親友2 題材「宇宙人」

 私もよく出来た人間ではない。けれど、友達の水野みずの豊子とよこに心底、失望した。

 豊子はいつも約束を忘れたり、ドタキャンしてくる。それを理解していたし、容認していた。

 けれど、今回は本当に失望した。その理由を別の友達、木野きの菜々子ななこにカフェで聞いてもらうことにした。

「豊子がひどい。以前にも話したけど、待ち合わせに絶対に遅れてくるの。それは色々と事情があるから仕方ないけどさ。今回のは本当に酷い。私の彼氏をったの」

「それはすごいね。修羅しゅらだ。あー。でも、豊子って私たちと話が通じない時あるよね?何かどっかの星の宇宙人みたいな」

「解る気がする。今話している内容と違うことに反応したり。さっきまで誰かが話しているのに、その話を終わらせて自分の話を始める時あるよね」

 私は沸々ふつふつと豊子の悪い部分が浮かんでくる。私にとっての豊子は大切な友達だった反面、許せないとこもあった。

「だよね。私はあれがちょっとだけウザイと思っていた。だって。他の人が楽しく話しているのに、自分が話したいからってその話題のマイナスになること言ってくるじゃん。自分が中心じゃないと気が済まないタイプだったよね」

 私は菜々子の言い分に首を縦に振る。私はオレンジジュースの入ったグラスのストローから一口飲む。

「私が酷いって思ったのは、私が応援しているバンドのをいちいち、批判してきたことね。「どこが良いのか解らん」って。言ってきた。別に理解できなくても、目の前にそれが好きだと言う人がいるなら、あんまり言わないほうがいいよね。軽く流したけど。内心、すっごくイラついた。豊子は忘れているかもしれないけどね」

 私は菜々子に豊子の愚痴ぐちをこぼした。菜々子はそれに共感してくれたようだ。共感が嬉しく、それが私に豊子への悪口を加速させる。

「あとさ。お土産買ってきたときもね。酷かったよ。「何かつまらない」とか。「もう買ってくるの止めるね」って怒ったら謝ってくれたけどさ」

「そんなことが。加奈かな。よく友達を辞めなかったね」

 菜々子は私の豊子への悪口をあわれんだ。豊子は私に心を許していたり、気を遣わないでいれてくれたのだろう。けれど、その反面、私を雑に扱うようになっていたのかもしれない。

 豊子は私に対してどんな感情でいたのだろうか。悪口を言っている私に対して、良く思っていなかったかもしれない。

「本当にどうして、友達だったのだろうね」と私はつぶやき、ケーキを一口、フォークで刺す。それを口の中に含む。

「人って変わっていくじゃん。だから。友達になった時は気が合っていたかもしれないし。私は加奈と友達になって、そのつながりで豊子とも友達になった感じだけど。加奈と豊子って友達歴が長いんでしょ?」

 私は菜々子の言うことに関心した。確かに「人は変わっていく」。過去に気が合っていたとしても。今はどうだろうか。

「私と豊子は10《じゅう》ねんらいの中だよ。高校時代からだよ」

「へぇ。その時はどうだったの?」

「大人しい感じで、あんまり喋らなかったよ。何か凄く真面まじな感じで。でも、喋るようになったら、すごく楽しい子だったよ」

「へぇ。意外。今は結構。自分の主張するよね」

「うん。で、その時はすごく思いやりがある感じだったよ」

 菜々子の言ったとおり、豊子は性格が変わってしまったのだろうか。それとも私自身が豊子への感情が変わってしまったのだろうか。私は悲しくなってくる。

「ねぇ。彼氏を盗ったとかさっき言ったけど、本当?」

「……。私に内緒ないしょで、私の彼氏と買い物に行っていたのを見た」

「マジで?それ。それについて豊子に聞いたの?」

「聞いていないよ」

「え。それはちょっと早計そうけいじゃない?」

「だって。聞けなくない?」

「いやいやいや。加奈の勘違かんちがいの可能性もありそうじゃん」

「だって」

 私は菜々子の指摘に、早とちりかもしれないと思えてきた。でも、そう思って話した手前、認めるのもモヤモヤとした。菜々子がため息をつく。

「だってじゃないよ。私も豊子にモヤつくことあって愚痴を言ったけど。豊子にちゃんと聞きなよ?」

「……。解ったよ」

 私はスマホを取り出した。電源ボタンを押すと、二件ほどの通信アプリのメッセージと着信があった。それは全て豊子からのものだった。未読のメッセージを開ける。

 私は少し涙目になった。

「え。どうした?悲しいことあった?」

「うんうん。違う。いいこと」

 豊子のメッセージは『お誕生日、おめでとう。いつも仲良くしてくれてありがとう。大切な友達でいてくれてありがとう。これからもよろしくお願いします!』

と書かれていた。

 私はすぐに豊子に電話を架けた。

了 36:14 題材「宇宙人」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る