vol.12 隣国の使者



    [Ⅰ]



 異世界に来てから20日は経過しただろうか。

 ここ最近は女王の執務ルーティンが、大体把握できているので、以前ほどの取っ付きにくさはなくなってきている。

 まぁとはいえ、来賓の謁見が急遽あったりもするので、そういう時はちょっと予定外の行動を強いられるのだが。

 とはいえ、概ねの流れは把握してるので、そこは臨機応変に対応してるところだ。

 そして今日もまた、イアティースの護衛が始まるのである。

 といっても、まずは朝食に同行するだけなので、そんな大した仕事ではない。

 俺も朝食は済んでいるので、後はイアティースの付き人に徹するのみといったところだ。


 話は変わるが、イアティースと関係を持ってからというもの、俺達は毎晩毎晩、互いの身体と心を求め続けていた。

 そんなわけで、俺もイアティースの身体に触れてないところはないくらいだ。

 触診コンプリート状態である。

 だが、ここ最近はお預け中なので、俺ももどかしい気分が続いているのであった。

 なぜかというと、イアティースの生理が始まったからである。

 まぁとはいえ、こればかりは仕方ないのだろう。

 人間と子供が作れる以上、ニューフェンも身体の仕組みは同じだからだ。

 ただそこで、気になる事があった。

 生理が始まってからイアティースは、下腹部に妙な布を当てていたからである。

 ふんどしではないのだが、ちょっとこっちの世界ではお目に掛かれないシロモノであった。

 聞いたところによると、コレが生理の出血の対処方法のようである。

 だが、俺はそれを見て、非情に動きにくそうに感じた。

 その為、後日、俺はイアティースと共に、近所のドラッグストアへ行き、生理用ナプキンを買ってきたのである。

 そして、それを試して貰ったところ、大絶賛されたのであった。


「これ凄く良いわ! こんなのがあったなんて……肌触りもいいし、こんなの初めてよ。これからはずっとコレにするわ。コースケの世界って、なんでもあるのね。いいなぁ」


 てな感じだ。

 まぁそんなわけで、俺の部屋には今、幾つかの生理用品がストックされているのである。

 ここ最近は、イアティースも俺の世界に行きたいと言う事が多くなってきたので、またタイミングを見て、連れ出すことを模索中なのであった。

 つーわけで話を戻そう。


 俺はイアティースの後に続き、王族の食卓へと足を踏み入れた。

 毎度の事ながら、ブルジョワジーな食卓である。

 とはいえ、無駄に意匠が凝らされたデカいゴージャステーブルも見慣れてきたので、以前ほどの違和感はなくなってきたところだ。

 まぁそれはさておき、侍女が上座に位置する王の椅子を引き、そこにイアティースは腰を下ろした。

 それから続いて、数名の王族が入室し、ダイニングテーブルの席に着いてゆく。

 そして俺はというと、ここからはいつも通り、侍女達と共に起立しながら、食事風景を眺める事となるのだ。

 全員が席に着いたところで、イアティースは胸の前で両手を組み、祈りを捧げた。


「大地の母……女神・ニンフルよ、天より我等を見守り……また、大地の恵みを我らに与えて頂き、感謝いたします。また今日も一日、我等を御見守りくださいませ。……では頂きましょう」


 そして、食事は厳かに始まったのである。

 後から聞いてわかったが、ここにいるのは、ヘレーナ太后様とイアティースの妹ラムティース様、それから先王の妹であるラニーナ様とその夫レオナール様、そして、その息子ルシアス様と娘のオフェニア様という方々らしい。

 ここで、見た目を大ざっぱに説明しとこう。

 太后様は、白髪の高齢貴婦人。

 ラムティース様は、12歳の美形女子児童。

 ラニーナ様は30代半ばくらいのアラフォー貴族の美熟女。

 レオナール様は40代のアラフォーで、ザビエル型頭頂ハゲが良い感じの中肉中背親父だ。

 ルシアス様は、思春期の生意気でチャラい貴族の中坊クソガキ。

 オフェニア様は、ラムティース様と同年齢の美形女子児童。

 俺の独断と偏見で野郎共はマイナス補正がかかってるが、まぁ大体こんなところだ。

 また、全員、衣服はキトンとローブ姿だが、色や模様はバラバラであった。

 衣服の仕様上、ここでしか個性を出せないのだろう。

 まぁそれはさておき、なんでここに、先王の妹一家がいるのか知らないが、イアティースが言うには、旦那がこの国の大臣の1人なのと、先王の妹なのが一番の理由らしい。

 おまけに、このオルフェウス城にて一家で住んでいるので、昔からずっと一緒に食事をしているそうである。

 よくわからんが、居候に似た感じなのだろう。

 ちなみにだが、異世界初日の重鎮達の集まりに、このレオナールというオッサンがいたのは俺も覚えていた。

 とはいえ、あの時は外務を担当する大臣とは知らなかったところである。

 それから付け加えると、俺はこのメンツと一度も会話したことがない。

 向こうも得体の知れない俺を見て、恐らく、避けているのだろう。

 まぁその方が俺もありがたいところである。

 これは負け惜しみではない。

 正直なところ、俺もあまり関わり合いになりたくないからだ。

(さて……食事が終わったら、本来は神殿の礼拝だったが、今日は来賓の謁見だったな。さっき侍従長が来て、今日は女王への謁見が急遽行われる事になったと言ってたし。まぁ予定変更とはいえ、そう大したイヴェントでもないし、俺は普通にしてりゃいいか……ン?)

 ふとそんな事を考えていると、食事中の太后様が、俺をジーと見ていたのであった。


「イアティース……貴方の後ろに控えるアシュナの民の方は、名はなんと?」

「コースケと申します、おばあ様。私の専属の護衛騎士として、お願いしているお方です」

「そうですか。女王である貴方がお願いするほどの者ならば、さぞや名のある騎士なのでしょうね」

「おばあ様、コースケは、不死の王の動乱があった際、窮地の私を救って頂いたのです。その手腕を買い、私はそれ以降、彼に護衛をお願いしているのですよ」

「ほう、そうでしたか……」


 ヘレーナ太后は品定めするように、俺を見ていた。

(俺はどう見ても、名のある騎士ではないよな……全然。しかし、ここでようやく、俺の存在に触れる者が現れたみたいだ。とりあえず、適当に挨拶でもしとくか……)

 つーわけで、俺は静かに頭を下げ、軽く挨拶しておいた。


「ヘレーナ太后様、コースケと申します。陛下専属の護衛を賜った者にございます。以後、お見知りおきを……」


 すると、太后様は少し笑みを浮かべた。


「貴方……アシュナの民のようですが、どちらの国のから?」

「遥か東の地にある日いづる国、ジャペェーンから来ました」


 昭和のアイドル歌手の如く、独特のイントネーションで正直に答えておいた。

 どうせ言ったところで、よくわからんだろうからだ。


「ジャペェーン? 初めて聞きました。遥か東の地には、そのような国があるのですね。こちらへは、どうやって?」


 答えにくい事を訊いてくる婆さんであった。

 前の会社で培った世渡りスキル、『煙に巻く』を実行するとしよう。


「私は長い間旅をしておりまして、偶々、この地に辿り着いただけにございます。そして、先の動乱の際に、私も巻き込まれてしまったのです。私はそこまで武芸に秀でているわけではございませんが、ある程度はそういった力を持っておりまして、それで大きな悪しき気配を追ったところ、このオルフェウス城へと辿り着いたのです。そこで色々とあり、今はこうなっている次第であります」


 自分でも怖いくらいに、流暢に嘘八百を並べられた。

 詐欺師なら100点満点である。

 

「なんとそうでしたか。私はてっきり……」


 すると太后様はそこで言葉を切り、なぜか思案顔になったのである。

 思ってた受け答えと違っていたのだろう。

 俺も嘘八百を並べた手前、少し気になるところであった。

 イアティースは首を傾げる。


「おばあ様、どうされましたか?」

「コースケ殿が旅人とは思いませんでしたのでね。私はてっきり、王の寝室の隣にある鏡の間から出てきたのかと思ったのですよ」


 俺とイアティースはギョッと目を見開き、顔を見合わせた。

 するとそこで、ラニーナ様が笑い声を上げたのであった。


「お母様、鏡から出てきたって……突然、何を言い出すのかしら。そんな事あるわけないでしょう」


 あるんだな、それが……と、言ってやりたかったが、知らんぷりしとこう。

 食卓を見ると、全員が俺達のやり取りを見ているところであった。

 ずっと聞き耳立てていたのだろう。


「ラニーナ、貴方は知らないでしょうが、王と妃の寝室の隣には、代々受け継がれている大きな鏡があるのです。聖なる鏡の間といって、代々の王はそこで礼拝をしてきたのですよ。恐らく、イアティースもそれを受け継いでいる筈。そうでしょう?」

「え……ええ、おばあ様、その通りでございます。私もお父様からその伝統を受け継いでおります」


 正直、意外なところからあの鏡の話題が出てきた。

 だがよく考えたら、この婆さんは先々王の妃なので、嘗て、あの部屋の住人だった者である。

 知っていてもおかしくないのであった。


「私もその昔、王から聞きました。あの鏡には、このオルフェウスに危機が迫る時、希望の光・イシュタルトが現れるという、古き言い伝えがあると。とはいえ、言い伝えなので、本当かどうかはわかりませんがね」


 するとそこで妹のラムティース様が反応した。


「おばあ様、希望の光・イシュタルトって、未だ嘗て授かった者はいないという、エンギルの古き印イシュタルトの事ですか?」

「それは私にはわかりません。ですが、夫からは魔を打ち払う存在と聞いた事があります。本当かどうかわかりませぬがね。ただ……それ以外にも、あの鏡には伝説が幾つかあるのですよ」

「へぇ、どんな伝説なの?」と、ラニーナ様。


 他の者達も気になるのか、こちらにずっと視線を向け続けていた。


「私が知っているのは……ある日突然、鏡に亡霊が映るという伝説と、鏡に妖精が住んでいるという伝説。それと、その妖精に向かい、この世で誰が一番美しいのかを問い続ける王妃の伝説ですかね。ですが、私があの寝室にいた頃は、そのような事は一度もありませんでした。あくまでも言い伝えというだけです。本当のところはわかりませんのでね」

「ふうん、そんな伝説があるのですね」――


 とまぁそんな感じで、妙に会話が続く朝食の時間だったのだが、太后の話を聞いていてある話を思い出した。

 それは勿論、グリム童話でもあった白雪姫の話だ。

 これに出てくる性悪王妃が、まさにそれを実行しているからである。

 ただ、これを聞いていて思ったのだが、もしかするとヤーコプ・グリムは、銀の器を使って、その当時のオルフェウス王家の者と何らかのやりとりをしていたのかもしれない。

 ふとそんな事を考えてしまう、朝の一幕だったのである。



    [Ⅱ]



 朝食の後、イアティースは侍従長に案内され、謁見の間へと向かった。

 謁見の間はオルフェウス城の1階の奥の方にあり、そこそこ広い空間であった。

 ざっと見で100平米くらいだろうか。

 床は大理石のような四角い石がタイルのように敷き詰められており、壁や天井は純白であった。

 全体的に、白を基調に作られた美しい部屋であり、その一番奥はひな壇のようになっている。

 そして、そのひな壇の一番上には、金と白で彩られた背もたれの長い厳かな玉座が、静かに座る者を待っているのである。

 玉座の前には参道のようにレッドカーペットが敷かれ、その左右の壁には、武装した兵士と宮廷魔導師、それとニンフル神殿の神官達が静かに佇んでいた。

 また、そこには俺が見知った顔の者達も並んでいたのである。

 へリオス将軍やアレウス主席宮廷魔導師、そして、ニンフル神殿のフィーネス神官長達である。

 それから、ひな壇に視線を移すと、大臣であるレオナール卿とメディアス卿がおり、更にその玉座の脇には、宰相が控えているのであった。

 もうなんというか、この国の重鎮達が勢揃いといった感じだ。

 それもあり、この謁見の間は、何やら物々しい雰囲気となっているのである。

(なんでこんなに重鎮達が集まってんだ? 普通の謁見じゃないな……何も起こらなきゃいいけど……)

 イアティースは侍従長に案内され、ひな壇最上部の玉座へ腰掛けた。

 そして俺はというと、玉座の後ろに控え、静かにイアティースを見守る事となるのだ。


「陛下……急遽、謁見が決まりまして、申し訳ございませんでした」

「それは構いません。それで……今日の謁見は、何方なのでしょう?」

「それが……本日は、滅ばされた隣国、アルテアの王子・ルーザー様なのです。命からがら逃げて来られたそうで、陛下に不死の王について、直接お伝えしたき事があると、今朝、使いの者と共に、こちら参られたのです。それで急遽、陛下にお伝えさせていただきました」

「え? 隣国の王子が……わかりました。アラム卿、こちらへお招きしてください」

「では」


 アラム卿はそこで、入口にいる兵士に手振りをした。

 兵士は敬礼すると、来賓を呼びに向かう。

 それから程なくして、兵士と共に、白いトーガのような衣に身を包む筋肉質なニューフェンの青年と、ローブ姿の従者2人が、謁見の間に現れたのである。

 身長は俺くらいで、歳は20歳前後といったところだろうか。

 ブロンドの長い髪を後ろに全部流して束ねており、精悍な顔付きをしている男であった。

 とりあえず、正統派のイケメンといった感じだ。

 だが少し、腑に落ちない点があった。

 なぜなら、命からがら逃避行してきた割には、肌が綺麗だったからである。

 まぁそれはさておき、青年は兵士に伴われ、玉座の少し手前までやってきた。

 そこで青年は跪き、頭を垂れる。

 後ろにいる従者と思われる2人も、同様に跪いた。


「イアティース女王陛下、こちらがアルテアの王子、ルーザー様にございます。今日は不死の王の件で、どうしてもお伝えしたきことがあるそうです」


 宰相がイアティースにそう伝えたところで、謁見が始まった。


「アルテアの王子・ルーザー様、私がオルフェウスの女王、イアティース・ルドラフィン・アムン・オルフェウスです。我がオルフェウス城に、ようこそ御出でくださいました。長い旅、さぞや大変だったことでしょう。して、今日はどうしてもお伝えしたい事があると、聞き及んでおります。それをお教え願えぬでしょうか」


 青年はそこで頭を上げた。


「イアティース女王陛下。此度の無理な謁見、誠に申し訳ありませんでした。ですがどうしてもお伝えしたき事があり、お目通しをお願いしたのです。実は先にあった不死の王による襲撃でわかった事がございます。それは……不死の王はある目的があって我等を攻め滅ぼしたという事です」

「ある理由? それは一体……」


 俺の中の何かが警告を発していた。

 それは良くない事が起きるという前触れのような、胸騒ぎに似た感覚であった。

 そして、俺の予感は的中するのである。

 その直後、低くおどろおどろしい声が、青年から発せられた。


「それは……我等はオルフェウスの所為で……国を焼かれたという事だぁァァァ!」


 そこで青年は勢いよく立ち上がる。

 それと共に、全身から黒い霧のような何かが発せられたのである。

 黒い霧は男を繭のように包み込む。

 そして次の瞬間、その霧は晴れ、黒い悪魔のような人型の化け物が出現したのであった。

 赤く光る眼とブタのような鼻。

 吸血鬼のような犬歯と黒ずんだ皮膚。

 背中には蝙蝠のような2つの羽。

 手や足に長く伸びる鋭利な爪。

 俺そこで、ある化け物の名前が脳裏に過ぎった。

 それはガーゴイルという化け物であった。

 そう、ガーゴイルと瓜二つな化け物が、この場に出現したのである。

 この場は一気に阿鼻叫喚の地獄絵図となった。


「ば、化け物だぁ!」

「ひ、ひぃ」

「襲撃だァァ」

「早く陛下を御守りするのだ!」

「な、後ろの奴等も化け物に!」


 後ろの2人も同じように、ガーゴイルみたいな化け物になっていた。

 だが壁際の為、兵士達が来るには距離が少し遠かった。

 今の状況だと、すぐには対応できないのである。

 これは警備体制のミスを突かれた感じであった。

 そして、それを良い事に、化け物は宙に羽ばたき、イアティースへと飛び掛かってきたのである。


「死ねぇぇ! イアティース!」 


 化け物は鋭利な爪を向け、イアティースに襲い掛かる。

 だが、奴は見えない力により、後ろへと突き飛ばされたのだ。


「グアァァ! なんだこの力は! この身体を吹っ飛ばすだと!」


 ま、俺がやったんだけどね。

 俺はなんとなく予想できていたので、すぐにエンギルの力を使えるよう、準備していたのだ。

 ガーゴイルは数メートルほど飛ばされ、そこに着地した。

 多少のダメージはあったようだが、まだまだピンピンしている。

 俺はそこでエンギルの力を使って飛び上がり、玉座に腰掛けるイアティースの前に舞い降りたのである。


「コースケ!」

「大丈夫ですか、女王陛下」

「う、うん」


 イアティースはホッとしたのか、少し頬が緩んだ。

 だが、まだ化け物は健在なので、気を抜くような事はしなかった。

 彼女もそれはわかっているようである。


「グッ! おのれぇ、ならばこれで……行くぞお前達!」


 するとその直後、化け物3体が宙を舞い、俺達目掛けて多数攻撃をし掛けてきたのだ。

 俺はそこで光の剣を手に取った。

 そして小さく呪文を唱え、剣を発動したのである。


「エル・イシュタルト」


 次の瞬間、蒼き光の刃が柄の先に出現した。

 だが3体なので、ちと多いのが難点であった。

 しかも、別々の方向から来るので、同時に対処が難しいのである。

(チッ、こりゃ、2体までだな。つか、なんであんな遠いところに兵士がいるんだよ。ったく、どうすっかな、出力大き目のイアの術は連発が難しいし。ン?)

 するとその時であった。


「グッ、こっちか! 小賢しい!」


 1体の化け物が宮廷魔導師の魔法で、足止めを喰らっていたのである。

 棚から牡丹餅であった。

(おお、これなら行けるか。さて、ではやるとしよう)

 というわけで、俺はまず、一番近い1体を高出力のイアの術でフッ飛ばしておいた。


「グアッ、またあのエンギルの力か」


 化け物は凄い勢いで横の壁に激突する。

 すると、近くにいる兵士が、即座に奴の対処に向かった。

 残りは1体。

 そいつはもう俺の斜め上、8mくらいのところにいた。

 天井すれすれの位置である。


「クケケケ、連続してあの力は使えまい! 飛べない貴様だが、慎重にいかないとな。クケケケ、今からコレで殺してやる! 燃え尽きるがいい!」


 化け物はそう言うや否や、大きく息を吸い込んだ。

 なんとなくやらせてはいけない気がしたので、俺はそこで自分にイアの術を使い、奴のいる高さまで一気に飛翔した。

 すると化け物はギョッと目を大きくしたのであった。


「な!? どうやって!」

 

 ここまで飛び上がると思わなかったのだろう。

 俺は毎日、瞑想修練法で、エンギルの力を使った戦い方というモノも、少しづつ学んでいるのだ。

 その成果が出たようである。

 まぁそれはさておき、俺は問答無用で光の剣を振るい、化け物の胴を横に薙いだのであった。

 その刹那、化け物の胴体は一閃し、上半身と下半身は綺麗に分断されたのである。


「ギャァァ! このゴミクズ共がァァァ」



 化け物は断末魔の叫びと共に、床にボトボトと落ちていった。

 そして俺は、エンギルの力でイアティースの前へ舞い降り、光の剣を袈裟に構えたのである。


「コースケ!」


 イアティースはそこで俺に身を寄せてきた。

 俺は彼女を守るように優しく抱き寄せ、片手で光の剣を構えた。

 だが、化け物共が俺達に襲い掛かる事は、もうなかった。

 なぜなら、その頃にもなると、兵士や宮廷魔導師の迎撃態勢が整っていたからである。

 そして、他の化け物達は彼等の攻撃に屈し、この場で絶命していったのであった。

 だが……俺はこの襲撃に、なぜか違和感を憶えていた。

 何か引っかかったのである。

 しかし、それが何かは、まだ俺にはわからないのであった。

 

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