第28話 宣戦布告の手紙

「おくつろぎのところ、申し訳ございません。アーシエお嬢様宛にお手紙が届いたとのことで」


 いつもの朝の、ルドとの団欒を邪魔するように、その手紙は届けられた。


 あの時ルドに渡した手紙と同じ色の封筒に、一輪の花が添えられている。

 中身を見なくても、誰からか想像がつくあたりが嫌ね。


 手紙を私に差し出すサラは、いつものような冷静さにかけオドオドしていた。

 おそらくサラも、その手紙の差出人を確認したのだろう。


「そんなものは、今すぐ燃やしてしまえばいい」

「え?」

「はい、承知しましたー!」

「ちょっと、ちょっと二人とも! それはさすがにダメでしょう」

「僕のアーシエに勝手に手紙をよこすなど、誰であっても許されるコトでない」

「殿下のお言葉は絶対デス!」

「えええ」


 なんなの、この二人の息のぴったりさは。

 ノリノリで結構ひどいことを言っちゃってるし。

 そりゃあ私だって中身見たくもないし、触りたくもないし、燃やしてはしまいたいけど。


 ただ礼儀としてそれはマズイでしょう。

 仮にも向こうはなんだから。

 あー、考えれば考えるほど身分ってめんどくさーい。


 あ、でも私の方が侯爵令嬢で民としては格下とはいえ、ルドと婚約してしまえば次期王妃なんだもんね。

 身分とか関係なくなるんだ。

 

 だからこそ、今攻めてきてるのかなぁ。

 今しかもう、攻め入ることも出来ないから。

 そう考えると頭がいいのかも。

 褒めてはないけど。


 ルドの王宮内の調査が始まったことは、公爵家だって知っているはず。


 すでに数人の侍女が捕まったというのに、自分たちは大丈夫だって思ってるんだものすごい自信よね。

 見習いたくはないけど、それぐらい図太く生きなきゃココではダメなのかもしれないわね。


「とりあえず、読んで内容だけは確認してみないとダメだと思いますわ」

「そんなの時間の無駄だ。アーシエはそんなことしなくてもいい」

「でも相手が何を言ってきているのか分からない以上、内容が気になるじゃないですか」


「それはそうかもしれないが……」

「それにほら、今までの謝罪と今回の件の罪を認めるとかだったら、ルド様のお仕事が一つ減りますし」

「そんなこと、書いてあるとお嬢様は思っていらっしゃるんですの?」


 ある意味、純粋なサラの視線が突き刺さる。

 うん。思ってはないよ?

 一ミリも……。でもそんなこと言えないじゃないの。


「ソーネ、キットソウダッテオモッテルゥ」

「お嬢様、片言すぎます……」

「えー。だって……。書いてあるわけないじゃない」


「ほらアーシエだって、時間無駄だと思っているのだろう」

「だとしてもです! 見ずに捨てたら、気になって眠れないかもしれないでしょう?」

「そこは僕がちゃんと寝かしてあげるよ、アーシエ」

「それは……。もう……」


 ルドが言うと、18禁にしか聞こえないからダメです。


「とにかくサラ、手紙ちょうだい」

「本当にいいのですか、お嬢様」

「うん。見て、もし嫌な内容だったら燃やしてもらおうかな~」

「はい! 任せて下さい!」


 もう。燃やす気満々すぎね。

 まぁ、私もまともに相手する気はこれっぽっちもないんだけど。


 でも基本的に負けず嫌いなのよね。

 ここまで喧嘩売られてるのなら、ちゃぁんと買ってやり返さないとって思ってしまう。


 でも本当に何が書いてあるのかは気になるのよね。

 さてさて、何が出てくるのかしらね。

 作法がなってないだろうとは思いつつも、ビリビリと手紙を開ける。

 ルドとかからの手紙じゃないから残しておく必要性もないものね。


「んー、えっと? これはどういう意味なのかしら?」


『拝啓、クランツ令嬢様。この度、王宮にてわたくし主催のお茶会を主催することとなりましたので、ぜひ次期王妃候補としては参加していただきたいと思います。他の令嬢たちにも、すでに招待状は送ってありますのでお越しいただけるのを楽しみにお待ちしています。ユイナ』


 要約すると、こんな感じのことが書かれていた。


「……はぁ?」


 うん。馬鹿じゃないの。

 いや、馬鹿だよね。

 びっくりするくらいの馬鹿だわ。


 いくら私が貴族言葉に慣れていないからって、ここまで上から目線だとさすがに分かるわ。

 私を馬鹿にしているって。


 ああでも普通のか弱い貴族令嬢だったアーシエなら、これを見て泣きそうになったりしていたのかな。


 可哀想なアーシエ。

 そしてある意味、哀れなユイナ令嬢。

 この体の中身はすでに別人なのよね。

 残念だわ~。

 あれだけやり込められたのに、全然分かってないみたい。


「……うん。とりあえず燃やそうかな」

「はい、お嬢様」

「ああ、そうするといい。そして金輪際、彼女からのアーシエ宛の手紙は受け付けなくていい」

「承知いたしました!」


 二人の意見を聞いて、初めから燃やしてしまえばよかった。


 でも最後の方に書いてあった言葉。

 他の令嬢にもすでに送付してあるって。

 つまり私が逃げたら、そのことを他の令嬢たちに言いふらすってことでしょう。

 

 しかも、嫌味のようにわざわざ次期王妃候補としてはなんて書いて。

 いやらしいっていうか、なんていうか。

 本当に嫌いなタイプだわ。

 一回、やっつけられたのにまだ全然懲りてなかったのね。


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