vol.9 長く甘い夜
[Ⅰ]
異世界での夜が訪れようとしていた。
向こうにいた時と同じように、日が山の陰に沈んでゆく。
俺は女王の寝室から、今まさに隠れようとしている太陽を眺めていた。
イアティースと共に……。
「もうすぐ夜だね……ところで、こっちの夕食って質素なんだね」
「え、そうなの?」
「だって、お酒と少しの料理だけだったじゃん」
そうなのである。
実はついさっきまでイアティースの夕食に俺は立ち会っていたのだが、意外なほど少ない質素な食事だったのである。
夕食は豪勢に食べるのかと思っていたので、肩透かしを食らった気分であった。
「そうは言うけど、夜は何もしないじゃない。私達は夜、沐浴して寝るだけよ。だから、そんなに食べてもね」
「まぁ確かに、それもそうか」
よく考えたら、寝るだけなのに、沢山夕食を食べる日本の文化は、あまり理にかなってないかもしれない。
日本も昔は2食文化だったと聞いた事があるので、近代化してない世界だと、そんな感じになるのだろう。
新たなトリビアであった。
「それはそうと……沐浴って俺も付いていった方がいいの? この後に行く、王族が使う沐浴の泉って、女性だけなんだろ?」
「泉の外までは付いてきてよ。何があるかわからないから……。いいでしょ?」
「外で待てって事ね。了解」――
その後、俺はイアティースに付き添い、沐浴の泉がある施設まで向かった。
同行者は他にもおり、侍女や護衛の兵士もであった。
そして、沐浴を終えた後、俺達はまた寝室へと戻ったのである。
ちなみにだが、その際、侍女はお召し物の準備をして寝室を後にした。
護衛の兵士は通路にて任務の遂行中である。
よって、寝室には俺とイアティースだけとなったのだ。
その頃にはもう、日も完全に沈み、夜の帳が降りる頃合いとなっていた。
長い1日であった。
しかし……まだ、長い夜は少し続くのである。
女王の寝室に戻った俺は、シャワーを浴びる為、また鏡から自分の部屋へと帰宅した。
当然、イアティースも俺について来る。
あの呪いを施されてからというもの、どこに行くにも俺達は常に一緒になるのであった。
まぁとはいえ、今回は俺のシャワー浴びが気になるそうで、イアティースは付いてきたみたいである。
こっちの世界の入浴文化が気になるそうだ。
正直、見られるのは恥ずいので勘弁だが、どういうモノかを見てみたいのだろう。
だがそうは問屋が卸さない。
なんと、シャワーを浴びている時、イアティースは思いっきり浴室のドアを開けてきたからだ。
そんなわけで、俺は結局、恥ずかしい目に遭ってしまうのであった。
おまけに、俺のイチモツを見て、イアティースは顔を真っ赤に染めていたのである。
以上の事から、イアティースは冒険心が強過ぎるので、ちょっと控えてほしいと思う、今日この頃なのであった。
まぁそれはさておき、そんなこんなで身体を洗い、歯を磨いた後、俺は自室から幾つかの本と部屋着をカバンに詰め込み、またオルフェウス城へと戻った。
戻った理由は勿論、イアティースの寝室で寝る為だ。
そう、俺はイアティースと一緒に、同じ寝室で今日は就寝となるのである。
実はこれ、イアティースからのお願いという形で成り立っているイベントであった。
というのも、当初、俺とイアティースが同じ部屋で寝るというのに、侍従長は難色を示していたからだ。
ちなみに侍従長は、頭がツルッパゲの老人である。
伝統と格式に支配された、ぬらりひょん系の妖怪爺さんであった。
まぁそれはともかく、ぽっと出の他民族の奴が、女王と一緒に寝るとなると、そう簡単に納得は出来ないのだろう。
おまけに、この城の者達は、俺が鏡の向こうから来た事を知らないので、余計にであった。
まぁそんなわけで、俺は最初、女王の寝室へと続く通路で、護衛の兵士達と共に屯するというのを侍従長に提案されたのである。
だが、イアティースがそれに大反対したので、こういう事になってしまったのだ。
その時、イアティースは侍従長に、こう提言していた。
「侍従長、言っておきますが、コースケ殿は主席宮廷魔導師のアレウス公の力を押し退ける力があるのですよ。それに、不死の王を倒したのはコースケ殿なのです。コースケ殿には私の専属の護衛として、今後はお願いする事にしました。これは私の純然たる意志なのです。どうか、配慮を!」と。
まぁ早い話が、強引に押し切ったわけである。
そんなこんなで、侍従長も渋々了承したのだが、その際、俺は侍従長にこんな耳打ちをされたのであった。
「コースケ殿……陛下はまだ若く、未熟なところもございます。陛下が間違った行動をしないよう、配慮して行動してくれますかな。あまり変な噂が立つと、陛下の威厳に影響が出ます故……」
遠回しではあるが、要約すると、『お前は陛下にあまり近づくなや、大人しく護衛だけしてろ』と言いたいのだろう。
そして俺は、「そのつもりです」と答え、今に至るのである。
なかなか大変な1日であった。
未体験ゾーンばかりなので、対処が難しいからだ。
(今日は疲れたわ……不死の王を倒した翌日、いきなり異世界で目覚めて、それからイアティースに呪いをかけられて、で、偏見の目で見られながら、城の中を巡って、国の重鎮達の会議で酷い目にあって、最後の〆は、侍従長のイヤミだもんな。にしても……つくづく、俺の不幸って、女絡みばっかやな。会社では詐欺集団の一味だった女性社員に、面倒に巻き込まれるしよ。女にはモテないけど、女難だけは来るって、最悪やんか。極めつけは、イアティースの命の呪いだしな……俺、これからどうなるんや、一体……)
俺はそんな事を考えつつ、パジャマ替わりのジャージに着替えていた。
で、イアティースはというと、既に就寝用の白いノースリーブワンピースみたいな衣服を着ており、ベッドで横になっているところであった。
後ろで束ねていた髪も下ろし、カチューシャも外されている。
そこには素の状態のイアティースがいた。
今の彼女もビューティフォーである。
と、そこで、彼女と目があった。
「コースケも着替えが終わったのね。ねぇ……コースケは、どこで寝るつもりなの?」
ストレートに訊いてくるイアティースであった。
とはいえ、侍従長に言った手前、ベッドで一緒に寝るわけにはいかないだろう。
「俺は……そうだな、床で寝るかな」
「え、床? そんなの絶対ダメよ。コースケは私と一緒に寝ればいいの。ベッドは広いんだし」
「でも、侍従長に配慮して行動しろと言われたしな」
「そんなの放っとけばいいわよ。大体、コースケと私はもう、同じ命なんだからね。そんな酷い扱いなんて出来ないんだから。だから、こっちで寝なさい。これは女王としての命令です」
「また、すんごい理由やな……しかも、ここで王権振りかざすのかよ」
「そうよ。だから、一緒に寝ましょ」
もう面倒臭いのと疲れたのとで、俺はイアティースの命令に従う事にした。
「御意」
だがしかし……ここから長い夜が始まる事になるとは、この時の俺は知る由もないのであった。
俺はイアティースの言いつけ通り、ベッドに横になった。
位置はイアティースから少し離れたところである。
するとそこで、イアティースは枕元にある燭台の火を消したのだ。
寝室はフッと暗くなる。
だが、窓のカーテンの隙間から、月明かりが少し差してくるので、そこまでは視界が悪くなかった。
(外は月夜か……まぁどうでもいいや。寝よ寝よ……ん?)
するとその時であった。
イアティースが俺の近くに、モゾモゾと移動してきたのである。
「ねぇ……コースケ、もっとこっちに来てよ。そんなに離れてたら、私を守れないじゃない。貴方は私の近くにいて欲しいんだから」
「はいはい、わかったよ」
俺は命令に従い、イアティースの隣へ移動した。
するとイアティースは、俺と肌が触れ合う距離まで詰めてきたのである。
(おいおい、近過ぎじゃね……何なんだ一体……)
ふとそんな事を考えていると、イアティースは耳元で小さく囁いた。
「ねぇ……コースケ。天使が舞い降りた園での事だけど……」
俺も釣られて小声で囁いた。
「まだ何かあるの?」
「コースケ……私、いいわよ。したいんでしょ……その……口づけを……」
「はぁ!?」
俺は思わず、上半身を起こしてしまった。
当たり前だ。イアティースから誘ってくるなんて、想定外の事態だからである。
そしてイアティースはというと、手をモジモジしながら、物欲しそうに俺を見ていたのであった。
「コースケ、いいよ、しても……。私、あの時……コースケと、もっとしたかったから」
か、可愛い……。
俺はイアティースに覆い被さるかのように、顔を近付けた。
するとなんと、イアティースは俺のうなじに手を回し、向こうから俺の唇を奪いにきたのである。
我慢出来ないといった感じだ。
イアティースの柔らかい舌が、俺の唇をこじ開けてくる。
俺はそれを受け入れ、ねっとりと舌を絡ませた。
だがその時、俺の中の自制心がとうとう緩んでしまったのである。
(ああ……もう我慢の限界だ……俺の股間はテントの設営を完了しちまった。もう止まらんぞ。悪いが侍従長、約束は反故にさせてもらう……)
俺は舌を絡ませつつ、イアティースの胸に手をやり、優しく愛撫を始めた。
イアティースはそこで目を開けたが、抵抗しなかった。
それを良い事に、俺は更にエスカレートし、ワンピースの中に手を入れて、直にイアティースを攻め立てたのである。
俺は胸の突起物を指と掌を使い、優しく弄ってやった。
その刹那、イアティースの口から、悩ましく小さな喘ぎ声が漏れた。
俺はそこで、イアティースを口づけから解放し、胸の愛撫に集中した。
「あ……コースケ、そこ……あぁ……」
イアティースは俺の愛撫に身をくねらせ、口元に手をやり、快楽に身を委ね始めていた。
俺を見るイアティースの恍惚とした表情は、『コースケ、もっとして……』と言わんばかりであった。
また、この頃にはもう、俺の倅の強度は最高レベルに達していたのである。
気分的には、ソレで釘を打てそうなくらいであった。
(アカン……マジで止まらんわ。もうどうにでもなれ……耕助、行きます!)
こうなってしまうと、俺も自制するのが難しい。
そしてあろうことか、俺はワンピースを脱がし、イアティースの胸を露わにしたのである。
ワンピースの下は何も着ていなかった。
勿論、下腹部もだ。
つまり、彼女はノーパンだったのである。
その為、一糸纏わぬ白く美しいイアティースの裸体が、窓から僅かに差し込む月明かりによって、怪しく照らされていた。
小ぶりだが、張りがあってしなやかで、凄く綺麗な胸であった。
また、背丈は小柄だが、程よい肉付きで、腰や太ももの流線形のラインが美しかった。
そして俺は、その美しい姿に、見惚れてしまっていたのである。
すると、イアティースは恥ずかしかったのか、手で胸と股関を中途半端に隠す仕草をした。
だが、拒否しているような感じではなく、羞恥心からくる動きであった。
そんなイアティースを見て、俺は生唾をゴクリと飲み込んだ。
そして俺は、イアティースの耳に熱い息を吹きかけ、愛撫を再開したのだ。
本能の赴くまま、
はい、今日はここまで。
これ以上書くと、ただの異世界官能エロ体験記になるので、この辺にしておこう。
だが、これにはオチがあるので、それは記述する。
実はこの後、俺の執拗な愛撫で、イアティースはイってしまったのだが、そこで疲れたのか、そのまま寝息を立ててしまったのである。
舌と指を使って、執拗に性感帯を攻め立てたのが失敗だったようだ。
その為、俺は何というか、最終的にはタダ働きみたいな感じになってしまったのである。
そして、俺の寂しい呟きが、その場に小さく響いたのであった。
「あれ……もしかして、おあずけ? 俺は自分でしなきゃいけないのか? それは、ズルいよ、イアティース。つか……せめて、先っちょくらい入れさせてくれよ……」と。
しかし、彼女は目覚める事はなかった。
スッキリした表情で、スースーと可愛く寝息を立て続けていたのだ。
とはいえ、俺もこのままでは、流石に暴れん棒将軍の治まりがつかない。
つーわけで、俺はその後、イアティースを起こさないよう聖なる鏡の間へ行き、そこで1人寂しく、自家発電をしたのである。
それから鏡に向かって怒りの体液を発射し、精なる鏡の間にしてやったのは、俺しか知らない悲しい秘密なのであった。
ドンマイ、俺。
[Ⅱ]
翌日、俺は朝早くに目が覚めた。
隣に目を向けると、可愛いイアティースの寝顔があった。
だが、毛布がはだけており、一糸纏わぬイアティースの身体がくっきりと視界に入ってきた。
それは行為の後の、そのままの姿であった。
ちなみに、今は外が少し明るいので、昨晩よりも数段、イアティースの身体は美しく見えた。
というわけで、俺は目の保養の為、暫しそれを鑑賞したのである。
だが、それと同時に、少し恐ろしくもなってきたのであった。
(俺は……こんなに綺麗なイアティースの身体に、昨晩あんな事したのか。というか……この国の女王だぞ。最後までいかなかったとはいえ、俺……とんでもない事をしちまったかも……)
今更ながら、俺は少し恐怖したのである。
だが、やってしまった事はどうにもならんので、前向きに考えるしかないだろう。
イアティースと親密になった事には変わらないからだ。
俺はそこで、はだけた毛布を彼女に掛け直してあげた。
(まぁでも、今の俺とイアティースは運命共同体だからな。このくらい親密の方が、逆に良いのかもしれん。昨晩の行為で、今まで以上に大事な女性になったしな。おまけに、呪いのせいで、婚姻関係よりも結びつきが強いし。これで良いんだ……俺は彼女を守り続けるんだから。さて……)
寝室の窓から外に目をやると、日の出が始まったのか、外はかなり明るくなってきていた。
(今日も良い天気になりそうだな。早起きしたんだし、飯の前に少し魔法の訓練でもすっか。試したい事もあるし……)
俺はそこでベッドから降りた。
折角早く起きたので、俺はエンギルの瞑想修練法を試したかったのである。
この間、イアティースから聞いたのだが、エンギルの力を得た者は、瞑想によって、想像した物事に対して、それを実現させる方法を得られる事もあるそうなのだ。
絶対に得られるわけではないそうだが、これは試してみる価値があるだろう。
つーわけで、実行である。
俺は聖なる鏡の間で禅を組み、静かに、あるモノをイメージした。
すると、暫し禅を続ける中で、ソレに必要な材料や制作の方法みたいなモノが見えて来たのである。
それは不思議な導きであった。
そして、流れを大体把握したところで、俺は瞑想を終えたのだ。
瞑想とはいえ、エンギルの力を使い、内なる何かに語りかけるような修練なので、それなりに水分を消費していた。
喉がカラカラである。
(フゥ……意外と疲れたわ。でも必要なモノが見えたな。本当かどうかわからないが、今の導きを試してみても良いかもしれない。とはいえ、材料を揃えるのが大変だな。とりあえず……時間があったら、宝石屋でも見に行ってみるか。あるかもしれないし……ン?)
ふとそんな事を考えていると、背後に気配を感じた。
俺はそこへ振り返る。
すると、毛布に身体を包んだイアティースが、そこに立っていたのであった。
モロに寝起きといった感じだ。
だが、なぜか知らないが、イアティースは頬を膨らませ、少し怒っていたのである。
「おはよう、イアティース。よく眠れた?」
「よく眠れた? じゃないわよ。私の傍から黙って勝手に離れないでよ! コースケがいないから不安になったじゃない!」
どうやら、無断でいなくなった事に怒っているようだ。
謝るとしよう。
俺は立ち上がり、彼女の前へ行った。
「ごめんな。でも、無断でそんなに離れたりしないから、それは安心して。今だって、隣の部屋だし」
「でもとか言わないの! 私とコースケはもう、普通の関係じゃないんだから!」
今は少し感情的になっているので、下手な事は言わないでおこう。
というわけで、俺はイアティースを抱きしめ、お姫様抱っこした。
この突然の行動にイアティースは恥ずかしそうにしたが、そこで俺のうなじに手を回し、抱きついてきた。
そして、俺はそこでベッドへ行き、イアティースに目覚めのキスをしたのである。
「そんなに怒らないで……俺はイアティースから離れたりしないから」
「絶対だからね。コースケはもう、私だけのモノなんだから……私を置いてどこにも行っちゃダメよ!」
イアティースはそう言って、抱きしめる力をギュッと強めた。
なんか知らんが、えらい気に入られようであった。
昨晩の行為のせいだろうか。
にしても、ここまで甘えてくるのはちょっと変な気がしたのである。
訊いてみるとしよう。
「なぁイアティース、君ってそんなに積極的だったか? 今までと少し違う気がするんだけど……」
「それは……たぶん、生命の輪のせいかも」
「え、生命の輪?」
「生命の輪は元からある愛情が少し強くなるって……王家の伝承にもあるから。そして、生命の輪と結ばれた者は……」
するとイアティースはそこで、少し赤面したのであった。
気になる反応である。
何で赤面するの? と思ったのは言うまでもない。
「生命の輪と結ばれた者は……何? どうなるの?」
「それは……今は言わないわ。それよりも……」
イアティースはそう言って、またも俺に熱い口づけをしてきたのである。
俺もお返しとばかりにしてやった。
というわけで、朝っぱらから熱い包容を交わす俺達なのであった。
俺も生命の輪の所為で、どうにかしちまったのかもしれない。
まぁとりあえず、新たな生活の始まり始まりである。
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