第15話 婚約を苦にして

「私は毒なんて盛ってないと思うのよね~。だって、なんかアーシエのキャラっぽくないし」

「その点は同意します。姉上はそのようなことを思いつくような人ではありませんでしたからね」

「それならさぁ、そのユイナ嬢はなんでまた、そんな過激な作戦に出たのかな。まぁ、今はあくまで憶測でしかないけどさ」

「ああ、それは簡単なことですよ」


 レオナルドは鼻で笑ったあと、なんとも不愉快そうな笑みを浮かべた。

 なんか腹黒キャラに見えてきたのは気のせいかしら。


 でもこれでメガネとかあったら絶対に完璧なのに。

 この世界にはメガネないのかな。

 頭の良いメガネキャラ、いいと思うんだけどなぁ~。


「婚約者候補は子どものころからずっと、二人だった」

「んと、私とユイナ令嬢ってことよね?」

「そうです。元から殿下の本命は姉上だったのですが、公爵家たってのということで婚約者候補としてユイナ様は残っていたのです」

「うわぁ。さすが公爵家ね。めっちゃ権力乱用してるじゃないの」

「まぁそういうことになりますね」


 悪役っぽいわぁ。

 ユイナ嬢だけじゃなくて、公爵家そのものがなんだか怪しいわね。


「でもこの度、候補ではなく決定するとの通知が届いたのです。もちろん殿下の婚約者は姉上になるはずだった」

「んんん? でもそれなら、私が毒を飲む理由がなくないかな。だって破棄じゃなくて決定なら、アーシエにはいい報せっことよね……。私はてっきり逆かと思ってた」


「逆、ですか?」

「ユイナ令嬢とルド様の婚約が決定して、それが許せなくて~。みたいな?」

「ああ、まぁその方が分かりやすいですよね。だけど現実的に婚約者に選ばれたのは姉上ですし」


 あー、自分が選ばれてたら私に毒を盛る必要性もないんだ。

 逆に私が選ばれてしまったからこそ、毒を盛りたかった。

 

 でも私が毒を盛る理由も、飲む理由も普通ならばない。

 だって婚約者に選ばれることは名誉なことだし、きっとアーシエもルドのことを愛していたと思うから。


「私を犯人にするのは無理があるよね。どう頑張ったって。普通ならまったく理由がないし」

「問題はそこです。本来ならばスムーズに婚約は進むはずだった。なのに、なぜか姉上が婚約を拒否しているという話が持ち上がってしまった」

「え? 拒否? アーシエがルド様との婚約を?」


 アーシエはルドとの婚約を望んでいなかったってこと?

 じゃあ、破棄を苦にじゃなくて婚約を苦にっていうのはそっちってこと?


「ちょっと待って。私はルド様と婚約をしたくなかったってこと?」

「簡単に言ってしまえば、ですけどね」

「えええ。私たちに何があったの?」


「元から公爵家にはたくさんの嫌がらせを受けてきていた。それこそ小さなことから、姉上が受け入れがたいことまで」

「だから婚約を了承してこなかった」

「そうです。でも、それでも殿下のことを姉上は愛していたし、決定さえしてしまえば嫌がらせなど止まるだろうとボクたちも思っていたんですけどね」


 ルドがアーシエに固執する理由……しかも病むほどに。


 そのかけらの一つは、アーシエが今までずっと婚約することを了承してこなかったからかもしれないわね。

 そして今回、毒を飲んだ。

 もちろん私は飲まされたと思っているけど、ルドはそう考えなかった。


 今までのアーシエの行動から、婚約を苦にという言葉がしっくり来てしまったのかもしれないわね。


 だからこそあの時、私に念を押させたんだわ。

 愛するがゆえに毒をって。

 そうじゃなければ、ルドにとってはやるせなかったから。


「ここまで来ると、公爵家さんたち結構好き勝手にやってくれてたみたいね」

「本当ですよ。身分を盾にして、いろいろやってくれました。しかも挙句の果てに、姉上に毒を飲ませた後、その罪をなすりつけようとするなんて」

「そうまでしても、私が邪魔だったのかしらね」


「まあ、確証はないですから、今はなんとも言えないところが苦しいところですが」

「ああ、そうでしょうね。こんなの仮の話でしょうね。そんなに簡単に悪役がしっぽを出してくれるとも思わないし」


 にしても、だ。結構よね。いじめからの毒殺って、さすがにやりすぎじゃない。

 たまたま、アーシエの中に私がいたからよかっただけで。


「でもただの嫌がらせだけなら、婚約を苦にといっても不可抗力じゃないの。そんなことで破棄なんて出来ないでしょうに」

「それがどうも、少し前から貴族間で変な噂が流れだしたんです」

「噂?」


 私はレオナルドの言葉に首をかしげた。

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