第81話



 今、海賊船カグヤがルーナ号の前を航行している。


「カグヤから送信有り、回線を開きます」


 通信長のレイがルーナ号船長に伝えると、ベレニケ船長の声が聞こえる、


「クロウ、そろそろお別れの時です」


「ワーム・ホールの入り口を開けるのか?」


「そうです、アーベイに連絡をしてあげてくれませんか? これからワーム・ホールの入り口を開けるところを見せてあげたいのです」


「レイ、アーベイ博士に連絡を取って艦橋に来るように伝えてくれ」


「了解、船長」


「マザー・ルーナをクロノスまで送り届けます。クロノス星の上空でホワイト・ホール、時のトンネルの出口を開きます」


「感謝する。ベレニケ、君達はどうするんだい?」


「私達は、別の空間にホワイト・ホールを開いて旅を続けます」


「ハビタブル・ゾーン、生命移住可能領域である星を探すのか?」


「見つけられないかもしれないわね」


「きっと見つかるさ」


「ありがとう、クロウ。それでね、ルー?」


 ベレニケはクロウの隣にいる画面上の息子に呼びかける。


「なんだい、母さん」


「覚えていなさい。私達海賊は奪わない、奪われたものを取り返すだけ。誰も傷つけずに」


「母さん、一度だけ、そっちの船に乗っても良いかい?」


「駄目よ、ルー。一度でもこの船に乗れば、あなたは元の船に戻りたくなくなるかもしれない。いいえ、私が返したくなくなるかもしれない」


「母さん・・・」


「私達は、月を捨てた民、捨てた星はもう戻れなくなっている。それは、この暗い宇宙で新しい星を求める永遠の旅人を意味する。でも、今のあなたには帰るべきクロノスと言う星がある。もしも、ハビタブル・ゾーンを見つけられたなら、あなたを迎えに行きましょう。それまでは、ルーナと共に、ルーナ号のみなさんと共に生きて行きなさい」


 ベレニケは少し間を置いて、再び語りかける、


「クロウ、それまではルーを頼みます」


「安心してくれ、とは流石に海賊なので言えないが、できるだけのことはする」


「ありがとう、クロウ。ワーム・ホールの中では通信が不可能になります。ここでお別れにしましょう。さよなら、クロウ。さよなら、ルー。さよならルーナ号の皆さん」


 その言葉を聞いてクロウが別れを告げる、


「また、宇宙の海のどこかで会おう」


 ルーも画面上の母ベレニケに言葉を掛ける、


「さよなら、母さん」


 航海長のダフォーや、艦橋にいた乗組員も別れを告げた、


「さよなら、ベレニケ船長、コノン副長。さよならマザー・カグヤ」


 そして、レイが伝える、


「マザー・カグヤより波動を確認。マザー・ルーナに別れを告げている模様」

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