新薬 題材「違和感」

 私は違和感を感じたら、病院に行くようにしている。早期発見がまんびょうを予防できると思っているからだ。

 私の母は乳がんで55歳の若さでこの世を去った。

早期そうき発見はっけん。早期治療していたら違っていた。だから。梨子なしこ。病院へは定期的に行きなさい」

 母は最後に言っていた。私は母の教えの通り、定期検診を受けている。

 私には片頭へんずつうをもう長いこと患っている。

「片頭痛が完全に治る薬」が最近、できたらしい。

 それは「へディックブロ」という薬らしい。日本で早々と承認された新薬だった。

 私は今度、この新薬を処方してもらう予定だ。友達の涼子りょうこにその話をする。

 彼女ならその話を歓迎してくれると思っていた。けれど、反応は全く違うものだった。

「それって本当に大丈夫なの?」

「え?」

「だって、新薬だよ?治験をしてるだろうけど。長期的な予防効果、解っていないじゃん」

「それはそうだけど。そんな神経質になる必要ある?」

 涼子はいつになく医療を疑っていた。そういえば、彼女は以前から医療不審を持っていた。それだからだろう。

「神経質になる必要があるよ。その薬を使って副作用を受け取るのは、梨子。あんただよ」

 私は涼子の指摘につばを飲み込む。「薬に万が一のこと」があっても、それを薬害とされるのは難しい。

 ましてや「この薬でこんな症状が出た」と言ったところで認めてもらえないだろう。

 でも、そんな悪いものを医療が勧めることなんてあるだろうか。

「そ。そうだけど。そんな悪いの勧めてくる?」

「いいか。悪いかじゃなくて。薬は全て良い限らないってことね。決め手があってその薬を選んでるならいいんだよ。情報集めずにそれってのが危険なの」

 涼子は私が一つの情報だけで判断していると思ったらしい。私のために言ってるのだろうが、少し不快になった。

「そこまで言わなくても」

「じゃあさ。そのなんだっけ?片頭痛の薬。ネットで検索した?ネットは嘘ばっかだけど。SNSの忖度そんたくない一般の書き込みも見たほうがいいよ。それから処方するか否か決めたほうがいい」

 私はネットをよく疑うが、SNSの書き込み自体どうなのかと思う。私はスマホを取り出し、渋々「へディックブロ副作用」「へディックブロ効かない」などを検索した。

 様々な書き込みを見て、どうするか考える。良い書き込み、悪い書き込み、色々見ていく。

 私は最終的な判断を心の中で決めた。

「大分、真剣に見てたね」 

 涼子は私の顔を覗き込む。

「うん。結構、参考になったよ」

「で、処方するの?」

「うーん。わからないな」

「そっか。まだ色々あるし、考えるのが大事だから」

 涼子は微笑んだ。涼子にとって私を思ってのことだろう。

 新しい発見や見解を知れたのは本当に良かった。

 薬が一概に全部悪いわけではない。ただ。自分の身体、自分の健康を守れるのは自分自身だけだ。

 医療を否定するのは違う。ただ急がずに情報を集めるのは大事だと思った。

「ありがとう。涼子」

「いえいえ」

 涼子の考えも一理あるなと実感した。

了 48:48  題材 違和感 

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