第4話

 三浦はどうしてこの性質(たち)の人間は型通りの態度をとるのか。そう言った事を教えている学校でもあるのかといつも考えてしまう。


「ちょっと聞きたいんだが」


 三浦が質問を始めたが、男はテレビに顔を向けたままだ。


「どうせ佐野さん達の事っしょ。何度も勘弁してくださいよ。言った通り、あの三人は事故でしたっけ? その日はここにいましたよ。俺も姿を見てるし」

「時間は?」


 男は頭を後ろに命一杯に曲げ、立っている三浦と元村を覗きこみながら答えた。


「前にも言ったけど、九時半とか十時くらいですよ。かなり酔ってたし、出て行くのは見てないですよ」


 丁度、事件があった時間だ。やはりアリバイは完璧だった。


「三浦さん、ちょっと」


 元村は、奥にカーテンで仕切られていた部屋から三浦を呼んだ。男は特にその部屋に入る事を止めようとはしない。三浦が部屋に入ると、六畳ほどのタイル張りの上にロッカーが並べられていた。その隙間に、外に通じる扉がある。


「三浦さん、ここから外に出られますね」

「そうだな」


 三浦は再び男に、その部屋の扉について質問をした。


「こっちの部屋から外に出れるようだが」

「ああ。でも鍵が壊れていて、そこは開かないっすよ」


 それを聞いた元村が直ぐさま確認をする。確かに鍵の摘まみを左右に捻っても手応えが無く、扉も押しても引いても開く様子はない。二人は顔を合わせ確認し合った。


「もし何か思い出した事があったら、連絡をくれ」


 三浦は男に名刺を渡し、店を後にした。


「あの三人の証言通り、アリバイは完璧ですね」

「そうだな『完璧』だな」


 店を出た後、二人はそのまま事件現場へと向かっていた。現場は多くの車が行き来し、あの夜とは違った道路に見えた。


「どうかしましたか?」


 元村は何も話さない三浦が、何かを考えている事を察し、その答えを聞きたがっているようだった。


「完璧なんだよ。三人の証言が。あいつら泥酔してたはずだろ? それは自分たちでも認めている。それなのに記憶が三人共、はっきりしすぎんなんだよ。普通そんなに酔ったら、話しの内容も前後が変わってしまったりするが、あいつ等は示し合わせた様にズレがない」

「そう言えば……じゃあ三浦さんは」

「ああ、あの三人が犯人だ」

「でも店の証言は?」

「さっきみたいな人種は、金で簡単に動くからな。信用できんさ」


 三浦は、どうすれば三人の証言にズレを生じさせる事が出来るか、それだけを考えていた。


 だが時間は残酷にも彼らをまた街に放ってしまった。証拠がなくアリバイがある以上、これ以上拘束は出来ないと判断されたからだ。

 発足時にいた捜査員は半分以下に減らされ、その中に三浦も含まれていた。それでも時間が出来れば現場近くで聞き込みを繰り返していた。

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