vol.20 死の病
[Ⅰ]
メディアス邸での調査があったその日の夜。
オルフェウス城内は若干物々しい雰囲気となっていた。
それはイアティースも例外ではなかった。
現職の財務を担当する大臣が、非業の死を遂げたので当然といえば当然なのだが、後任の人事などもあるので、イアティースは統治者として権利行使を求められたからだ。
その為、俺とイアティースは、なかなか2人だけの時間が取れず、ずっと仕事詰めの一日だったのである。
だが、それも一段落し、俺とイアティースはようやく寝室に戻って来れたのであった。
そして今はというと、ラブラブモードを邁進中である。
とはいえ、俺は最初、今夜は流石にないだろうと思っていたのだが、イアティースが寧ろして欲しいとお願いしてきたからである。
嫌なモノを見たので、俺に忘れさせて欲しかったとの事であった。
まぁそんなわけで、俺は彼女の意を汲み、一生懸命、誠心誠意を込めて、真心と愛情をイアティースに贈り届けたのである。
話は変わるが、メディアス邸での屋敷調査は、メディアス卿の死という衝撃的な結末によって終わりを迎えた。
あの後、メディアス卿の家族や召使い達は無事に救出され、今は関係先にて保護されているところだ。
ディアーナによる眠りの解除も無事終わり、睡眠状態からは全員が解放されたのである。
だが、この問題の決着のさせ方が問題であった。
なぜなら、ガチの首謀者であるメディアス卿が既に死亡しているからだ。
その為、表向きは、悪魔共がメディアス邸を乗っ取って、主のメディアス卿を殺害し、尚且つ、調査中の女王にも襲い掛かったという超理論で、一応の終息を迎えたのである。
これは宰相のアラム卿の判断であった。
こういう場合、この対応は仕方ないのかもしれない。
互いが疑心暗鬼に陥る可能性を
一応、真相を知ってるのは、俺とイアティースとディアーナ、それと、アレウス様にヘリオス将軍、そして今言ったアラム卿の計6名の者達である。
大人の事情が炸裂しているが、皆、納得してないのは言うまでもない。
色々と後で尾を引きそうな問題である。
つーわけで話を戻そう。
俺はセク○ス後の賢者タイムの中で、メディアス邸での謎を考えていた。
最大の謎であるメディアス卿の死因についてである。
実は今、ニンフル神殿にて、メディアス卿の死体検案みたいな事をしてもらっている。
というのも、パジィズに罹って亡くなった者は、神官の手よって、特殊な棺に封印されるという決まりがあるからだそうだ。
これは患者を蝕む悪霊をその場で封印するという意味合いがあるらしい。
なので、パジィズかどうかの判定が付き次第、俺もその方向で考ねばならないのである。
(ふぅ……今日は本当に、衝撃的な展開が多すぎやわ。まさか、メディアス卿が死んでいたとはな……。おまけに最悪な死に様だ。イアティースは、父と同じような死に方だと言っていたが、本当にパジィズなのだろうか? もしパジィズならば、何者かに一服盛られた説が強くなるんだよなぁ。まぁそう考えるのは、フィーネス神官長の報告が上がって来てからだが……)
ふとそんな事を考えていると、俺の腕枕で寄り添うイアティースが話しかけてきた。
「ねぇ、コースケ……これで本当に終わったのかな? でも、メディアス卿の死で終わりって変よね」
たぶんイアティースも、メディアス卿の死に様が引っ掛かってるのだろう。
イケてる男なら、自分の彼女を怖がらせないように、『あれで終わりさ、心配すんな』などと
正直に見解を述べよう。
「終わらないと思うよ」
「やっぱり……まだ裏切り者がいるという事よね? コースケも以前、そう言ってたし……」
「ああ……それにまだ確定じゃないが、メディアス卿の死因が本当にパジィズなら……以前、俺が言ったイアティースの狙われる理由に直結するんだよ。しかも、それと同時に、ソイツはパジィズを操れるって事になる……厄介な事にね」
「え?」
するとイアティースは半身を起こした。
「パジィズを操れる? ……どういう事?」
「今日のアレが、もしパジィズなら、2つの意味がある。まず1つは、意図的にパジィズを感染させられるという事。そしてもう1つは……病状を自由に操れるという事だ。イアティースのお父さんは、パジィズに罹って亡くなるまで20日くらい掛かったそうだが、今回のメディアス卿は、俺達が閉じ込められていたあの僅かな間で、末期症状になったという事だからね。……手強い上に恐ろしい相手だよ。何れにせよ、神殿からの判定を待ってからだけどな」
俺の話を聞き、イアティースは青褪めた表情で息を飲み込んだ。
言っている意味を理解したんだろう。
死の病を自由に操る悪魔が身近にいるという可能性に、戦慄を憶えたに違いない。
イアティースは悲しげな表情で、俺の胸に顔を預けてきた。
「コースケ、私怖いよ……。なぜオルフェウスは、こんなにも災いが降りかかるの? 私、わけがわからない……」
今の言葉はまさに、この物語の核心とも言うべき部分であった。
「確かに、なぜだろうね……。でも、それが解れば……この一連の真相を解明できたという事だよ。良い結末か、悪い結末かは、ともかくだけどね」
「そうだね。その時は……良い結末がいいな……」
イアティースは弱気のようだ。
少しラブを注入するとしよう。
俺はそんなイアティースを優しく包むように抱き、軽くキスをした。
「いいな、じゃない。良い結末にするんだよ……俺達にはそれ以外にないんだから」
「うふふ、そうだったね。コースケは頼もしいから大好き。今日も私の為に、勇敢に戦ってくれたもんね。ニューフェンの女は、護ってくれる勇敢な男が大好きなの……愛してる、コースケ」
するとイアティースは、お返しとばかりにディープキスをしてきたのである。
俺もねっとり倍返しだ。
「愛してるよ、イアティース。俺はイアティースをずっと護り続けると誓ったんだから……とりあえず、家の神棚にだけど……」
「本当にずっとなんだからね。それに……貴方はもう、私の夫みたいなモノなんだから、護り続けなきゃダメなの」
はい、なんか凄い単語が来ました。
「お、夫?」
「そうよ。もう決めてるんだから。私達の良い結末は、それ以外にないの。それをすっかり忘れてたわ」
なんか知らんが、やる気スイッチが入ったみたいだ。
というか、かなりディープな話である。
まぁとはいえ、俺もちゃんと向き合わねばならない問題だろう。
イアティースとの関係は、この先ずっと続くからである。
「あ、それはそうと、コースケ。今日は……ごめんね」
「ん、なんで?」
「ディアーナの事よ。私、コースケに相談せずに決めちゃったから……」
意外と気にしいなイアティースであった。
「ああ、それの事ね。いいよ、別に。寧ろ、ちょっと感心したくらいだよ。イアティースって良い女王だなって思ったし」
「本当に? コースケにそう言ってもらえると、凄く嬉しいよ」
するとイアティースは、少し照れつつ、無邪気な笑顔を見せたのである。
もしかすると、女王としての仕事では、あまり褒められた事がないのかもしれない。
「あれは良い判断だと思ったよ。ところで彼女、明日のいつ頃来るの?」
「ニンフル神殿の礼拝の護衛からよ。でも、コースケは……変な目でディアーナの胸を見たらダメだからね」
「え? 俺、今日はそんなに見てなかっただろ」
「よく言うわ。だって最初、大きな目をして、ディアーナの胸をジィーと見てたじゃない。私、ちゃんと見てたんだからね」
イアティースは半眼でそう言うと、頬を膨らました。
(よく見てんなぁ……)と思ったのは言うまでもない。
まぁ確かに、釘付けだったのは事実である。
後でディアーナに聞いて知ったのだが、あの服装は俺の注意を引く為に、メディアス卿に指示されての事らしい。
それに関しては、してやられた感じだ。
「あのな……言っておくけど、俺は大きいのより、小ぶりな方が好きなんだよ」
などと言いつつ、俺はイアティースのお椀型の胸を優しく愛撫したのである。
小ぶりだが張りがあり、ふっくらと柔らかい。その上に乗るピンク色の小さなツボミが可愛くて美しかった。
愛でたくなる一品である。
つーわけで、もうこうなったら、実力行使で黙らせるほかないだろう。
ついでに下もや!
するとイアティースは、この突然の2か所攻撃にたまらず、口元を押さえた。
「え……あ……ちょっ……コースケ、そ、そんなにしたら……ま、また……やん……し、したくなっちゃうよ」
そんな声が小さく漏れ出てきたが、抵抗は全然していない。
イアティースは期待してるのか、恍惚とした表情で俺を見ていた。
おまけに、湿地帯はすごい濡れ具合であった。
やるなら、今でしょ。
「いいじゃん、すれば。愛してるよ、イアティース」
「ンもう……大好き、コースケ……あぁ……」
そして、第2ラウンド開始のゴングが鳴ったのである。
[Ⅱ]
翌日の朝食後、イアティースの言っていた通り、ディアーナは護衛の兵士や魔導師達と共にやって来た。
ディアーナは魔導師達の中で唯一の褐色肌であった。
その所為か、ディアーナは少し遠慮気味だった気がした。
まぁこの辺は仕方ないのかもしれない。
そのうち慣れてゆくことだろう。
ちなみに、その服装はシンプルなモノで、白いキトンと紺のローブという、色は違うが、ほぼ俺と同じような出で立ちであった。
少しは胸の出っ張り具合も期待していたのだが、それは皆無である。
つまり、色気も何もない、その他大勢と同じ服装だったのだ。
もう残念というほかないだろう。
いつの日か、日の目を見る事を願うばかりである。
まぁそれはさておき、その後、俺達はニンフル神殿へと向かった。
そして、イアティースはいつも通り、女神像の前で礼拝を行い、
これはその後の話だ――
俺とイアティースは礼拝の後、フィーネス神官長に、以前訪れた来賓の部屋へと案内された。
ちなみに、部屋にいるのは俺達だけだ。
他の者達は外で待機中である。
「イアティース女王陛下、そしてコースケ殿……残念なお知らせがあります」
フィーネス神官長はそう言って表情を落とした。
どうやら、俺の予想は当たりのようだ。
「という事は、やはり、メディアス卿は……」
「はい、陛下。メディアス卿はパジィズで命を落としたと思われます。そこでお聞きしたいのですが、メディアス卿はお屋敷で亡くなっていたと聞いたのですが、本当ですか?」
「ええ、本当です」
するとフィーネス神官長は険しい表情で、俯いたのであった。
恐らく、発症と進行状況が見えてこないからだろう。
「メディアス卿は一昨日、神殿にも見えられましたが、元気そのものでございました。パジィズに罹っていたとはとても思えません。一体、どういう事なのでしょうか?」
「それは……」
イアティースはそこで、俺に視線を向けた。
答えてあげて、という事に違いない。
引き受けるとしよう。
「フィーネス神官長、そういう事なのだと思いますよ」
「そういう事とは?」
「このオルフェウスの中に、パジィズを自在に操れる悪魔がいるって事です」
「え? まさか……そんな事がある筈……」
フィーネス神官長は信じられないモノを見るかのように、大きく目を見開いた。
もうこの際なので、神官長にも昨日の事を話しておいた方が良いだろう。
そうじゃないと、信じてもらえないだろうからだ。
「陛下、昨日の事を神官長に話しても良いですか?」
「コースケ殿のしたいようにしてください」
「わかりました。では、フィーネス神官長……ここからは他言無用でお願いします。詳細な話をお教えしますので」
「他言無用……わかりました。今から聞く話は、私の胸の中だけに仕舞っておきます」
「ありがとうございます。ではお話ししましょう。実は昨日の朝……」――
俺は昨日あったメディアス邸での話を順を追って説明した。
フィーネス神官長はそれを聞き、かなり驚いていた。
俄かには信じられないのか、室内を行ったり来たりして、少し取り乱していた感じだ。
悪魔と手を組み、国家転覆を図っていたと聞けば、まぁそうなるのも無理はないのかもしれない。
そして、その事実に気付いた俺達をあの場で始末しようとしていたと聞けば、尚更だろう。
「そのような事があったのですね……なんと、恐ろしい事を……」
フィーネス神官長は少し狼狽えていたが、納得はしているようだ。
メディアス卿の死に様が色々と問題アリなので、複雑な気持ちだろうが、肯定的に受け止めざるを得ないのだろう。
「コースケ殿……貴方はメディアス卿の件、どう考えておいでなのですか? 悪魔達はメディアス卿を利用するだけして、最後はパジィズで殺してしまったとお考えで?」
「まぁあの状況を見ただけなら、普通はそう考えるでしょうね。事実、ヘリオス将軍やアラム卿は、それでも信じられない御様子でしたから。ですが……真相はもっと歪で、深い怨念のようなモノが蠢いている気がします」
これは俺が勝手に考察している事だが、王の証……つまり生命の輪が、この一連の問題に起因してるなら、その根の先は建国の時代まで遡る事になるからだ。
考えたくない事だが……一応、頭の片隅には置いておかねばならないだろう。
とはいえ、ちょっと勘弁して欲しいところである。
「もっと歪……それは一体?」
「恐らく、ここ最近続いているオルフェウスの災いですが、私は全て1つの意思の下で動いてると思っております」
「え? 1つの意思の下……コースケ殿はそれが何か……わかるのですか?」
誤解を与えるといけないので、俺はキリッとした真剣な表情で、正直に答えておいた。
「それが……サッパリわかりません」
「で、ですわよね」
「コースケ殿、そんな顔して言わないで下さい。わかったのかと思いましたわ」
イアティースとフィーネス神官長は、力が抜けたように肩を落とし、大きく息を吐いた。
変に期待をさせてしまったようだ。
「ところで、フィーネス神官長に訊きたい事があるのですが?」
「はい、何でしょう」
「先程、メディアス卿が一昨日来たと仰いましたが、何の用で来たのですか?」
「それは礼拝で来られたのですよ。メディアス様は熱心な信者ではございませんが、礼拝している姿を見せておかないと、やはり、下の者達に示しがつかないとお考えなのでしょうね」
つまり、世間体の為、礼拝しに来ていたようだ。
まぁこういうのは、しょうがない部分もあるだろう。
現実世界でもよくある事だからだ。
「という事は、高位な貴族の方々は皆、礼拝をされに来るんですね」
「そうですね。他の王族の方々や、アラム卿もそうですし、ヘリオス将軍やレオナール卿もよくお見えになられますよ。ですが……アレウス様は、3年くらい前から来なくなりましたが……」
「え? アレウス様は礼拝に来られてないのですか?」
意外な情報であった。
今聞いた感じだと、重鎮連中は世間体的に礼拝しているので、アレウス様もしてそうに思えたからである。
「はい……アレウス様はその頃、魔導学研究所・エアンディールにおられたのですが、その時は良く来られてました。ですが、丁度その頃、お父上が無くなられたのです。お父上も主席宮廷魔導師でした」
「そうなのですか……で、アレウス様がその跡を継いだのですね」
フィーネス神官長は頷いた。
「ええ、そのとおりです。主席宮廷魔導師は世襲ではないのですが、アレウス様は誰からも認められるほどの実力を既にお持ちでした。それもあり、先代の王の時に、主席宮廷魔導師に抜擢されたのです。それ以降ですね、礼拝に来られなくなったのは……。アレウス様は主席としてのお仕事がお忙しくなったので、来れなくなったのでしょう。でも、今は代理の者がアレウス様の代わりに、礼拝に来ていますよ」
「そうなのですか。忙しいのなら仕方ありませんね」
なぜか引っ掛かりを憶える話であった。
「さて、コースケ殿、他には何かございますか?」
「それでは最後にもう1つだけ、お聞かせください。ニンフル神殿では、パジィズに罹ったかどうかの判定は、どうやって下しているのですかね?」
これはずっと気になっていた事であった。
なぜなら、パジィズかどうかは、神官じゃないと最終的な判定が下せないと聞いたからだ。
ちなみに言ってたのは、イアティースとアレウス様である。
「それはですね、癒やしの力を使えばすぐにわかりますよ。パジィズに罹った者は癒やしの力が届かなくなるので」
「癒やしの力が届かない……本当ですか?」
「本当ですよ。それこそが、パジィズが死の病と言われる
「届かないとは……どんな感じなのですか?」
するとフィーネス神官長は思案顔になったのである。
説明が難しいのかもしれない。
「コースケ殿……口で言うよりも、実際見ていただいた方がよろしいかも知れませんね。メディアス卿のご遺体は棺に入る前ですので、今ならお見せできますよ」
これは思いがけない提案であった。
俺はイアティースに視線を向けた。
「コースケ殿が確認したいのなら、私は構いませんよ」
「ありがとうございます、陛下。ではフィーネス神官長、拝見させて頂きます」――
その後、俺達は神官長に案内され、神殿の裏手にある『旅立ちの聖堂』という施設へ移動した。
そこは少し小さめの施設だが、女神像に見送られるような神聖な建造物であった。
早い話が、ここで遺体を整え、納棺するのだろう。
現実世界の葬儀屋みたいな場所なのかも知れない。
まぁそれはさておき、俺とイアティースはそこで、メディアス卿と2度目の対面となったのだが、その皮膚のゾンビ具合といったら怖いくらいであった。
全身が青黒く変色している上、耳が長いので、悪魔みたいな見た目なのである。
とても怖い遺体であった。
(しかし……こんなに皮膚って群青色になるもんなんだな。昔、欧州で流行った
ふとそんな事を考えていると、フィーネス神官長は実演を始めた。
「ではコースケ殿、今からよくわかるように、強めの癒しの力を使いますので、ご覧になってください」
フィーネス神官長はそう言うと、メディアス卿の遺体に手をかざした。
そして、呪文を唱えた次の瞬間、光り輝くミストのようなモノが、神官長の掌からシャワーのように放出され、メディアス卿の身体を包み込んでいったのである。
だが、そこで不思議な事が起きた。
なぜなら、光は遺体の少し手前で止まってしまったからだ。
距離にして、遺体から10cmくらいだろうか。
それはまるで、メディアス卿の遺体周囲には、目に見えないバリアでもあるかのような現象であった。
「コースケ殿……見てください。パジィズに罹った者は、死しても尚、癒やしの光は届かぬのです。普通は死んだ者にも届くには届くのですが……ご覧の通りですよ」
「こんな事になるのですね……恐ろしい病気だな」
「私の父の時もそうでした。後はもう、症状を少し和らげるニンフルの秘薬しか手が無いのです」
イアティースそう言うと、下唇を噛んだ。
色々な思いが交差してるのだろう。
まぁそれはさておき、癒しの光は程なく、霧散して消えていった。
回復魔法が効かないというのが、かなりヤバい感じである。
「怖い病気ですね……では、俺も試してみますね」
「え?」
「あ」
俺はそこでメディアス卿の遺体に左手をかざした。
「アン……ニントゥ……」
続いて俺は、瞑想で得た呪文を思い出しながら唱えたのである。
するとその直後、神官長と同じような光のシャワーが掌から放出されたのだ。
だが結果は同じであった。
「俺のも駄目ですね……でも、今やってみた感じだと……これは光が届かないのではなく、遺体そのモノが光を押し返してるように見えますね。相反する力が働いている感じです。これが中に潜む悪霊の力なんですね。ン?」
俺はそこでフィーネス神官長とイアティースに視線を向けた。
すると、対照的な表情で驚く2人がそこにいたのである。
フィーネス神官長は感激したかのように胸の前で両手を組み、方やイアティースは、若干怒り気味の視線を送っていたからだ。
(あ……やってもうた……これ、アカンやつやんか……)
俺はそこで理解した。
自分がやっちゃいけない事をしたのを……。
「素晴らしい! コースケ殿、貴方は非常に才能豊かなお方なのですね! しかも中々に強い癒しの力をお持ちみたいです」
フィーネス神官長はそう言って、嬉しそうに俺の右手を取った。
しかし、その後ろにいるイアティースは、物凄い怒りのオーラを放ちながら、俺を睨みつけるのであった。
背筋が寒くなってきたので、俺はここで撤収する事にした。
「フィ、フィーネス神官長、では貴重な体験ありがとうございました。これ以上の滞在になりますと、陛下の執務に影響が出ます故、私はこれにて失礼させて頂こうと思います」
「あら、そうですか。それは残念ですね。でも、また貴方とは色々とお話ししたいです。是非、今度また、お茶でも飲みながら、ゆっくりとお話ししましょう」
「ははは、では失礼いたします」――
俺は笑って誤魔化しながら、この場を後にした。
その道中、イアティースから小声でお叱りがあったのは言うまでもない。
「貴方ねぇ……この前言ったの、もう忘れたの! 使えるって言っちゃダメって、言ったでしょ。しかも神官長の前で実演してどうすんのよ! これから、礼拝に行き辛くなったじゃないの」
「申し訳ありません、陛下。全て私の不徳といたすところです」
「もう起きてしまった事は仕方ないわ。でも、神官長の誘いに乗っちゃダメだからね。いい?」
「御意」――
とまぁそんなやり取りをしつつ、俺達はオルフェウス城へと戻ったのである。
そして、そんな俺達のやり取りをディアーナは首を傾げて見ていたのであった。
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