第14話 レオナルドの考察

「大丈夫ですか、お嬢様。今すぐお医者様を呼んできましょうか?」

「ゲホッゲホッ。ぅぅぅ。大丈夫。変なトコ入っただけだから、気にしないで」

「全く、姉上は興奮しすぎです」


「興奮って。なんかその言い方、ひどっ」

「だってそうでしょう。とりあえず一旦、落ち着いて下さい」

「ううううう」


 一旦落ち着けと言われても、そういう問題じゃないし。

 だってあれ、どーいうことなのかな。


 だって私はアーシエであって、レオナルドはそれも分かってる。

 分かってるから、姉上と呼ぶわけだし。


 でもこの姿であっても、レオナルドは私……美奈のコトを知っていた。

 つまり、アーシエ=美奈だと初めから知っていたことになるわよね。

 でもだとしたら、いつから?


 アーシエになってから、ルド以外の人間に会うのは今日が初めてなのに。


「どーして、レオナルドは私のことを知っているの? だって今は少なくとも、アーシエなのに。私そんなにおかしかった? アーシエっぽくない? 見た目とかも何か違うの?」

「だから……まず落ち着いて下さい。順を追ってそこは説明しますが、何をどうしたら今の状況になっているか教えてもらえますか?」


 私はコクりと頷くと、昨日の目が覚めた時からの話を一つずつレオナルドに話始めた。


 そう。目が覚めたら牢屋にいて、いきなり断罪シーンだったこと。

 でも本当は断罪ではなくヤンデレルートの突入口であり、しかもすでにそこ入ってしまったこと。


 ことごとくレオナルドはため息を尽きながらも、私の話をただ無言で聞いてくれた。


「だいたいの経緯は分かりましたが、記憶がなくなった原因は分からないんですか?」

「そう言われても、私にはアーシエだった時の記憶が何にもないんだもん」

「ああ、それもそうでしたね。で、記憶がないことは殿下は知っているのですか?」


「記憶の全部が、とは言ってないわ。毒とか、牢屋に入れられた経緯とかは記憶が曖昧でなくってって言ったけど」

「確かに。今の位置が仮としてもヤンデレルートならば、ルート移行するまでは言わない方が何かと無難かもしれませんね」


「そうなのよ。よりにもよってヤンデレルートだからね」

「ただ殿下に言わない場合、どういう経緯で記憶がなくなったのかが分からないのも困ったものですね」


 記憶がなくなった原因がわからなければ、元に戻す方法もないだろうし、このルートからの脱出も難しそうなのよね。


 それは困るんだよなぁ。


「ん-。まだ憶測でしかないけど、たぶん飲んだって言われてる毒のせいじゃないかなって思ってるんだ」

「まぁ、その線が一番濃厚でしょうね。その件については、こちらにも情報は入っています。姉上が思っているよりも、結構大変なことになってますけどね」


 ああ、やっぱり私が毒を飲んだ件は家にも連絡がいっていたのね。

 でも当たり前か。

 もしかしたら、犯罪者なのかもしれないし。


「家にはどんな風に話が入っているの?」

「第一の報せは、殿下との婚約を苦にした姉上が彼女を道連れに毒を飲んだということでした」

「あー、やっぱり」


 この話は、ルドがしたものと同じね。

 確か、ルドを愛するあまり~だっけ。

 でも、それを認めてしまったからのヤンデレルート確定だったもんね。


「でもだとしたらよ? それなら私はそのユイナ嬢を道連れにしようとした殺人未遂の罪がかけられてるんじゃないの」


 そう考えると、少し話がかみ合わない気もするのよね。


 もし私が本当に犯罪者だったとしたら、いくらルドの権力を持ってしてもこんな離宮に匿われるのはおかしいんじゃないかな。


 普通、未遂だとはいえ殺人を犯すところだったのよ。

 貴族へのそれはかなりの罪が重いはず。


「姉上に極刑を望む公爵家と、擁護している殿下の派閥と、濡れ衣だと訴える我が侯爵家。あとは、本当に毒を飲んだのかと疑問視する声まで上がっていて、問題になっているんです」

「へー、三つ巴以上なのね」

「ですね。なんせ、毒を飲んだはずの姉上も公爵令嬢もピンピンしてますからね」


「ああ、確かに。そっか、そのユイナ嬢も元気なんだ」

「みたいですよ。だから我が家としては、姉上に毒を飲ませたあと、自分も多少口に付けるはずが怖くなって飲まなかったんじゃないのかって思っています」


 確かにその見方が一番当たってそう。

 毒を飲んで苦しんで倒れた私を見たら、普通同じものを少量とはいえ口にするなんて難しいわよね。

 頭では分かっていても、体は拒絶しそうだし。

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