第7話
クロウは、母だけが住む家でお茶を淹れている。
湯気の立つ、その黒い液体を母に差し出し、母はその見慣れない液体を恐る恐る口に含む。
少し眉間を寄せたように見えた。
「これが、地球っていう星の珈琲っていう飲み物なの? 苦いわね。そう、でも、香はまぁまぁ、かな」
「母さんには、合わなかったかな?」
「いいえ、そんなことないわ。ただ、毎日って言うと、ちょっとね」
「安心してください。これが最後の一杯ですから」
「あら、そんな貴重なもの、良かったのかしら?」
「ええ、大丈夫です。また、月へ行って調達しましょう。今度はお金を払って買い求めますよ。ルーからのプレセントは、これでなくなったって言うことだけですから」
「あら、そういえば、私の可愛い孫のルーは宇宙船から降りてこないの?」
「船には、ルーだけが残っているんじゃないんだよ。リー、に、ニーナ、それにシラーやレイ、バスコ。今の船は若い連中の溜まり場さ」
「そう、良かったわ。ルーも月で素敵なお友達ができたみたいだし。シラーやレイ、バスコ、幼馴染にも会えて、今頃は宴の最中かしら、素敵な船の溜まり場ね」
「そうそう、ダフォーがたくさんお酒を飲んでね。若い操舵師達に絡んでいたよ」
クロウは笑いながら言う。
「まぁ! あの真面目なダフォーが! きっと素敵なことがあったのね」
「そうなんだ。のっぽのマギーなんかは、久しぶりに死の舞を見せてくれたよ」
「それって本当の話なの? 死者は出なかったの?」
また、クロウは笑ってしまう。
「それはマギーの伝説的な話で、死者なんて一度も出たことはないよ」
「それなら良いけど・・・、マギーも見ないわね? 必ず一度はうちに寄ってお料理なんか作ってくれるのに・・・」
「のっぽのマギーなら、若い連中と一緒にいますよ。若い人が集まると食事に栄養が偏りがちになるから放っておけないそうだから」
「さっきも言おうと思ったんだけど、あなた、お父さんの後輩さん達に似てきていない? のっぽ、なんて言ったらマギーに失礼だわ」
「もちろんだ。気をつけるよ。今頃はマギーも楽しんでいると思うよ。彼女は見た目も気持ちも、あの船の中では一番若いから」
「でも、その言葉も失礼にあたるように思えるけど・・・」
その時、クロウの書斎、元はクロウの父親の書斎で、無線機の呼び出し音が鳴る。
「さぁ、行って。緊急の呼び出しかもしれないから」
「母さん、じゃ。それと珈琲だけど、合わなければ残しておいてくれて構わないから」
「そんなことはしませんよ、口に入るものに捨てるものなどありません」
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