第79話



 ピナルスの奴隷となっていた人質の子供達の乗船が無事に済んでいる。


「ウイス、子供達は全員で何名だ」


 船長クロウに応えて副長が伝える、


「そうさねぇ、千人くらいってとこかね」


「全員乗れたのか?」


「ああ、相部屋だけどね。部屋数が足りなけりゃ海賊船カグヤにでも頼もうかと思ってたんだけどさ」


「それはどうかな」


 クロウが満足げに答える。




 その頃、子供達を収容している部屋の廊下を歩き回る男が居る。


「ピア、ピアは居るかい?」


 その男は、廊下を走り回ってはしゃいでいる男の子を捕まえては身振り手振りで、


「身長はこれくらいで、少しふくよかな感じなんだ、そうそう男の子なんだけど、見なかったかなぁ?」


「知らないよ」


 と、話しかけられた少年は答える。


 仕方がない、千人の子供達が同じ場所に収容されていた訳ではない。

それぞれが、それぞれに与えられた作業現場へ運ばれ、現場近くの薄暗い部屋で閉じ込められるようにして寝泊まりさせられていたのだから。


 それでも、その男は船内の端から端までを歩き回るつもりである。


「こんな感じの男の子を知らないかな?」


 答えは、いつも同じである。


「知らないよ」


 それでも男は懸命にお目当ての男の子を探し続ける。


「ピア、ピアは居るかい?」


 その時、扉を開けて出て来た小さな男の子が声を掛ける、


「父さん? 父さんなの?」


「ピア、ピアじゃないか、無事だったんだ」


「本当に父さんだ、どうしてここに居るの?」


 レゾルトは、ピナルスから解放された息子を抱きしめて言う、


「父さんは海兵さんを引退したんだ。今は海賊なんだ、だから此処に来れたのさ」


「それは良かったよ、母さんもロスゴダの兵士は嫌がっていたもの」


「そうかそうか、良かった良かった」


 そう言いながら息子に回していた両手の片方を離し、その手を男の子の頭に乗せて撫で回す。


「父さん、恥ずかしいよ。僕たちロスゴダに帰れるんだよね」


「ああ、そうだ。その通りだ。母さんに、会いに帰ろう」


「母さんに会えるんだ。僕、ねぇ僕、苦しかったよ、父さん、僕、苦しかったんだ」


「そうか、そうだよな、苦しかったよな、もう大丈夫だからな」


「僕、毎晩泣いていたんだ。でも途中から泣くのをやめたよ。だって僕はロスゴダ戦闘空母艦レゾルト副長の息子だから泣いちゃいけないって決めたから。でも、おかしいよ、今は涙が止まらないんだ。どうしてなんだろう、苦しい時は我慢できてたのに、嬉しいと涙が止まらないよ」


 そう言うと少年は溢れる涙でレゾルトを見ることもできなくなり、海賊船の天井を見上げていた。


 その後、レゾルトはクロウに相談を持ちかけ、ピア少年を自分の部屋に招き入れた。


 二人は、ピナルスからロスゴダまでの長い船旅を共に過ごすことになった。

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