名前の読み 題材 不

 私は出席箱を確認する。今日のアレンジフラワー教室のレッスン生の名前を見ていく。

 「不破ふわ海里かいり」という生徒の名前が目に入る。「不破ふわ」という読みは普通に「ふは」という風に読めてしまいそうになるが、「ふわ」だ。

 なぜ、「ふわ」と読むのだろうか。

 私は隣にいた由良ゆら力也りきや何気なにげなく質問する。

「不破さんという名前って「不」と「破」で、「ふわ」って読みますよね。どうしてなんですかね」

「あ。それね。確か前に調べたんだけど。平安時代にハぎょう転呼てんこで、語頭ごとう以外いがいの「は」を「わ」と発音するようになったからだって」

「へぇ。そうなんですね」

「何だかんだで言葉って変化させていってるんだね」

 私は少し面白いと思った。しかし、由良が知っていると思わず、感心した。

 由良は私と同じく、アレンジフラワーの教室をやっている。花の知識もさることながら、言葉の読みの話まで解ると思わなかった。由良が思い出したように口を開く。

歌舞かぶ十八じゅうはちばんに不破というのがあるんだ」

「何ですか。それ」

不破ふわばん左衛門ざえもん名古屋なごや山三さんざの二人が主人公で。一人の遊女の傾城けいせい葛城かつらぎを巡って争う内容。何か、現在は殆ど、上演されていないらしいよ」

「それはまたすごい」

初代しょだい市川いちかわだんじゅうろう延宝えんぽう8年(1680年)に初めて演じたらしい。不破伴左衛門が好評こうひょうを博し、生涯で12回もやったらしいよ」

「よく知っていますね」

「まあ。これ。単なる興味きょうみ本位ほんいで調べただけだよ。しっかし、歌舞伎ってすごいね。1680年とか」

「ここまで続き、伝統芸能になっているのもすごいですよね。勉強になります」

 私は何気ない疑問から、こんな壮大な歌舞伎の話になると思わなかった。

 由良の好奇心の旺盛さには驚くばかりだ。私はこれからなにか、解らないことがあったら由良に聞こうと思った。

 了 49:20  題材 不


 引用 

 文化デジタルライブラリー

 https://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/modules/kabuki_dic/entry.php?entryid=1263

 ヤフー知恵袋

 https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10252732935

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