人は見かけによらない 題材「見た目」

 学生生活を送っていると、自ずとこのクラスのスクールカーストが解る。

 上位、下位とか、イケてる、イケていないに分けらるだろう。

 俺はというと。上位のグループに入れそうだが、難しい感じかもしれない。

 このクラスになって半年、奇跡が起きた。

 スクールカーストで上位とされる城田しろた優希ゆうきに体操着を貸してから、何となく話をする仲になった。

 城田の家庭は父親が単身たんしん赴任ふにんで、母親も働いてるらしかった。

 だから学校から帰ると大体、一人らしい。

「俺さ。家に帰っても誰もいなくってさ。だからよく友達呼んでた」

「へぇ。そうなん」

「あ。お前も家来る?新しいゲーム買ったんだ。一緒にやろう」

「いいのか」

「遠慮すんな。母さん、そういうのうるさわんし」

 城田は気さくに言った。俺は本当にこんなに話しやすい奴って、中々、いないと思った。

 俺は放課後、城田の家にいく予定になった。授業が終わり、城田が他のクラスメイトの女子のノアと話していた。

「ゆーき!一緒にカラオケ行こう!」

「ごめん。俺さ。と約束してて」

「多田と?」

香田が怪訝けげんな表情を浮かべる。

「友達になったんだ」

「うわ。意外」

 俺はこの言葉に少し傷ついた。

 城田と俺が対等じゃないと言いたげなんだろうな。すると城田が強い口調で言う。

「そういうのやめろよ。多田に失礼だ」

 城田が批判してくれて、俺は少しだけ嬉しくなる。香田は城田に言われて、反省したのか「ごめん」と言っていた。

「わかればいいよ。じゃ、俺。多田と一緒に行くね」

 城田は俺に近づいてきた。俺はさっきの出来事に少し感動した。

 俺は彼と友達になれて改めて良かったと思った。 

「じゃ。行くか」

「おう」 

 俺と城田は一緒に校舎を出る。帰り道を歩く際、城田がさっきのことを話してきた。

「さっきの香田との会話、聞こえてたろ?悪かったな」

「いいや。いいって」

「まあ、あいつ。悪気ないと思うけど」

「うん」

「わかってくれてありがとな」

 城田の家に着くまでに、俺たちは様々な話をした。学校の先生の話、最近の学校の課題や芸能人の話などをした。 

 俺は城田が本当に話しやすく、良い人だと思っていた。

 城田の家の前に着く。城田が真剣な顔で言う。

「なぁ。簡単に儲ける方法。知りたくないか?」

「え?」

「ギリギリのスリルを味わえるし、楽しいぞ」

「え、それって」

「細かいこと気にすんな。家で話そう」

 城田は俺を家に入れた。城田の家は普通の一軒家で、この日は誰もいなかった。

 城田の「簡単に儲ける方法」は、電子マネー取引で儲ける方法だった。相手に電子マネーでギフトを買わせ、ポイントを倍にして返すと約束させて実際は返さない。

 明らかに詐欺だ。

「これ。詐欺だぞ」

「いいって。俺等が捕まったとしても未成年だし、前科ぜんか付いても更生して社会しゃかい復帰ふっきなんて楽勝だし」 

「わりぃ。俺、帰るわ」

 俺は強く言い放ち、城田はそれを反論もせずに見るだけだった。

城田は「お前とは気が合うと思ったんだけどな」と言いながら、タバコに火をつけた。

 俺はそのまま、城田の家を出た。城田を一瞬でも良い人だと思ったのは間違いだった。

 未成年が犯罪しても大丈夫なんてありえない。犯罪をすること自体が人としてどうなのか。

 城田が俺以外の人にもそれを勧めているか、わからない。

 ただスクールカーストで上位の人が犯罪になりそうなら、関わりたくない。

 城田からの誘いを断ったら、明日からいじめられる懸念がある。

 けれど。俺は犯罪者になるくらいなら、いじめられるほうがマシだと思った。


 次の日、恐る恐る学校に行く。

 城田や城田の仲間から何かされるでもなかった。ただ城田との距離は置いた。城田自身も俺を避けた。

 それから1週間くらい経過したことだ。

 城田は退学になった。


「城田ってアレコレ、やばい詐欺してたらしいよ」

「うわ。マジ?何かクラスで人気あるっぽい人でもわからんね」 

「人は見かけに寄らないってことね」

 俺は城田とのことを思い出した。彼は俺以外の人にも同様の誘いをしていたらしい。

 誰も城田を咎めなかったのだろうか。それも何だかもやもやとした。

 俺は城田に詐欺を完全に止めさせるべきだったかもしれない。

 一瞬でも友達になった人を助けなかった。俺は心に溜まる何かを抱えながら、職員室に向かった。

了 52:01 題材 見た目

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