情報漏洩 題材「漏」
俺は現在、会社のコールセンター業務をしている。
仕事は電話回線野契約の解除、更新などをする。
コールセンター業務はずっとやるわけではない。
転職で入社して半年、中途採用の新人で入った。
新人はコールセンター業務を1年間やるシステムになっている。
俺は慣れない業務に悪戦苦闘だ。今日もインカムを着けて電話の待機をする。電話がかかってきた。
「お電話ありがとうございます。NTコールセンターです」
「えっと。電話契約のプランを変えたいんだけど」
契約の更新らしい。契約の更新なら簡単だ。お客様の要求に応じて俺はプラン変更を行う。
お客様の言い分に沿って、さくさくと変更していく。
変更を完了すると、お客様のとの電話を切る。
一日に受電する件数は30件程度だ。電話口でずっと座り、人と話すのはしんどい。
1年間は長い。俺は途方に暮れる。俺には心配ことがある。
俺の親父の介護だ。妻の恵子に任せっきりになっている。
寝たきりではないが、ちょっと認知症の気がある。最近は寝ている時に尿を漏らしていて、おむつをするようになった。
そんな風にぼんやりと考え事をしていると、同僚の
「美味しい話があるんだよ」
「なんだ?」
「昼食のとき、話す」
昼食になり、俺と佐藤は一緒に食堂で食事をする。佐藤はエビフライ定食、俺は唐揚げ定食を頼んだ。
俺たちは向かい合って座った。
「今、俺らはコールセンターで働いてるな」
「ああ。そうだな」
「個人情報の宝庫だよな」
「まあ、そうだな」
俺は佐藤が個人情報に何かをしようとしていると思った。
俺は佐藤が何を考えてるか解らなかった。俺自身は佐藤のテンションについていけない。それに俺と佐藤はそれほど、親しくない。
「個人情報を売って儲けないか?」
「は?」
「だから。個人情報を売っ払って小遣い稼ごうぜってこと」
「おい、それって犯罪だろ」
「バレなきゃいいんだよ」
俺は佐藤の誘いを断った。犯罪だから止めるべきだ思ったが。
俺が言ったところで止められる気がしなかった。
俺が仕事から帰ってくると、妻の恵子が青ざめた顔だった。
「どうした?」
「お
「ちょっと待って。細かく説明してくれ」
話によると妻が買い物に行って留守の際、自宅に電話があったそうだ。
親父が出てしまい、内容は「息子が事故に遭い、人を
父親はそれを信じ言われるまま、銀行振り込みをしたそうだ。
俺は真っ青になる。すぐに気付いた妻は警察と振り込み先の金融機関に連絡をしたらしい。
「振り込め詐欺救済法」に基づき、振り込んだ口座は凍結され、被害額の50万円は返ってくることになったらしい。
「そんなことが」
「そうなの。もう疲れちゃった」
「ずっと負担かけているよな、ごめん。ヘルパーさんか老人ホームを考えたほうがいいな」
「ありがとう。けどお金は大丈夫?」
妻は資金の心配をしていた。確かに今の給与では厳しい。
けれど。妻だけに父親の介護をさせていくのはどうかと思った。
「気にするな」と俺は言い、副業も視野に入れることにした。
父親が特殊詐欺に騙されてから、俺は佐藤と話をしていない。
それから1週間くらいのことだ。
他の社員が何かを噂をしていた。
「佐藤が個人情報を売って金儲けしたらしいよ」
「それも100万件ね。すごいよね」
「USBメモリでやってたらしいよ」
俺はその噂にあ然とした。この前に言っていたように、個人情報を勝手に売っていたのだろう。
その情報の中に俺の親父の情報はあったのだろうか。確かめようがない。
けれど。そういうのは繋がっている。
「ま、勿論、逮捕されたらしいけど」
「会社さ。解雇させた後に警察通報だから結構」
「ねぇ。気持ちはわかるけど。会社としても何かしらのペナルティは受けないと」
俺はただその話を呆然と聞く。佐藤は個人情報を売り飛ばして金儲けしていた。
発覚すると会社は解雇させ元社員にした。
俺は震える怒りをどこにぶつけたら良いか、わからなくなる。
「
俺に気付いた女性社員の
「いや、先日さ。俺の親が特殊詐欺に騙されて」
「えー。それ」
「ま、わからんけど。佐藤が売り飛ばした情報に俺の家族のがあるか知らんけど。すごく気分が、悪い」
「そうなんですね。会社に報告します?」
「うーん」
「もしかしたら情報漏洩されてたか否か、確認できるかもしらませんね」
「そうだな」
俺は少しでもその憤りを抑えるためにできることをしようと思った。
了 51:26
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