第80話



 海賊船ルーナが上昇を始めると、追従するようにカグヤも垂直上昇を始めた。

大気圏外に出ると、カグヤはルーナ号に並行して飛んでいる。

それは、宇宙の大海原を母娘が仲良く散歩しているような飛び方に見えなくもない。


 ピンク・サファイアの輝きを放ちながら航行しているカグヤの優雅な宇宙航行に対して、ルーナ号の中では大変な騒ぎになっている。


 腹をすかした砲術長のキストが食堂に入ると、


「なんだこりゃ」


 錚々たるメンバーが揃っている。


 そして、荒々しくキストに声をかける者がいる。


「退きなさい、お呼びじゃないの!」


「おお、おう、すまねぇ」


「大人は最後よ、出て行きなさい」


 料理長マギーが慌ただしく働いている。


 キストは遠慮がちに、せっせと働いているダフォーに声をかけてみる、


「お前まで、どうして此処に? 若い航海士が操舵輪を操っていると思ったら、操舵の方は良いのか?」


「キスト、相変わらず馬鹿ね。千人もの子供が乗っているのよ。航海術とか迎撃とか言っている場合じゃないでしょ? 今は此処が戦場なの、分かる? 暇なんだったらちょっと手伝ってくれない」


「いや、俺は、その、艦橋に戻るわ」


 キストが背を向けて出て行こうとするが、尚も背後でマギーの声は響く。


「ニーナ、ありがとう、でも、もっと手早く!」


「ダフォー、馬鹿を相手に喋ってないで、あっちを手伝ってあげて」


「ティア、あなた、お料理したことないの?」


「こら! ジェントリ、フォー2が居なくなったからって、いつまで経っても泣いていないの。これを運びなさい」


「ウイス、それとこれを追加、食糧倉庫から取って来て」


「なんと、艦橋に居ないと思ったら、副長まで働かされていたのか」


 砲術長キストは、足音を忍ばせて調理室兼食堂から静かに立ち去った。

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