vol.16 因果の考察
[Ⅰ]
執務室で初のファイル綴じバイトをした日の夜のお話である。
俺とイアティースは、また例の如く、静かに、そして熱く、身体を求め合い続けていた。
特にイアティースは、待ちきれなかったとばかりに俺を強く求めてきた。
俺はそれに答えるよう、指と舌を使い、彼女の胸や秘部をいつも以上に丁寧に愛撫してあげた。
イアティースは手で口元を覆い、声を殺しながら、快楽に身を委ねている。
施術者の俺に対し、もっともっとと、身体を押し付けてくるくらいだ。
俺はそんな彼女の要求に対し、愛情たっぷりに答えてあげた。
そして、その後、俺も彼女にしてもらい、互いの準備が整ったところで、俺達は静かに1つになったのである。
すると、俺の性剣・エクスカリ棒をイアティースの性堂に奉納した瞬間、気持ち良すぎたのか、彼女は身体を震わせながら動きを止め、暫くその余韻に浸っていた。
だが程なくして、イアティースの唇が小さく動いたのである。
「あぁ……コースケ……来て……もっと貴方を感じたいの」
俺は何も言わず、行動で示した。
イアティースの声が僅かに漏れる。
「あぁ……コースケ、愛してる……凄いよ、あぁ」
そして、それを合図に、俺とイアティースは、堰を切ったかの如く、静かに、そして熱く、時に激しく、一心不乱に交わったのであった――
以上、女王の寝室からのリポートでした。
って……そうじゃない。
話はここからだ。
生命の輪の影響でおかしな事を書いてるが、読んでる諸君は気にしないでくれたまえ。
さぁ話を戻そう。
俺とイアティースは行為の後、裸のまま身を寄せ合い、徐々に落ち着きを取り戻していった。
イアティースはかなり満足したようで、俺に褒美のキスを一杯してくる始末である。
「コースケ、大好き。今日のコースケ、凄かったよ。私、おかしくなりそうだったもん……」
「それは良かった。俺もイアティースがして欲しい所が、わかってきたからかな」
イアティースは赤くなり、恥ずかしそうに頬を膨らました。
「もう……コースケったら。そんな風に言わないでよ。恥ずかしいじゃない……」
「ゴメンゴメン、俺もニューフェンの女性の感じる場所とかが、まだよくわからないから、必死なんだよ」
だが、俺がそう言った直後であった。
イアティースは不機嫌そうに目を細めたのである。
「ちょっと、コースケ……その言い方はやめて。コースケは私だけのモノなんだからね。私だけを見てればいいの。他の女なんてどうでもいいんだから。もし、そんな事になったら私……耐えられなくなって……自分で命を断っちゃうかも……」
俺はそれを聞き、2つのゴールドオーブが縮みあがってしまった。
つまり、浮気は死を意味するからである。
恐らく、イアティースなりの警告なのだろう。怖ッ。
「お、おいおい……俺はイアティース以外の女性に興味なんてないよ。俺はイアティースが好きで好きでしょうがないだからさ。俺にはイアティースだけなんだよ。つーか、そんな事を言う口は、こうしてやる!」
俺はこの嫌な空気を打開する為、そこでディープキスをお見舞いしておいた。
イアティースもお返しとばかりに、舌を絡ませてくる。
そうやって俺達は、愛を確かめ合ったのである。
「コースケ、愛してる。大好きよ。コースケは私だけのモノなんだからね。絶対なんだから」
「俺もだよ、イアティース。俺には君しかいないんだ。そう、君だけなんだよ。だからこそ、君だけなんだと思います」
俺は安っぽい恋愛ドラマやどっかの政治家、又はアイドルが歌う歌詞のような寒いセリフを吐きながら、イアティースを勢いよく抱き寄せた。
するとイアティースは、満足そうに微笑んでくれたのである。
クッソ寒いセリフだが、嘘偽りはないので、イアティースの心に無事届いたようだ。
とりあえず、これで一安心である。
とはいえ、少し背筋が寒くなる一幕だったのは言うまでもない。
以後気をつけるとしよう。
誤解でも、場合によっては死ぬ可能性があるからだ。
「ねぇ、コースケ……今日の執務室での事なんだけど……何かわかったの? あの時のコースケ、何かに気付いたように感じたから」
女の勘ってやつだろう。
四六時中、常に俺と一緒なので、表情で何となくわかったのかもしれない。
「まぁね。なんとなくだが……今回の騒動の中身が見えてきたよ」
「え、本当に? じゃあ、どう言う事なの?」
「俺の予想では……この城内に裏切り者がいるね」
イアティースの表情が曇る。
「もしかして……メディアス卿?」
「恐らくね。でも、彼だけではない。まだいるはずだ……」
「やだ……コースケ、どうしよう。裏切りだなんて……」
不安そうな表情で、イアティースは俺にしがみつくように、抱きついてきた。
衝撃的な内容だが、イアティースには我慢してもらおう。
元を断たないと、俺達の生死に直結する話だからだ。
「今、それを考えてるところだよ。俺も死にたくないんでね。イアティースを狙う奴等の根元を断たないとな。ところで……1つ訊きたいんだけど、イアティースは不死の王の襲撃前も、命を狙われた事あるの?」
イアティースは怯えた表情で、ゆっくりと首を縦に振った。
「うん……実は、コースケと鏡越しに会う前に、一度襲われたの……私、あの時の事、今でも思い出すわ……凄く怖かったんだからッ」
と言ったその直後、俺の首が締まりそうなほど、イアティースは強く抱きしめてきたのである。
たぶん、当時の記憶が蘇って来たのだろう。
それはともかく、やはり、イアティースには襲われるナニかがあるのかもしれない。
俺はイアティースを優しく包むように、抱きしめてあげた。
彼女から震える振動が伝わってくる。
「ゴメン、嫌な事を思い出させたね。大丈夫だよ。今は俺がいるから安心して」
「あの時はコースケいなかったもん……本当に怖かったんだから」
「そっか……それで、何があったんだ? 俺も今の状況を知る為に、出来れば聞きたいんだよ。でも、話したくなければ、無理に話さなくてもいいよ」
「……わかった。話すわ。コースケには知っておいて欲しいから。実は……私が女王として戴冠して30日くらい経った頃……ニンフル神殿へ礼拝に行く途中、あの悪魔に襲われたの……」
「あの悪魔?」
「昨日、謁見の間で襲いかかってきたアイツ等よ。あの時と同じで3体だったわ。あの謁見の時……昔の記憶が蘇って来て、私は恐ろしさのあまり動けなかった。でも、今回はすぐにコースケが来てくれたから、前回とは違うんだって、あの時、ホッとしたの……今の私には、コースケがいるから大丈夫だって……」
どうりで人前にも関わらず、あの時、俺に抱きついて来たわけだ。
怖さのあまり、我慢できず、俺に身を寄せてしまったんだろう。
「という事は、負傷したのか?」
「うん……あの時の護衛は今の半分くらいだったから、私も腕と肩に傷を負ったの。でも、ニンフル神殿の割と近くだったから、私、慌ててそこに逃げ込んで……なんとか助かったのよ」
イアティースはそう言うと、更に身体を震わせた。
相当怖かったのだろう。
トラウマになるくらい。
「そっか……大変だったんだな、イアティース。俺がその時いればなぁ……でも、無事で良かったよ。ところで、その後、悪魔はどうなったの?」
「あの悪魔は……護衛兵士2名の命を奪って、それからも私を執拗に狙ってきたけど、ニンフル神殿の神殿騎士と神官達によって、なんとか退治されたらしいわ。噂によると、神殿騎士達が何回も斬りつけないと倒せなかったみたい。だから、相当手強かったそうよ。私を癒やしてくれたフィーネス神官長も、そう仰っていたわ」
これで合点がいった。
あの襲撃で、フィーネス神官長がイアティースの事を心配してたのは、前例があったからのようだ。
実はあの時、ニンフル神殿に行く意味が分からなかったのである。
つまり、イアティースに神殿で落ち着いて貰うというのは、当時の忌々しい記憶を緩和させる為のモノだったのだろう。
(なるほどね……そういう事か。イアティースも大変な目に遭ってたんだな。だが……まだ狙われる理由がわからない。問題はそこだ。もしかすると、この謎を解く鍵は、イアティースの親父なのかもしれないな……)
そう、俺はなぜか、そんな気がしたのである。
とりあえず、その当時の状況を知る必要がありそうだ。
「そういう事があったんだな……ありがとう、辛いのに話してくれて。そこで訊きたいんだが……お父さんは死の病で亡くなったと言ってたけど……その病気になったのっていつ頃なの?」
「え? お父様の病?」
するとイアティースは、身体を少し起こし、俺をキョトンとしながら見たのである。
予想外の質問だったのかもしれない。
「そう、お父さんの病気になった時期だよ。それと出来れば、どんな病気だったか教えてくれると助かるかな」
「お父様の病気……何か関係があるの?」
「まだわからない。だが、もしかすると、まさか……という事も、あるかもしれないんでな。ちょうどその頃なんだろ? 不死の王の封印が解けたのは? 物事というのは、思い掛けない繋がりがあったりするからね」
俺の言わんとしてる事がわかったのか、イアティースは真顔で頷いた。
「お父様は、今から1年ほど前に、死の病パジィズに掛かったわ……そしてパジィズを発症して20日後に息を引き取ったの」
「パジィズ?」
初めて聞く病名だが、20日程で死ぬという事は、エボラ出血熱並みの殺傷力である。
確かに恐ろしい病気だ。
「怖い病気よ……罹ったら最後、もう成す術なく、衰弱して死んでゆくの。悪魔のような病気だわ」
「それは怖いね。で、どんな感じで悪くなってゆくの?」
「最初は普通に疲労感や高熱、それと咳から始まるんだけど……次第に、身体が青黒く蝕まれてゆくの。治療に当たったフィーネス神官長は言ってたわ。パジィズは邪悪な悪霊の力が身体に入り込む事で起きる病気だと。そして身体の中に入ったらもう、後はその者が持つ悪霊に抗う力でしか対処できないと言ってた。つまり、殆どの者はパジィズに負け、命を落としてしまうと……」
なかなか恐ろしい病気のようだが、ウイルス性ではなさそうだ。
とはいえ、そう判断するのは、これを訊いてからにしよう。
「それは怖いね。ところで、パジィズに罹ったのはお父さんだけ? オルフェウス城で他に罹った者はいないの?」
「パジィズに罹ったのはお父様だけよ」
「そうか……お父様だけ、か。不思議だね、お父さんだけが罹るなんて……」
「確かにそうかもしれないけど……でも、罹ったのは事実なのよ。時々、オルフェウスでも、コレで死ぬ者もいるから……」
この病気については俺もよくわからんが、都合よく1人だけ罹患するなんて事があるのだろうか?
何れにしろ、注意が必要な事案である。
「なるほど、珍しい病気ではないって事ね」
「珍しいのは珍しいけど……みんな知ってる病気よ。どう、何かありそう? もしかして……お父様も不死の王に殺されたのかな」
「その可能性も否定は出来ないよ。だが何れにしろ、その判断を下すのは、もっと確実性のある裏付けがないとね。ちょっと調べる必要があるかな……」
「お父様の事を調べるのはなぜなの? 何か理由があるなら教えて欲しいの」
イアティースは真剣な表情で、俺を見ていた。
ここまで話したら、こうなるのも無理はないだろう。
それに俺達は運命共同体だ。
とりあえず、現時点での俺の考えも、一応話しておくとしよう。
「俺はね……イアティースが狙われる理由を知りたいんだよ。俺が知ってるだけで、イアティースは3回も殺されかかってるからね。となると、何か理由がある筈なんだ。君のお父さんがもし、そのパジィズとやらを誰かに盛られて殺されたのだとしたら……」
俺はそこで言葉を切り、イアティースを見つめた。
ちょっと言い難かったからだ。
「だとしたら?」
「考えられる理由は1つしかないよ。イアティースが先王から継承したナニかという事になる。そうすると考えられるのは……額にある王の証……つまり、生命の輪なのかもしれない」
「えッ、生命の輪!?」
イアティースは目を見開き、口元を手で覆った。
「もうそれしか考えられないね。だが何れにせよ、今は仮の話だ。でも頭の片隅には入れておいた方がいい。俺達は運命共同体だからね。それとコレは、俺達だけの秘密にしよう。他言無用だよ」
「う、うん」
とりあえず、この話は終わりにしよう。
後は、昨日撒いた種が発芽するかどうかだ。
「さて……それはそうと……寝る前に少し本を読みたいんだけど、燭台に火を灯してもらってもいい? 1本だけでいいから」
「良いわよ」
イアティースは小さく呪文を唱えた。
彼女の指先に火がボワッと現れる。
続いてイアティースは、枕元にある燭台の蝋燭の1つに火を灯した。
室内が少し明るくなる。
俺はそこで、枕元にあるボディバッグから、グリム童話集を取り出した。
するとイアティースが甘えるように、俺の胸に顔を預けてきたのである。
「コースケ、今から何を見るの? 初版版グリム童話集ってそれに書いてあるけど」
「そう、グリム童話集だよ。今から……ん?」
俺は今のやりとりに違和感を覚えた。
なぜなら、辻褄が合わない事が起きているからだ。
「なぁイアティース……この本の文字読めるの?」
イアティースは困った表情で頷いた。
「それが……こんな文字知らないんだけど……なぜか読めるのよ。なぜかわからないんだけど」
どうやらイアティースにも起きてるようだ。
気になる現象である。
「奇遇だね……俺もさっき、同じ体験をしたんだよ」
「え、どういう事?」
「実はね、執務室であの書類を整理してた時……俺もこの国の文字を知らないにも拘わらず、なぜか読めたんだよね。どう思う?」
「じゃあ、コースケもなの? でも、私に訊かれてもわからないわよ。コースケはどう考えてるの?」
「もしかすると……生命の輪の影響か、もしくは……」
俺はそこで、カーテンで覆われた聖なる鏡の間の入口を指差した。
「以前イアティースが言ってた知識の泉……なのかな」
「知識の泉って……あれ、ただのお風呂じゃない」
「うん、お風呂だね……」
「そんな事って、あるの?」
「さぁ……」
そして俺達は、暫し無言で、聖なる鏡の間を見続けたのであった。
[Ⅱ]
イアティースが俺の国の文字を読めると知った翌日の朝。
俺はなぜか、王族の朝食に招かれた。
よくわからんが、どうもヘレーナ太后様が侍従長に口利きをしたからのようだ。
というのも、先の謁見の間での出来事が太后様の耳に入ったようで、そのお礼も兼ねているのかもしれない。
まぁ何れにしろ、俺は王族の食卓に招かれているのである。
で、今はゴージャステーブルで食べているところであった。
ちなみに、俺は来賓扱いらしく、イアティースの対面に座っているところだ。
いつもと違う位置の為、なんか違和感があったのは言うまでもない。
イアティースはそれが嬉しいのか、俺に笑顔を送っていた。
だが、俺は苦笑いである。
なぜなら、この事を知らなかった俺は、自宅で既に牛乳ぶっかけシリアルなどを食べてきたからだ。
なので、そんなに腹が減っていないのである。
目の前にあるラスクのような硬いパンとスープ類は食べれそうだが、肉系の料理は入るかどうか賭けになりそうだ。
招かれておきながら残すのは悪いので、なんとか頑張るとしよう。
つか、前もって言っておいて欲しいと思う今日この頃であった。
ふとそんな事を考えていると、ヘレーナ太后様が俺に視線を向けた。
「コースケ殿、侍従長とアラム卿から聞きました。先の謁見の間で起きた悪魔の襲撃……見事に押さえ込んだそうですね。危機の際は、即座にイアティースの前に立ち、凶悪な悪魔を鮮やかに撃退したと聞き及んでおります。誠にありがとうございました。こんな場ですみませんが、御礼を申させて頂きます」
「いえ、お気になさらないで下さい。私は陛下の護衛として、当然の事をしたまでですから」
「これからも、イアティースの事を宜しくお願いしますね。イアティースは父と母を早くに亡くし、この若さで女王となりました。今は貴殿のように、頼れる者が必要なのです。どうか宜しくお願いします」
「はい、今後も精一杯、陛下を御守りいたします。どこまでも……」
ヘレーナ太后様は、イアティースの一番の理解者なのかもしれない。
なんとなくそんな気がした一幕であった。
「コースケ殿、私からも一言申させて貰いたい」
続いて、なぜか、レオナール卿が俺に話しかけてきた。
「先の謁見における貴殿の戦いぶりに感服いたしました。エンギルの力をあのように駆使して戦われる貴殿を見て、城の兵士の中にはエルドアの勇者だと言う者もいるくらいでした。私もそれらの者と同じく、大変驚いたところです。また今後とも宜しくお願いいたしますぞ、コースケ殿」
レオナール卿は満面の笑みでそう言いきった。
「有り難き御言葉です。こちらこそ、宜しくお願いいたします……」
なんかあの一件以降、皆の目が変わってしまった気がする。
もしかすると、昨日の執務室でのチラ見も、それが原因なのかもしれない。
これはこれで、面倒くさそうな展開である。
「コースケ様、私からもお礼を言わせて下さい」
すると今度は、俺の隣の席に腰掛け、髪をツインテールに結ったラムティースちゃんがお礼を述べたのである。
「お姉様を護って頂き、ありがとうございました。今、宮中では貴方の話で持ちきりですよ。この国では、勇敢な男が何よりも尊重されるのです。お姉様が選ばれたアシュナの護衛は、勇敢な騎士にして凄腕の魔導師だと称えられているのですよ。そして……不死の王を倒したというのも、本当かもしれないと言われてますからね」
ラムティースちゃんは年の割に、大人のような話し方をする子であった。
王族なだけあり、そういう教育はちゃんとなされているのだろう。
「ちょっと、ラムティース……私が嘘を言ったとでも思っているのですか? 私は嘘なんて言ってませんよ。本当の話です」
「でも、お姉様は時々、私に嘘を言う事もございますので、俄には信じられなかったのですよ」
「あら、そうだったの。ですが、これは事実です。コースケ殿は本当に、不死の王を倒したのですから」
「私はお姉様のように、そうなんでも簡単に信じない事にしているのです。今後は、魔導学研究所・エアンディールへ進もうと思っておりますのでね。魔導学は疑うことから始まりますから」
なぜか知らんが、この場の空気が張り詰めてきた感じがした。
心なしか、イアティースの額に、薄っすらと血管が浮き出ているような気がする。
何かヤバい空気だ。
「あらぁ、それは大変ですね。オルフェウスのエアンディールに、貴方が進もうとしてるなんて初耳だわ。でも貴方がついて行けるのかしら? あそこは相当優秀な者でないと、ついて行けないわよ」
「ご心配には及びませんわ、お姉様。私は日夜勉学に励んでおりますから。お姉様は私の心配なぞせず、この国の女王としてもっと頑張って頂ければよろしいかと」
「あら、私が頑張っていないとでも?」
「いえいえ、そうは言っておりませんわ。お姉様ならば、もう少しできると思ったものですから」
「へぇ、私の何がわかるのか知りませんが、貴方のような自信家はいつか足元を掬われますわよ」
「何を仰いますか。私の自信は根拠があってのモノなのです。絶対的な確信を持っての事ですからね。お姉様のように、あやふやな自信ではありませんわ」
あちゃぁ……てな感じであった。
この姉妹、普段から仲が悪いのだろう。
2人共、言葉の節々にトゲがあるからだ。
他の者達は溜め息を吐きながら、その光景を見ていた。
俺は初めて見たが、もう見慣れてるのか、全員が呆れ顔である。
「へぇ、どんな根拠か知りませんが、大した自信だこと。でも、この世の中に絶対なんてモノはありませんわよ。少々、魔導学を研究しているからといって、自惚れ過ぎでは?」
「自惚れですって!」
とうとうキレたのか、ラムティースちゃんは勢いよく立ち上がった。
するとイアティースもそこで立ち上がる。
「そうよ、自惚れです! 世の中、貴方が知らない事なんて沢山あるんだから!」
と、その時であった。
「おやめなさい!」
ヘレーナ太后様が、大きな声で一喝したのである。
場はシーンと静まり返った。
「座りなさい……イアティースにラムティース。見苦しいですよ。今は客人をもてなす朝食の時です。場を弁えなさい。ラムティースは王族としての慎みをもっと持つように! それにイアティース……貴方は仮にも女王なのですから、相応の振る舞いを忘れぬように! 良いですね? 返事は?」
「はい、おばあ様……」
「申し訳ありません、おばあ様……」
2人共、シュンと小さくなっていた。
これは流石に、元王妃という貫禄であった。
俺も思わず背筋を伸ばしたくらいである。
そして若干気まずい空気の中、食事が再開されたのである。
(ふぅ、ビックリしたよ。しかし、今度は……別の緊張感が漂ってるなぁ。つか、この姉妹、こんなに仲が悪かったとは……ン?)
するとそんな中、侍従長が慌てた様子で、この食堂に入ってきたのであった。
侍従長はそこでイアティースに耳打ちをした。
続いて、レオナール卿にも。
すると2人共、目を見開き、驚きの表情を浮かべたのであった。
どうやら何かがあったようだ。
「侍従長、コースケ殿にもお伝えして下さい」
「畏まりました」
イアティースの指示に従い、侍従長は俺に耳打ちをしてきた。
その内容はコレであった。
「メディアス卿の屋敷が荒らされ、メディアス卿御自身もいなくなったそうです。この後、執務室にてアラム閣下からお話がございますので、宜しくお願いいたします」
どうやら撒いた種が芽吹いたようである。
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