人は変われる 題材「間違い」

 私の働いているデザイン会社ファインズは業界でもNo.1を占めるトップ企業だ。

 部長の安田やすだ智宏ともひろはとても良い人なのだが、島田しまだ浩一こういち部長が少し、いや、かなりクセがある。

 所謂、パワーハラスメント系だ。この前も島田部長に怒れている人が

辞めていった。だから、常に人手不足だ。噂の島田部長は今日もっている。

「どうして。こうなんだ。クライアントはこのレイアウトを赤色のレースにしろって言っていた」

「でも。直前でこれに」

「俺は最終確認で赤い色のレースでいいって言っていたのを聞いたけど」

 島田部長の仕事は確実かくじつなものだ。間違った社員のり方がパワーハラスメントに抵触する可能性を秘めている。

「お前。小学校からやり直せ。あとは俺がやる、お前は営業の電話を架けていろ」

島田部長は後輩のミスを全て受け、完璧なものに仕上げてプランナーに提出する。

仕事のミスをカバーしてくれるのは有り難いが、この圧力が恐くて辞めてしまう人が多いというべきだ。

「ミスの叱り方が恐い」。安田社長も何度か島田部長に注意をしているが、改善する気配もない。日頃、私は含む他の社員も諦めている。

 ここを辞めるか、怒鳴られないようにミスのないように過ごすか、怒鳴られながらも仕事をするか。

 この会社の人たちは結構なストレスを抱えている。島田部長自身はミスを殆どしない。

 あったとしても、パソコンの文書のタイプミスくらいしかない。ほぼ完璧だ。

 だからこそ、皆、島田部長に何も言えない。

 寧ろ、島田部長で何人分の仕事にもなっていると言っても過言じゃない。

 私は島田部長が疲れることがないのだろうかと一瞬、思った。


 ある日、島田部長が外で休憩しているのを見たことがある。

 もの凄く疲れた顔をしていた。島田部長でも疲れることがあるのかと少し、驚いた。


 疲れた顔を目撃してから数日間経過した際のことだ。

 取引の常連会社の「株式会社 ファミリア」からの依頼で大変なことが起きた。

 それは依頼と全く違うデザインにして提出してしまったのだった。

 誰がミスを犯したのかは、まさかの島田部長だった。

 島田部長は自身がミスを犯したと気づかず、「誰がミスした?」とキレちらかしていた。島田部長の態度をよく思わない他の社員が、「自分がミスしたくせに何をってるんだよ」とボソリと言っているのを聞いた。

 気持は解るが、少し島田部長が可哀相に思えた。その声を聞いてか聞かずが、島田部長は辺りを見る。

 最初に依頼を受けたのが島田部長でヒアリングもしていた。

 その依頼の詳細を細かく把握していたのも島田部長だった。

 安田社長は他の部下からの話を聞いて、島田部長のミスだと確認した。後日、安田社長は島田部長と面談を取り付ける。

 島田部長はそこで、自身のミスだと確信したらしく非常に落ち込んでいた。

 周りの人はいつもの威勢がない島田部長に混乱した。

 後日、島田部長は安田社長と面談した。面談の内容は非公開だが、かなり安田社長と長く話をしたらしい。


 それから一週間後の朝礼の時だった。

 安田の話が終わった後、島田部長が社員全員に向かって、頭を下げながら謝罪をした。

「今まで、本当に申し訳なかった。自分本位で仕事し、皆のミスばっかりを怒鳴って悪かった。今回。俺が大きなミスを犯したばっかりに迷惑を掛けた。申し訳ございませんでした」

 島田部長は長いこと、頭を下げた。本当に反省し、これまでの威圧感よりも責任を感じての萎縮具合に皆、驚いていた。私は今まであんなにパワーハラスメントのように怒鳴っていた人が、自身の間違いをあっさりと認めるなんてと思った。

 心からの反省ということなのかもしれない。これに納得のいかない人もいるかもしれない。けれど、私は島田部長を見直した。

 

 それからの島田部長は大きく人が変わったようだった。

 部下と協力し合い、対等な目線で話をするようになり、仕事がスムーズに実行されていくようになった。自ずと、ミスや問題が発生することもなくなり、会社の一体感が出るようになった。

 人は変わることが出来る。私は島田部長を見て、改めてそう思った。

了 52:00 題材「間違い」

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