
この事実を前にし、アレウスの周りにいた者達は皆、怯えたように距離を取り始めた。
イアティースやアラム卿、そして他の王族や重鎮達も同様である。
するとそこで、アレウスは不敵な笑い声を上げたのであった。
「ククククッ……やるではないか、コースケ殿。まさか、ここまでやるとは思わなかったぞ。お前という存在が来てから、どうにも上手くいかなくなってしまった。クククッ、まぁいい。そうだとも……私が黒幕だ。頭の悪いメディアス卿に任せたのが、そもそもの間違いだったか。私が直接手を下せば、もう少しすんなりと行ったかもしれん。失敗したよ。フン」
アレウスは不満そうに鼻で笑った。
奴は勘違いしてるようなので、俺はそれを訂正しておいた。
「ああ、言っときますけどね。私は貴方に初めて会った時から、ずっと貴方の事を怪しいと疑っておりましたよ」
「何?」
これは予想外だったのか、アレウスは眉根を寄せていた。
「貴方、あの会議の場で、こんな事を言ってました……『この御方が不死の王・ハンズを滅ぼせるほどの力があるのならば、それを示してもらえばよいのです』ってね。私はこれを聞いた時に思ったんです。おや、なんでこの兄ちゃんは、不死の王・ハンズが滅ばされたと思ったんだろう? ってね。倒した俺ですら、滅ぼしたなんて思ってません。他の方々も倒したとか、退けたとかは言ってましたけど、誰も滅ぼしたなんて思ってませんよ。にも拘らず……貴方は滅ぼされたと言っていた。これはつまり……滅ぼされたという事実を知っていたか、もしくは、現状を読めないアンポンタンかのどちらかなんですよ。余計な事を言ってしまいましたねぇ……」
俺の嫌味を聞き、アレウスは忌々しそうに舌打ちをしていた。
「チッ……忌々しい奴め。しかし、今夜の作戦もまさか、お前に読み切られてしまうとは思わなかったよ。そこは褒めてやろう。だがまぁ……バレた以上はこのまま実行するだけだがな。いいだろう……もうこの姿でいる必要もあるまい。私はここで完全に、ニューフェンと決別するとしよう。見せてやろう、我が主より賜りし、転生の秘儀を!」
アレウスは胸の前に奇妙な手印を結び、呪文のようなモノを唱えた。
その直後、アレウスは黒い霧に包まれたのである。
程なくして黒い霧は消え失せ、そこから漆黒の翼を生やした悪魔が姿を現したのであった。
アレウスは美丈夫の姿は保っていたが、頭部には牛のような角が生えており、肌はパジィズの末期症状を思わせる群青色となっていた。
指先には猛禽類のような鋭い爪が伸びている。
そして、不死の王・ハンズのように、禍々しい黒い炎のようなオーラを纏っているのであった。
それはまるで、堕天使を思わせる悪魔のような姿であった。
ハッキリ言って強そうである。
「クククッ……この姿になるのは初めてだが、中々に力が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます