第2話

 三浦はこの事を本人確認の際に、遺族から聞いたのだ。


 四角い部屋の中央に遺体とそれを弔う為の仏具。死臭を紛らわすための線香が焚かれ、明かりも天井に二か所だけで、明るさが不十分な部屋。冷たくなった息子にしがみ付く両親は泣き崩れながら叫んでいる。


 三浦はこのような光景を数え切れないほど見てきた。その度に胸が痛むのだが、それは自分が人の死に馴れていないという安心感を与えてくれていた。


「犯人を、犯人を捕まえて下さい……」


 佐々木の母親は力をなくし、三浦の足を泣きながら抱きえながら訴えている。父親は泣きながら壁に向かって何度も頭をぶつけていた。


「必ず検挙しますので」


 いつもながら三浦は、同じ事しか言えなかった。



 三日後、三浦は被害者の佐々木元治の葬儀に出席していた。殺人事件として動いてはいたが、怨恨の線ではい葬儀に出席する事はあまりない。


 ただ今回はあまりにも無残で卑劣な事件だったため、個人的に誓いを立てる事も含め出席したのだ。と言っても元村は部外者だ。小規模な寺で開かれていた葬儀を、端で見守っているだけだった。


 ちょうど時期は春に差し掛かっており、取り行われている儀式とは反対に、境内の木々は太陽の光を浴び、艶やかに青葉を揺らしている。その中を喪服に身をつつんだ親族、友人たちのすすり泣く声が虚しく響いていた。


 三浦は灯篭の横からその光景を眺め、小さくお辞儀をして境内を出ようとした時だった。


「すみません」


 背後から声を掛けられ振り向くとそこには、喪服を着た背の高い男性が立っている。目元には隈を作り、疲れが滲み出ていた。


「警察の方ですか?」


 なぜ三浦は自分が警察関係者だと分かったのだろうか? と顔に出ていたのか、その男性が読みとって説明をした。


「喪服ではなく、普通のスーツを着ておられたので」


 三浦は自分の格好を見て、この場に溶け込むには不自然だったと今さらながらに気が付いた。


「そうです。K警察署刑事課の三浦と言います」

「私は佐々木と申します」


 名刺を出しだしてきたので、三浦は自分も差し出し交換をした。

 声を掛けてきた男の名刺にはJS弁護士事務所、佐々木(ささき)亮司(りょうじ)と書かれている。


「元(もと)治(はる)さんのご家族で?」

「兄です」


 よく見れば、写真の被害者と目、口元が似ている。


「この度は……」

「いえ、それより犯人の目処は付きましたでしょうか?」


 佐々木亮司は落ちつた静かな声で三浦に質問をしてきた。


「それがまだこれと言って進展はなく、申し訳ありません」

「――そうですか。今日はわざわざ足を運んで頂き、ありがとうございます。それでは」


 佐々木(ささき)亮司(りょうじ)は、兄弟を亡くしたとは思えないように、淡々とした態度で去って行った。


 三浦は彼の態度から、あまり兄弟間の仲はよくなかったのかと感じたが、身に纏っていた周りの冷たい空気が気になった。


 それから時間が経っても、これといった犯人の手掛かりが掴めないでいた。犯人の特徴を聞き込んではいたが、飲み屋やバーが多い場所には、暴力団の息が店もある。だがそこに出入りしている人間とも限らない。捜査は難航していた。

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