vol.22 神々の碑文



    [Ⅰ]



 メーティアさんの案内で、俺達は大小様々な石板が置かれた広い部屋へとやってきた。

 そこは種類分けがされているのか、間仕切りの壁が幾つかあり、それぞれが区画化されていた。

 そして、それらの区画全てに、色んな石板が安置されているのである。

 石板には小さな文字が沢山刻まれており、古代の遺物といった雰囲気が満載であった。

 まぁなんというか、考古学の研究室みたいな感じである。

 ただ、整理整頓が綺麗になされているので、非常に清潔感があった。

 綺麗好きな俺からすると、そこはポイント高いところだ。

 そんな室内を見回していると、ディアーナが耳打ちしてきた。


「コースケ殿……貴方がここに来たいと、陛下に言ったそうですね」


 俺も小声で返しておいた。


「ああ、そうだよ。何か問題ある?」

「陛下が貴方の為に、なぜそこまでするのよ」


 俺とイアティースは、表向きは主従関係なので、こう思うのも仕方ない。

 とはいえ、嘘を吐くような話でもないので、やんわり答えるとしよう。


「そりゃ、俺が進言したからだよ。オルフェウスに降りかかる災いの原因は、もしかすると過去にあるのかもしれないと思ったんでな」

「ああ、そういう事ね。それならわかるわ」

「そうじゃなかったら、変なの?」

「だって、貴方は腕が立つとはいえ、ただの護衛でしょ? 陛下が貴方の為に、そこまでする理由がわからなかったからよ」


 模範解答ご苦労さんてな感じだ。

 だがそこで、なぜかディアーナは思案顔になったのである。


「でも……この間の地下室で、陛下と貴方って抱き合ってたわよね。しかも、陛下は貴方の事を大好きって言ってたような……」


 これは模範解答じゃないので、正すとしよう。


「アレは陛下も怖かったからだろう。あの状況下なら、通常しない行動をする事もあるさ」

「それもそうね……私達、閉じ込められてたし」

「納得していただけたなら、幸いです。ん?」


 などと俺達が話していると、メーティアさんが仕切られた区画を指差し、説明を始めたのである。


「イアティース女王陛下、この部屋のモノは、全て解読中の石板になります。こちらはオルフェウス建国以前のモノで、そちらの仕切りの向こうは、今から大体3000年以上前の建国時代のモノです。建国時代のモノは、ほぼ解読できますので、仰って下されれば、代読致しましょう」


 というわけで、俺はまず、建国時代のモノを見たいので、その旨をイアティースに耳打ちした。

 またその際、これらの文字が読める事も、俺はついでに伝えたのであった。

 そう、なぜか知らないが、ここから見える石版の文字も、俺は全て読めたのである。

 文字自体はルーン文字というモノに似ているのだが、なぜかスラスラ読めるのだ。

 イアティースはそれを聞いてかなり驚いていたが、とりあえず、納得はしていたようだ。

 やはり、知識の泉の事が、脳裏に過ぎったのだろう。

 ただ、イアティース自身は読めないらしいので、あの泉の効果は俺にだけ強く出ているみたいである。

 ハッキリ言って謎現象であった。


「ではメーティア所長、建国時代のモノをまず見せてもらえますか」

「畏まりました、陛下。ではこちらへ」


 俺達はメーティアさんの後に続き、その区画に移動した。

 メーティアさんは目的の区画に到着すると、壁に掛けられた石板を指さし、早速、解読を始めた。


「ではこちらのモノからいきましょうか。これは恐らく、当時の恋文のようなモノでして……」


 イアティースが説明を受ける中、俺は周囲の石板をスマホの無音カメラで撮影しておいた。

 皆の視線がイアティースに集まっているので、好都合だったからだ。

 写真に収めておけば、後で幾らでも解読できるので、とうとう、このオーパーツを使う時が来たのである。

 とはいえ、ディアーナとかは、俺をたまにチラ見するので隠しながらではあったが。

 その辺は気を付けるとしよう。 

(しかし……なんでスラスラ読めるんだろ。メーティアさんが微妙に間違ってるのも、わかるくらいだ。やべぇな……これ絶対、知識の泉効果やわ。なんなんや、あの銀の器は……まぁいい、後だ。とりあえず、写真に全部収めて、寝室かアパートで、じっくり読むとするか。ン?)

 ふとそんな事を考えていると、俺に近付く者がいたのである。

 俺はそこでスマホを隠した。


「コースケ様、何をしてるのでしょうか?」


 近付いてきたのはラムティースちゃんであった。


「これはこれはラムティース様、ご機嫌麗しゅうございます。珍しい石板ですので、拝見していたのですよ」

「コースケ様は、オルフェウスの建国史に興味があるのですか?」

「そこまでではないのですが、少々、気になりますね」

「へぇ、変わったお方ですこと。でも、建国時代のモノには、そんなに面白い事は書かれてませんわよ」


 ラムティースちゃんはつまんなそうに、そう答えた。

 意外な供述内容であった。

 メーティアさんと一緒に来たので、この部屋で何かしていると思ったからだ。


「ラムティース様は、あまり過去の遺物に興味はないのですか?」

「ありますわよ。私が今調べてるのは、向こうにある神々の碑文と呼ばれるディンギルスソーンですから」


 ラムティースちゃんはそこで、少し離れた区画を指差したのであった。


「神々の碑文ディンギルスソーン……へぇ、そんなのあるんですね」


 メンデルスゾーンとかいう、クラシックの作曲家みたいな名前だと思ったのは、言うまでもない。

 とはいえ、確実に無関係だろう。


「ディンギルスソーンは、不死の王・ハンズが封印されていたというサンマルスの地にあったモノだそうですわ。ご覧になります?」


 サンマルスの地……なんか知らんが、新しい単語が次々出てくる。

 それもあり、少し興味が湧いた。

 建国以前の遺物らしいので、今日の目的には関係ないが、気になるところである。

 とりあえず、建国時代の石板類は粗方写真を撮ったので、見ても良いかもしれない。

 それに、イアティースから少し離れるだけだから、そう文句も言わんだろう。 


「では、ちょっと拝見させてもらいますかね」

「わかりました。こちらですよ」――


 ラムティースちゃんは、床に寝かされたグレーの石板へと俺を案内してくれた。

 石板は三畳分くらいあり、ここにある石板では一番大きな物であった。

 しかもかなり分厚い。

 50cmは優にあるだろう。

 相当重いに違いない。

 ここに搬入するのは、なかなか大変だった筈だ。

 まぁそれはさておき、その石板には、びっしりと一面に文字が彫られていた。

 しかも所々に、エンギルの印みたいなモノも見受けられる。

 ちなみに、ここに彫られている文字は、建国時代の石板とは違うモノであった。

 アルファベットの源流とされるフェニキア文字のようなモノと、古代エジプトのヒエログリフのようなモノが組み合わさった文字列だったのである。

 とまぁ、そんな石板なのだが、これもなぜか俺は読めたのであった。

(しかし……にしても、文字がびっしり彫られてんな。さっきラムティースちゃんが神々の碑文とか言ってたが……これは神が書いたモノではない。でもこれ……不味くね。内容がわかるからだけど……チッ、そういう事だったのか。おまけにこの石板から、エンギルの力みたいなのを感じるし……つまり、これはそういう事なんだろう)

 俺はある一文を見て、色々と悟ってしまった。

 なぜなら、非常に残念な事が記されていたからだ。

(まぁ残念な話だけど……もう終わった事だ。どうにもならない。これに関しては今は言わないでおこう……)

 ふとそんな事を考えていると、ラムティースちゃんは俺に視線を向けた。


「コースケ様、これがディンギルスソーンです。私は今、メーティア様とこれの解読に励んでいるのですよ」

「へぇ……そうなのですか。で、どんな感じなのですか?」


 ラムティースちゃんは自信満々に微笑むと、石板のある箇所を指さした。

 で、俺はというと、そのタイミングでこれ幸いと、この石板も写真を撮っておいたのである。

 正直言うと、ここにある石板を全て記録しておきたいところであった。


「少し解読できてますので、読んで差し上げますわ。ここが、神々、で……ここが、住む、で……、ここが、世界で……」


 ラムティースちゃんは単語の部分を指さして、自信満々にそう教えてくれたが、読める俺からすると、凄くイライラしてくる内容であった。

(なんやろ、この教えてあげたくなるような感じは……。でも、言ってしまうとなぁ……『あれ、俺なんかやっちゃいました?』的な、絶対零度のクソ寒いアドリブしなきゃならんしな。仕方ない……遠回しに解読方法のヒントを教えてあげるとしよう)

 つーわけで、親切な俺はアドバイザーと化した。


「ラムティース様、1つ気付いた事があるので、言ってもよろしいでしょうか?」

「何ですの、コースケ様」


 俺はとりあえず、この文法解読の鍵となる、スペースの規則性と、その後に使われている文字を指さし、説明しておいた。

 

「この碑文なんですけどね、今見てたら、ある規則性に気付いたんです。まず、今仰られた『神々』の部分なんですけど、ここで一旦隙間が空きますよね、続いて、この文字……これね……たぶん隙間と合わせて助詞のような扱いをするんだと思いますよ」

「ジョシ?」


 これは脳内で翻訳できない言葉だったようだ。

 つか、こういうところは翻訳してくれんのかい。などと思いつつ、俺は続けた。


「助詞というのは、単語と単語を繋いで流れる文章にする言葉の事ですよ。私が住んでいた所ではそういう扱いになってます。で、話を戻しますけど、今仰られた部分ですが、恐らく、こう書かれてるんじゃないですかね。『神々の住まう世界と』と」

「え? 神々の住まう世界と……ですって!」


 するとラムティースちゃんは、目を大きくしながら、俺と石板を交互に見たのであった。


「恐らく、そう書いてあるんだと思いますよ」

「で、でも……隙間といっても、色々ありますわよ。こことか、こことか、隙間の広さも違うし……」


 ラムティースちゃんはそう言って、色んな箇所を指さした。


「そう、色々あるんです。でも、これらの隙間は、無視してはいけない文字列なんだと思いますよ。ですので、今言った文字の隙間と、その次に来る文字を注意しながら見てゆくと、この文章が解明できるのかもしれませんね。ン?」


 その時であった。

 俺は視線を感じたので振り向き、そこですぐさま、固まったのである。

(え? なんで、皆、後ろにいるの……いつの間に、こっちに来たんだよ……)

 そう、俺達の背後には、イアティースとメーティアさん、それから、ディアーナとか他の魔導師達が沢山いたからだ。

 イアティースは怒っているのか、俺を睨みつけていた。

 ラムティースちゃんと、勝手に行動したのが気にくわなかったのだろう。

 そして、メーティアさんはというと、そこで石板の前に行き、射抜くように文字をガン見したのであった。

 メーティアさんはボソボソと、独り言を呟いていた。


「文字の隙間……規則性……」


 そんな中、イアティースが俺の手を引いた。


「コースケ殿、ちょっとこっちへ……」

「は、はい、陛下」


 イアティースは少し離れた所に俺を連れてゆき、怒りの耳打ちをしてきた。


「貴方ね……私にメーティアの相手させといて、なんでラムと一緒になって、石板の解読してんのよ!」


 ビンゴである。

 予想通りの回答であった。


 話は変わるが、イアティースは俺と2人だけの時のみ、ラムティースちゃんの事をラムと呼んでいる。

 また、女王に即位する前は、ラムティースちゃんもイアティースの事をイア姉様と呼んでいたそうだ。

 まぁよくある愛称みたいなもんだが、立場が変わってしまったので、もうこの呼び方はお互いに控えているとの事であった。

 というか、ヘレーナ太后様にその呼び方をするなと、口酸っぱく言われたようである。

「女王に即位すると何もかも変わるのよねぇ、もう嫌」とは、イアティースの弁だ

 難しい王族事情である。

 つーわけで話を戻そう。


 まぁそれはさておき、俺も小さく耳打ちを返した。


「いや、だって……ラムティース様が、珍しいモノを見せてくれるって言うから」

「言い訳しない! 今後はもう、私からちょっとでも離れちゃダメだからね。ほら、向こうを見てみなさいよ。メーティアとラムが貴方を見てるわよ……どうするのよ」


 俺は恐る恐る視線を向けた。

 すると、この場にいる者達の全視線が、俺とイアティースに注がれていたのだ。

 ちょっと嫌な展開である。


「コースケ様、ちょっとこちらに来ていただけますか?」


 ラムティースちゃんが不敵な笑みをこぼしながら、俺を手招きしていた。


「女王陛下……とりあえず、行きましょうか」

「んもう、しょうがないわね」


 俺とイアティースは、とりあえず、石板の所へと戻った。

 なんというか、注目の的であった。


「コースケ様……先程の事をメーティア様にお話しして頂けますか」

「宜しくお願いします。先程の話をもう一度、お聞かせ願えませんでしょうか?」

「わかりました。では、まずこれからいきましょうか……」――


 俺はポリポリと後頭部をかきながら、この言語を読み解く鍵となる文字間のスペースと、その次に来る文字の規則性を説明しておいた。

 それに加えて、規則的な単語の並び等から見える文法の構成も、若干ボカシながらではあったが、彼女達に説明をしたのである。

 この場にいる者達は皆、静かに俺の話を聞き入っていた。

 ディアーナとかも例外ではなく、少し驚いたように石板の文字列を眺めていたのである。


「……まぁとりあえず、こんなところですかね。恐らくそうじゃないかと私が思うだけですので、参考になるかどうかわかりませんが……」


 ここまで言っとけば、そう不信には思わないだろう。


「なるほど……よく気が付きましたね。私達は、文字の解読に躍起になってしまって、文字列の構成にまでは、目が行ってなかったのかもしれません」


 メーティアさんはそう言って感心していた。

 俺は少々複雑な気分であった。

 なぜなら、カンニングのような解読方法だからだ。


「まぁ何れにせよ、1つ1つの文字の解読が進めば、もう少し内容を知れると思いますよ。ところで、この石板はサンマルスという所にあったそうですが、ここまで運んだのですか?」

「ええ、仰る通りです。この石板は3年前に、当時のエアンディールの長であるアレウス様の指揮の下、我等がサンマルスから持ち帰ったモノなのですが、なかなか解読が進んでいなかったのです。今日のコースケ殿の指摘のお陰で、大きく進んだような気が致しました。ありがとうございます」


 メーティアさんはそう言って、祈るように、両手を胸の前で組んだ。

 ちなみにこの仕草は、この国の御礼ポージングであった。

 神に感謝するくらい、感謝してますという意味合いのようである。


「そう言われると、私も嬉しいです。それはそうと、今、3年前に持ち帰ったモノと言われましたが、本当ですか?」

「はい、そうでございます。3年前、アレウス様はサンマルスの地にある古代遺跡で、デンギルスソーンを発見されました。その後、魔導学研究の為、私を含めた20名程の魔導師達と共に、アルテアの向こうにある不毛の地・サンマルスに赴いていた時期があったのです」


 不毛の地・サンマルス。

 非常に気になる話である。

 不毛というくらいなので、相当痩せた大地なのかもしれない。

 幾ら何でも、禿げた奴が多いとかではないだろう。


「そうだったのですか。この石板は、アレウス様が発見したモノだったのですね」

「ええ、ですが……こちらに持ってくるのが大変だったのですよ。道中、アレウス様も大怪我をされましたしね」


 大怪我というのが気になるところだ。

 そういうのとは縁がなさそうな美丈夫だからである。


「あのアレウス様がですか? もしや、強力な悪魔にでも襲われたのですかね?」

「いえ、そうではありません。当時、サンマルスの地からアルテアまでは、道なき道を進まねばならなかったので、この石板をイアの術で運ばなければならなかったのです。旅は苦難の連続でした。ですがある時、恐れていた事が起きてしまいました。ある魔導師が、水不足による疲労から、術を解いてしまったのです。そして、それが原因で、アレウス様の両足が、この石板の下敷きになってしまったのですよ。石板はアレウス様の足を容赦なく押し潰しました。出血もあり、それはもう大変な状況でした」


 なんというか、話を聞いてるだけで痛いシチュエーションであった。

 石板を見た感じだと、1トン以上ありそうなので、まともに下敷きになったら、死んでしまうところである。

 これをイアの術で運んだそうだが、魔導師が20人程いたとはいえ、かなり大変だったに違いない。

 エンギルの力は、水分補給が絶対だからだ。

 

「ああ、そういう事だったのですか……確かに、重そうですもんね、この石板。で、アレウス様の怪我はどうだったのですか?」

「アレウス様は両足が折れるほどの酷い怪我でございました。ですが……その時、アレウス様の凄さを私は知ったのですよ」

「凄さ? と、言いますと?」

「当時の魔導師達の中で、癒しの力を扱えるのは私だけだったのですが、私もかなり水が足らない状況でした。おまけに、補給用の水も残り少なくなっていました。しかし、アレウス様の容体は見過ごせません。ですので、無理をして治療しようとしたのですが、アレウス様は石板を運ぶ為に私の力が必要だと言い、それを拒んだのです。そして、自分で治療すると言い、両足を魔法で見事に治してしまわれたのですよ。私は驚きました。アレウス様は、風と水の魔法を極めたお方なのですが、まさか癒しの力も持っていたなんて知らなかったからです」


 要するに、自分で治療したという事なのだろう。

 これの何が凄いのかよくわからんが、まぁとりあえず、話を聞くとしよう。


「では、アレウス様は癒しの力を習得していたのですね」

「恐らくそうだと思います。ですが……普通は有り得ない事なんですよ」

「有り得ない? なぜですか?」


 だがその直後、メーティアさんは首を傾げて、ポカンとしていたのであった。

 他の魔導師も同様であった。

 皆一様に、(何言ってんだコイツ……)という感じだ。


「え? そ、それは……アレウス様が、風と水の力を操る魔導師だからですよ」


 正直、意味が分からない回答であった。

 どうやら、俺が知らない常識があるのかもしれない。


「どういう意味です。風と水の魔法を極めると、癒しの力は習得できないのですか?」


 するとラムティースちゃんが、小馬鹿にしたように微笑んだのである。

 ちょいと、クソガキ成分もあるようだ。


「コースケ様は優れた魔導師らしいのに、そういう常識は知らないのですね。風と水と火の力を得た魔導師は、普通は癒しの力は得られないんですよ。癒しの力を得られるのは、大地のエンギルの力を使える者のみですから。大地の力は特殊なのです。大地の力を習得できる者は、なぜか、他の力を得られないので。風と水と火はそうでもないのですがね」


 初めて知った異世界トリビアであった。

 エンギルの力にも、一応、陰陽五行説みたいな属性があるみたいだ。

(俺はどういう属性になるんだろう? 癒しの力を使えるので、大地属性なんだろうか? でもイシュタルトって光だよな……って、今考えてもわかるわけないか)

 だが、このファンタジー世界も御多分に漏れず、系統魔法のようになってるみたいだ。

 気になる話だが、また追々調べるとしよう。


「そうだったのですか。ありがとうございます、勉強になりました」


 するとディアーナがクスリと笑ったのである。


「そういえば、コースケ殿は変わった魔法の使い手ですよね。この間も、見た事ない魔法で悪魔共を撃退してましたから。我々のように、額にエンギルの印もありませんし、もしかすると、私達とは違う魔法の力を持ってるのかもね」

「変わった魔法? 気になりますわね。コースケ様はどんな魔法を使えるのですか?」


 ラムティースちゃんは目をキラキラさせながら、興味津々な感じで訊いてきた。

 ちょいと面倒な展開である。

 というか、触れてほしくない話題だ。

(ディアーナも余計な事を言いやがって……胸揉むぞ、このボイン魔導師めが!)

 するとそこで、話を遮るように、イアティースが前に出てきたのである。


「ラムティース、それは今は関係ありませんので、また今度にして下さい。ではメーティア、次に行きましょう。不死の王に関する文献を見せて頂けますか?」

「はい、ではこちらへ」――


 イアティースの助け舟もあり、俺はこの面倒な展開から脱出する事ができた。

 俺の所為でこんな事になったので、イアティースには後で謝っておくとしよう。

 だが、このやり取りのお陰もあり、俺も粗方の謎は解けたのであった。

 とはいえ、確実な証拠がないので、人の皮を被った悪魔を追い詰めるには何かが足らない状況だ。

 しかし、それを可能にするヒントが、今の会話で得られたのである。

 俺の想像通りならば、これが強力な証拠となるに違いないのだ。

(さて……敵に時間をあまり与えたくないから、もうそろそろ追い込む時期だな。だがその前に、もう少し確認しなきゃいけない事がある。後で、メーティアさんから色々と聞かないと……)

 俺はそんな事を考えつつ、メーティアさんの後に続いたのであった。

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