告白 題材「一月」

「好きです。付き合ってください」

同僚の折田おりた隆生たかおから告白された。

 人の感情はそんなに簡単に片付くものじゃない。

 昔。付き合っていた彼氏の沢田さわだ健治けんじを思い出す。

 沢田との交際もこんな風だった。彼から告白された。

「好きです」

「仕事で関わったばかりで、何も知らない」

「でも、付き合ってみないとわからないじゃん」

 沢田は強引で、最初は断るつもりだった。

 けれど。沢田が真剣で私が最終的に折れて、付き合うことになった。

 沢田は本当に私を大切にしてくれて、よく会う時間を作ってくれた。

 メッセージや連絡も頻繁ひんぱんにくれた。

『今、何をしてますか?』

『料理やってるよ』

 気軽にメッセージをくれて、それに私が返信をする。

 そして、週末はデートという感じだった。

 そんな日々を過ごしていた時、沢田は死んだ。彼は随分ずいぶんまえからやまいを患ってたそうだ。

 病はせいそうがんだった。

 抗がん剤治療をして、一時期は良かったらしい。

 けれど。急激に悪くなり、亡くなったらしい。

 言われてみれば沢田はよく迷いなどなく、いつも思いついたら、実行なとこがあった。

 少しだけ痩せていたときもあった。

 その時からすでに悪かったのだろう。私は沢田が死去した後、ぽっかり心に穴が開いた。

 沢田は私にとって大切な存在になっていたのだった。

 あれから3年が経過している。

 

 私は同僚の折田の告白を断ろうと思った。

「ごめんなさい」

「いやー、わかってたよ」

「そっか。ありがとう」

 私は折田が粘るかと思っていた。

 けれどもあっさり諦めたことに少しだけ驚く。

「俺さ。実は。病患っていて。ずるいこと言うけど。もう死ぬのでボランティアだと思って一月ひとつきだけの恋人になってください」

 私は驚いた。折田に沢田を重ねた。真剣な願いなのだろう。 

 折田は頭を下げながら手を差し出している。少し震えているようだ。

 私はその勇気を持った申し出にどう、応えるべきなのか迷った。同情を向けるべきか。

 私が返事に迷っていると、折田が頭を上げる。

「変なこと言ってごめん。忘れてくれ。ありがとう」

 折田は私に背を向けて、行こうとする。その姿が少し可哀想に見えた。

「待って」

「いいや、いいんだ」

「私の話を聞いてほしい。折田くんみたいに私に告白してくれて、付き合った人がいたの」

「そうなんだ」

 折田は昔の恋の話を聞きたくないかもしれない。

 告白を断るにしてもその理由を言う必要が私にある気がした。

「で。強引に付き合うことになってね。私も次第に彼が好きになってね」

「ノロケ?」

「違うよ。話に続きがあって。順調に交際していたある日。彼は病で死んだの」

 折田は何を言えばいいのか、解らず黙って私を見る。

「彼が死んであの時、ああしていればって後悔した。だから。折田くんも後悔しないでほしい」

「ありがとう」

「だからね。同情の気持ちで付き合ったりとかは止めよう。改めて告白は嬉しい。けれど。付き合えない」

「………わかりました。真剣な言葉ありがとう!」 

 折田は少し悔し感情を滲ませていた。

 真剣な思いだからこそ、伝えるのは大変だ。折田は私の言葉に納得言っているようだった。

「何か。同情で付き合えって失礼な言い分だったね。ごめん」

「いやいや。いいよ。それだけ真剣だったんだよね」

「病を持ち出せはワンチャンあるかなと。病は本当で」

「そっか。じゃあ、病を乗り越えるを目標にしてみない?」

「え?」

 折田は私のアドバイスに驚いていた。彼はもう、諦めていたのかもしれない。

「医者に言われて。もう助からんとか。あはは」

「ホントかな。わからんよ。人って何があるか解らないし」

「そうかな。華子さんがそう言うなら。俺、頑張ろと思う」

「その調子」

 私は折田を励ました。折田がなんの病か知らない。

 ただ生きるチャンスがあるなら、それを逃さないでほしい。

 そうすれば、また私以外の良い人に出会えるはずだと思った。

了 40:44




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