vol.21 エアンディールへ


    [Ⅰ]



 ニンフル神殿を後にし、オルフェウス城へ戻ってきた俺とイアティースは、そのまま会議室へと向かった。

 普通なら、次はいつも通り執務となるのだが、今日はその前に、高位貴族達との会議が入っているからだ。

 会議室に俺達が行くと、全員が既に席へと着いていた。

 しかし、ここにいる高位貴族の表情は、皆一様に、暗いの一言であった。

 もしかすると、俺達を待っている間に、アラム卿から簡単な説明は受けたのかもしれない。

 で、今日の会議の議題だが、それは勿論、メディアス卿殺害事件の経緯の説明と、その葬儀の段取りについてである。

 とはいうものの、集まった方々は、既にヒソヒソとその話題を口にしていた。

 ただ、聞こえてくるのは「メディアス卿が悪魔に殺された」とか、「メディアス卿の屋敷が悪魔に乗っ取られたらしい」といった表の理由ばかりなので、真相自体は漏洩してないようであった。

 まぁそれはさておき、イアティースが席に着いたところで、アラム卿は会議を始めた。

 その後、厳粛な雰囲気の中、滞りなく会議は進んでゆく。

 そして、葬儀の流れが粗方決まったところで、この場はお開きとなったのである。

 ちなみにだが、葬儀は明日で、国葬という形で執り行うそうだ。

 亡くなったのが現職の大臣なので、ここはやはり、オルフェウス王家が主導で弔うみたいである。

 要職である大臣なので、こうしないと国内外に示しがつかない部分もあるのだろう。

 だが、話はこれで終わらない。

 なぜなら、アラム卿から、会議の後に残るよう言われた者達がいたからである。

 名指しされたのは、イアティースと俺、それから、アレウス様とヘリオス将軍である。

 このメンバーは事件の真相を知っている者達なので、なんとなく、残る理由は予想できた。

 つまり、ここからは裏の会合というわけだ。

 目的の面子が残ったところで、アラム卿は扉の鍵を締め、俺達に振り返った。


「さて……では始めますかな。ここに残って頂いた方々には、大事な報告と今後についての話があります。暫し、お付き合いをお願いしたい」


 この場にいる者達は、神妙な面持ちで頷いた。

 アラム卿は続ける。


「今朝……ニンフル神殿のフィーネス神官長より、イアティース女王陛下が報告を受けました。メディアス卿はやはりパジィズだったと……」


 その言葉を聞き、ヘリオス将軍とアレウス様が目を見開いた。


「なッ!? パジィズだって……卿は一昨日まで元気だったではないか。いかにパジィズとて、ここまで早く死に至るモノなのか? 初めて聞きましたぞ、そんな話は」


 ヘリオス将軍はやや興奮気味に、そう捲し立てた。

 納得がいかないのだろう。


「ヘリオス将軍、これはニンフル神殿の報告だ。神官達がパジィズというなら、そうなのだよ」

「しかしですな……クッ」

「納得できぬのはわかるが、今、問題なのは、パジィズを施した悪魔達が、まだこのオルフェウスにいるかもしれんという事だ」

「ですが……どのように対処すればよいのか、見当もつきませぬぞ。我等は見えるモノには対処するが、病魔まではどうにもならんのだ」


 ヘリオス将軍は、お手上げと言わんばかりに、両手を上げた。

 まぁ無理もないところである。


「うむ、それが厄介なところだ。アレウス殿、何か良い手立てはあるだろうか?」


 話を振られたアレウス様は、目を閉じ、静かに頭を振った。


「私には何も思い浮かびませぬ。メディアス卿を見つけた時、既にあの状態でしたのでね。パジィズの悪霊がどうやってメディアス卿の身体に入り込んだのか……それが全然見えてこないのです」

「そうであるか……困ったモノですな」


 全員が暗い表情をしていた。

 発表したアラム卿も、苦悩の表情であった。

 わけがわからないのだろう。

 この場は一気に、重苦しい空気となっていた。

 つーわけで、俺が空気を読まず、そこで手を上げたのである。


「あの、質問いいでしょうか?」

「なんだね、コースケ殿」

「私も今朝、メディアス卿の御遺体を神殿で拝見致しまして、パジィズという事を実際に、この目で確認してきました。それでお聞きしたい事があるのです。それは以前、不死の王・ハンズがこの国を襲撃した時、奴が連れてきた死者の軍勢についてです。その死者とは、どのようなモノだったのか、わかりますかね?」

「え? 不死の王の軍勢?」


 全員、ポカンとしながら俺を見ていた。

 恐らく、意味のわからない質問だったのだろう。

 だが、この質問には理由があるのだ。

 俺はさっきからずっと、気掛かりな事があったからである。

 というのも、パジィズという病魔に侵されて死んだ者は、もはや別の生き物のように見えたからだ。

 決定的だったのは、神殿での一件であった。

 癒しの光を押し返すような力が働いてたので、それがずっと引っ掛かっていたのである。

 俺には、動力が切れたゾンビのように、見えたからだ。


「死者の群れだよ。そうとしか言いようがない。奴は無数の死者達と共に現れ、このオルフェウスに牙を剥いたのだからな」

 

 と、アラム卿。 

 どうやら質問が悪かったようだ。

 もう少し、具体的に問うとしよう。


「ちなみにその死者とは、パジィズで死んだ者みたいではなかったですか?」

「それは私よりも、ヘリオス将軍の方がわかるであろう」


 アラム卿はそこでヘリオス将軍に視線を向けた。


「まぁ確かに、そういう死者もいたが、全体で見ると色々だ。干からびたのや、腐りかかった者、それから骨だけの死者もいたのでな。まったく、思い出すのも嫌な戦いだったよ。で、それがどうかしたのかな、勇者殿?」


 ヘリオス将軍は襲撃時の事を思い出しているのか、嫌そうな感じで疲れたように答えてくれた。

 どうやら、色んなパターンの死体が群れていたようだ。

 精神的に来るモノがあったのだろう。


「色々ですか……なるほど。ちなみに、この国では、死者は大地に埋葬するのが主流なのですか?」

「言われるとおり、我が国では、死者は大地に帰すのが習わしですね。それがどうかされましたかな?」


 アレウス様はそう言うと、怪訝な表情になった。

 なんでそんな事を聞くんだ? てな感じである。


「いや、もしまた不死の王みたいなのが襲ってきたら、そういった方々も利用されるのかなと思っただけですよ」


 するとその直後、皆の視線は俺に集中したのである。


「な!?」

「まさか、そんな事……」

「勇者殿は……恐ろしい事を考えるな」

「なるほど、確かに……」


 死者の軍勢という表現はするのに、その調達先は気にしてなかったようだ。

 冥界のような得体の知れない世界から、死者を召喚したという可能性も勿論あるが、今聞いた感じだと、死体はバラエティに富んでいるようであった。

 なので、この世界で調達した可能性も十分に考えられるのである。


「不死の王の一件……死者をどのように調達していたのか、それが私は気になっているのです。もし、殺された者や埋葬された死者を操っていたのだとしたら……この国の墓地の下で眠る者達も、奴等の手勢になり得ますからね。何れにしろ、注意は必要だと思います」


 だがヘリオス将軍は渋い表情であった。


「確かに、勇者殿の言う事もわかるが……それは考えすぎなのではないか?」

「いや、ヘリオス将軍……コースケ殿の言ってる事は無視出来ぬ事だぞ。可能性としてはどんな事でも今は有り得る。今後は兵士による墓地の巡回もした方が良いのではないか?」


 ヘリオス将軍はそういう風に考えたくないのだろう。

 もしかすると、そういう願望も多少はあるのかも知れない。

 逆にアラム卿は、俺の意見を肯定的に受け止めているみたいだ。


「わかりました。アラム卿がそこまで言われるのならば、一応、兵士の配備もしておきましょう」

「うむ、その方が良いかもしれぬ。どこかに、パジィズを操る悪魔がいるかもしれぬのだからな」――


 その後、他の件について少し話し、この場はお開きとなった。

 だがここからは更に、別の会合が続くのである。

 今度は人数が少し減り、俺とイアティースとアラム卿の3名による会合であった。

 ちなみにこれは、俺がお願いした事である。


「さて……コースケ殿。私に話しておきたい事があると言ってたが、一体、何だね?」

「今回のメディアス卿の件で確信が持てたんですが……不死の王の封印がなぜか解け、先王がパジィズに罹り、そして亡くなってから今日までの事……恐らく、全てが繋がっていると見て、まず間違いないと思います」


 アラム卿は険しい表情を浮かべていた。


「む……やはり、コースケ殿もそう思うかね。私も昨日から、そんな風に考えているのだよ。しかし、一体どうやって、先王やメディアス卿にパジィズを仕込んだというのだね? それがさっぱりわからぬのだ」

「アラム閣下……それは私にもわかりません。ですが……今、我々が無事なところを見ると、自由にパジィズを患わせるのは、向こうも難しいのかも知れませんね」

「まぁそうとも考えられるが……むぅ……」


 アラム卿は俺と似た考えのようだが、やはり、この国の重鎮として、納得できない部分もあるのだろう。

 まぁそれはさておき、俺は質問を続けた。


「それと話は変わりますが、不死の王・ハンズは、元はこの国の民だったと聞きます。当時の事って、閣下は何か知っていますでしょうか?」

「不死の王・ハンズか……私はよくわからぬが、コースケ殿は何かあると考えているのかね?」

「はい……ハンズの事も含め、これら一連の災いは、1つの意志の元で起こっていると私は考えております。その昔、なぜ、不死の王・ハンズが現れる事になったのか? それを知りたいのです」


 アラム卿は顎に手をやり、暫し考え込んだ。


「なるほどな。貴殿はよく頭が回るので、何か感じるモノがあったのだろう。しかし、ハンズの事か……それは500年以上前の事らしいのでな、流石に私にはわからぬ。だが、エアンディールに行けば、何かわかるかも知れん。古の書物は、エアンディールにて管理してるのでな」

「確かにエアンディールに行けばわかるかも知れませんね。そういえば、ディアーナはエアンディール出身と聞きましたよ」

「え、そうなのですか? では後で、案内をお願いしてみます」


 ディアーナはエアンディール出身のようだ。

 案外、学者肌なのかも知れない。


「コースケ殿、他に何か気になる事はあるかね?」

「では最後に1つだけ、確認させてください。アレウス様のお父様が3年前に亡くなったそうですね。これは私の想像ですが……お父様はもしや、パジィズで亡くなったのではないですか?」


 するとその直後、イアティースは驚いたのか、口元を押さえ、アラム卿は眉根を寄せたのである。


「え……アレウス主席の父君がパジィズで……」

「コースケ殿……どうしてそれを? あの一件は箝口令を敷いていた筈だ。誰かから聞いたのかね?」


 どうやら、思った通りのようだ。

 ニンフル神殿で、メディアス卿の遺体が癒やしの力を退けたのを見て、逆の場合もあると考えたからである。

 そして、それがパジィズの感染しやすさに関わっている気がしたからだ。

 例外は、先王とメディアス卿、そして、アレウス様の父君である。


「いえ、誰からも聞いてませんよ。これは本当に私の想像です。ですが……お陰で、色んなモノが見えてきました。ついでに、これも想像ですが、お聞きします。箝口令を敷いた理由は、やはり、主席宮廷魔導師がパジィズに罹ったというのを隠す為ですか?」

「むぅ……その通りだ。主席宮廷魔導師がパジィズに罹るなど、今まで無かったのでな。そもそも高位の魔導師で、そういった病魔に罹った者は今までいなかったのだ。動揺を避けるために、そうしたのだよ。その後は先王もパジィズになるしで、想定外の事が続いたがな」


 思った通りだ。

 やはりパジィズは、そこそこエンギルの力を使えるならば、感染しにくい特性があるのだろう。

 

「なるほど……つまり、アレウス様の父君は、今までのオルフェウスにおける常識なら、有り得ない死だった……そういう事なのですね」

「うむ、その通りである。だが、メディアス卿のパジィズと同様、あまり他言はしないで欲しい。民達に不安を与えるといかんのでな」

「ええ、そのつもりです」――



    [Ⅱ]



 昼頃、俺とイアティースは寝室へと戻ってきた。

 そして、いつもと同様、俺は鏡を潜り抜け、ランチを食べに帰宅したのである。

 ちなみに、イアティースは冷蔵庫からペットボトルを手に取り、オレンジジュースをゴクゴク飲んでいるところだ。

 キャップの取り方も手慣れたもんである。


「ハァ……疲れた。今日はメディアス卿の件で大忙しよ。でも、まさか、アレウス主席のお父様がパジィズだったなんてね。初めて知ったわ。コースケはいつわかったの?」

「フィーネス神官長の話を聞いた時だよ。ついでに、メディアス卿の遺体を見てたら、何となくそう思っただけさ」

「コースケは本当に鋭いね。私が思いもしない事を考えてるし。でも……アレウス主席も大変だったのね。私、数年前はアレウス様に憧れてた時期もあったのよ。あれは、恋してたのかな……。それに……コースケには今まで黙ってたけど、私の婿候補にもなった事があったらしいし。でも、王族の婚姻は、他国の王族から招くべきっていう太后様の意見もあって、見送られちゃったんだけどね……」


 なんというか、ちょいと面白くない話であった。

 俺もいっちょ前に、ジェラシーを感じてしまったようだ。


「へぇ……って事は、こないだのアルテアの王子、ルーザー様とやらも候補だったのか?」

「それは、ちょっとわからないわよ」

「ちなみに訊くけど……アレウス様の事、今もそういう気持ちはあるか?」

「え? 今もって……それは凄い魔導師だから、そういう意味では尊敬してるし、信頼もしてるわよ。でも、今は流石にそういう気持ちは無いわよ。だって今は、コースケがいるもの」

 

 正直、複雑な気持ちであった。

 ここに来て、やや判断に悩む情報である。


「そうか……尊敬と信頼ね。主席宮廷魔導師だもんな。当然だ。まぁ……過去のそういう話はあまり聞きたくなかったが、仕方ないか……」


 年頃のイアティースを考えたら、あって当然なので仕方ないのだが、今はあまり要らない情報であった。


「ちょっと、コースケ……もしかして怒ってるの?」

「いや、怒ってはいないよ。ただ、俺の知らないイアティースを見て、少し戸惑っただけさ」

「ごめんね……変な話をして」


 イアティースはそう言うと、俺に身を寄せてきた。

 しかし、俺は何とも言えない気持ちになっていたのである。

 但し、それは嫉妬心からではなく、別の事から来るモノであった。


「ねぇ……なんで何も言ってくれないの? そんなの嫌だよ」


 イアティースはそこで俺に抱きついてきた。


「いや……ちょっと考え事をしていただけだよ。って、ンン!?」


 などと答えた瞬間、イアティースは強引にディープキスをしてきたのだ。

 そして、俺を押し倒し、マウントとるかのように、馬乗りになったのである。


「コースケ……貴方ね、何を弱気になってんのよ。私に、あんな事やこんな事を一杯しといて、今更、逃げられるとでも思ってんの。私達はもう、前に進むしかないの! コースケがいない生活なんて、私はもう考えられないんだからね。だから……そんな顔しないでよ」


 イアティースは目を潤ませていた。

 どうやら誤解してるようだ。

 嫉妬と思ってるのだろう。

 だが、ここは彼女に合わせておくとしよう。

 俺はイアティースを抱き寄せた。


「ごめん……俺も少し、嫉妬したのかもな」

「私はもう貴方だけなんだからね。コースケは私の夫になるの。もう離さないんだから」


 俺はマウント返しをして、イアティースにキスをした。

 そして、彼女の胸を揉みしだいたのである。


「え、ちょっ……い、今、するの?」


 ちょっ、待てよ。みたいな感じだが、俺の誠意は示しとこう。


「いや、先程のお詫びに、少し気持ち良くして差し上げようと思いまして……とりあえず、頑張らせていただきます」


 俺は真心を込めて、イアティースの胸と秘部を攻めた。


「ええ……あ……あん……もう、コースケったら。こ、こんな事を私にしていいの、コースケだけなんだからね……大好き、コースケ」


 俺にされるがままのイアティースなのであった。

 とりあえず、イアティースの昼食に遅れない程度に頑張るとしよう。

 


    [Ⅲ]



 イアティースの昼食が終わった後、俺は彼女と共に、魔導学研究所のエアンディールという施設に来ていた。

 ちなみにだが、ここにある書物は王の許可がないと、宮廷魔導師以外は読む事が許されないらしい。 

 なので、女王の許可をもらって1人で来ればよかったのだが、俺とイアティースは運命共同体である。

 つまり、まぁそういうことなのだ。

 イアティースは俺の単独行動を許してくれないので、必然的にこうなってしまうのである。

 トイレ以外はどこに行くのも一緒なので、もう最近は、これが普通になってきている今日この頃であった。


「ここがエアンディールの正門です」


 案内人のディアーナがそう言ってこちらに振り返った。

 彼女は元々、魔導学研究所・エアンディール出身の魔導師らしいので、案内をお願いしたのである。

 ちなみにイアティースは2回ほど来た事があるだけで、良く知らない施設との事だ。

 オルフェウス城から少し離れた所にあるので、あまり縁がない所だったのだろう。

 まぁそれはさておき、エアンディールは石積みの塀に囲まれた、かなり特徴的な建造物であった。

 場所的には高位貴族の住まう区画に建ってるので、周囲はブルジョワな感じの建物ばかりだが、このエアンディールはそれらの街並みと比べ、かなり異彩を放っていた。

 なぜなら、このエアンディールはピラミッドっぽい建造物だったからである。

 しかも、かなり大きい。地上から天辺まで、凡そ、15mくらいあるんじゃないだろうか。

 そんな感じなので、かなり周囲から浮いて見えるのだ。 

(これがエアンディールか……古代ギリシャ文明の中に、エジプト文明がポツンとあるような感じだな。しかも結構デカいし……)

 ふとそんな事を考えていると、ディアーナは門扉を開いた。


「では陛下、ご案内致します」

「お願いします、ディアーナ」


 俺達は門扉を潜り、エアンディールの玄関と思われる所へ向かった。

 するとそこには、何人かの兵士達が屯していたのである。

 鎧の形式を見たところ、近衛兵のようであった。

 そこで、イアティースの困った声が聞こえてきた。


「ん、あの兵士達は……また妹が、魔導師達の邪魔をしに来てるのね。あの子はもう……許可なんて出すんじゃなかった」


 どうやらラムティースちゃんが来ているようだ。

 とりあえず、黙っとこう。

 触らぬ神に祟り無しである。

 その後、俺達はエアンディールの玄関扉を潜り、中へと足を踏み入れたのであった。

 エアンディールの入り口部分は、開けた空間となっていた。

 ただ、少し薄暗いので、明るい外からこの中に来ると、目がややチカチカする。

 おまけに、お香みたいなのを焚いてるのか、ちょいと煙っぽい所であった。

 その所為か、宗教施設のような雰囲気が漂っていたのである。

 ちなみに、エアンディールの中は、緑色のローブを着た魔導師達ばかりであった。

 宮廷魔導師は紺色なので、ローブの色で配属先を示しているのかもしれない。

 まぁそれはさておき、ディアーナは受付と思われるカウンターで何かを話した後、そこにいた魔導師と共に、奥の方へと俺達を案内してくれた。

 すると程なくして俺達は、書物や石版みたいなのが沢山並ぶ、奇妙な部屋へと到着したのであった。

 ディアーナはそこで俺達に振り返った。


「女王陛下、ここが古代文献の研究や解読を行う部屋になります」


 するとその直後であった。


「イアティース女王陛下、ようこそお越しくださいました」

「あら、お姉様じゃない」


 受付にいた魔導師に伴われ、眼鏡を掛けた生真面目そうな女性とラムティースちゃんが、俺達の前に現れたのである。

 その女性はただ1人、朱色のローブを纏っていた。

 どうやら、ここの責任者なのかも知れない。

 ちなみにラムティースちゃんはいつものツインテールに、純白のローブの上から金縁の赤いショールを羽織る姿であった。

 王族はこのショールみたいなのをよく羽織っているので、たぶん、マストアイテムなのだろう。


「エアンディールの長、メーティアです。お久しぶりでございます、イアティース女王陛下」


 年はアレウス様のようなアラサーくらいだろうか。

 肩より長く伸ばした茶色の髪をしており、後ろでポニーテールのように纏めていた。

 痩せ型で身長はそんなに高くない。

 だが、結構な魔法の使い手なのか、額には4つのエンギルの印が刻まれているのである。

 というか、この国の高位魔導師は皆、額に複数の印を抱いてるのだ。

 アレウス様もよく見ると5つくらいあったりする。

 小さい印なので目立たないが、少し違和感のあるビジュアルであった。

 俺は額に印がないので、余計にそう思うところだ。


「メーティア、久しぶりでございます。貴方と会うのは、私の戴冠式以来ですね。ところで、妹が迷惑をかけてませんか?」


 それを聞くなり、ラムティースちゃんはムスッとした。


「とんでもない。ラムティース様は非常に賢い方ですので、我々も助けられているのですよ。ところで、今日はお調べモノがあると、お聞きしましたが?」

「はい。今日は、我が国の建国時代の書物と、不死の王ハンズについての書物を拝見しに参りました。よろしくお願いしますね」

「わかりました、陛下。ではこちらへ」――


 というわけで、ここからは、メーティアさんが俺達を案内してくれる事になるのであった。

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