第11話



 然し、そこには戰と呼べるような光景は何も無かった。

鷲座、その中にある3光年の広がりを見せるイーグル・アイ・ネブラ。

その星雲の中にある無数の星の一つ、ロスゴダ。

通信長レイがレーダーで確認した素粒子エネルギーは、戦いは既に終わり死んだように静かな星に残っていた素粒子であった。

然し、そのためにロスゴダ星が壊滅的打撃を受けたのか、その前に降伏していたのかは定かでない。


 近づいて目視による確認をするには遠すぎる。

だからと言って迂闊に近付けば、残存する兵力によって攻撃を受けかねない。

この宇宙でルーナ号は海賊なのだ。


「どうする? クロウ」


 航海長のダフォーが、船を微速航行させながら指令を待つ。


「近付いてみよう」


 クロウが答えると、


「危険だぜ」


 と副長が応ずる。


「素粒子分解幕を張ってくれ」


「了解。素粒子分解幕充填」


「ダフォー、このまま微速前進でロスゴダに近づいてくれ」


「了解、微速前進、ロスゴダ上空へ近づきます」


「素粒子分解幕充填良し、噴射するぜ」


「ああ、頼む」


 ルーナ号が白い膜に包まれながら、ロスゴダに近付いて行くと、


「船長、素粒子エネルギー確認」


「おい、マジかよ。ロスゴダはあんなに遠くの丸い星にしか見えてないんだぜ?」


 副長ウイスが驚いた声を出す。


「はい、ロスゴダ上空大気圏外、衛星軌道からです」


 レイが答えるとクロウが尋ねる、


「エネルギーレベルは?」


「素粒子レプトン、レベル1」


「あそこからなら、レベル1では射程圏外だわ」


 ダフォーの報告にウイスが答える、


「威嚇ってことかい? まぁ、仕方ないけどね。何せ、俺達はこの星の総督と共に船を沈めた海賊だからね。恨み骨髄ってとこかね」


 ウイスの独り言とも取れない言葉にクロウが指令する、


「このまま微速航行でロスゴダに近付いてみよう」


「了解、船長。このまま微速前進」


 ゆっくりとした航行で星へ徐々に近づいていくと、ダフォーが報告する。


「クロウ、もうすぐ射程圏内に入るわよ?」


 その声に答えたかのようにレイが報告する、


「エネルギー確認位置に宇宙船を認められず」


 ウイスが驚きの声を上げる、


「なんだって? 器もないのに素粒子が集まったって、新しい原子核でも作ろうってのかい?」


「もし、素粒子融合だったら、この船どころか、ロスゴダ? いえ、新しい星雲が生まれかねないわ」


「衛星です、レプトン砲を搭載した衛星です」


 その言葉を聞いてクロウが大きな声で言う、


「全速反転、ロスゴダの防空圏から離れろ、あれはロスゴダの衛星ではない」


「了解、全速反転」


「ロスゴダは、衛星軌道にレプトン砲を配備できるほどの科学的技術は持っていない」


 クロウが緊張した声で言う。

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