第13話 テキトーってダメ、絶対

 そんなことをただぼんやりと考えながら、急に思い付きで面会なんてするものじゃないなぁと、今更ながら思いしらされた。


 なんていうのかな、情報って大事。

 うん。この一言に尽きるわね。


「で、貴女は誰なのですか?」


 弟であるレオナルドが部屋に通され、代わりにルドが部屋から出て行った。


 あくまでも仲良さげな姉弟を演じるまでもなく、出された紅茶を手に持ちながらレオナルドが私を見据える。


 明らかに警戒しているというよりも、不快そうな顔。

 私と同じ金の髪と、青い瞳のレオナルドは私がアーシエではないということに気づいたらしい。


 でもまだ部屋に入ってきて、一言ぐらいしかしゃべってもないのに。

 これ、ボロが出たとかいうレベルじゃないでしょう。


 なんか姉弟の独自の挨拶でもあったのかしら。

 ハイタッチとか、ハグとか?

 辞めてよね、アーシエさん。

 いきなり私、ピンチなのだけれど。


「そんな風にアーシエ様を睨みつけては、お話も出来ないと思いますよ? レオ様」


 レオナルドと一緒に入室してきた、同じ年くらいの侍女が優しく声をかけてきた。


 おそらく、この離宮のためにルドが実家から手配してくれた侍女なのだろう。

 まだ若いのにしっかりしてるなぁ。

 たぶん、アーシエと同じくらいよね。

 16とか、かな。


 ずいぶん若い気はするけど、おそらく、気の置ける侍女だったのだとは思う。

 深い緑の髪をメイドキャップの中に入れ、同色の瞳は常に穏やかだ。


 ここに入ってきた時に思ったのだけど、どこかホッとしている自分がいる。

 アーシエとしての記憶のせいかもしれない。


「んと……、レオナルドは何をそんなに怒っているの?」

「質問に質問で返すのは良くないと思いますよ。まだボクの質問に答えていただけていませんか? 姉上」

「あー、はい。そうですねぇ……」


 質問に質問で返すのは得策ではなかったわね。


 それに今やっと気づいたのだけど、おそらく私の間違いは呼び方だわ。

 先程から侍女が、しきりにレオ様と嗜めている。


 でも私は彼が入室してきた際に、レオナルドとフルネームで呼んでしまったもの。

 ルドがレオナルドと呼んでいたから、そこのところを全然考えてもなかったわ。


 んー。どうしよう。もう挽回出来そうもないし。


「もう一度尋ねます。貴女は誰なのですか?」

「んー……たぶん、あなたの姉なんじゃないかなぁ?」


 これ以外の最適な答えが見当たらず、私は素直に答えた。

 もうここまで来たら、なんとかなぁれとしか言いようがないし。


「何をどうしたら、そんな疑問系で返答が返ってくるんですか」

「ははははは。なんでだろうね」


 先程よりは表情は固くないものの、明らかにこれ、呆れられてるよね。

 分かるんだけどさぁ。

 そんなこと言ったって、これしか答えようがないんだもん。


「あーのね、なんていうかそのぅ……記憶がないのよ。はははは」

「……でしょうね」

「えー。すっごぉーーーーーーい。わかってたの?」


「初めからおかしかったので、そうではないかと思っていたところです」

「すごいすごい、レオナルドって天才なのね」

「褒めても何も出ませんよ、姉上。で、今の貴女は誰なのですか」


「ん-。誰と言われてもなぁ。説明が難しいっていうか、なんていうか」

「はぁ。言い方を変えますね。今の貴女は、美奈さんですか?」

「は?」


 思わず飲んでいた紅茶を盛大に吹き出す。

 そしてそのまま慌てたせいで紅茶が気管支に入り、ゴホゴホとむせ込んだ。


 慌てた侍女は駆け寄ると、私の背中を優しく擦る。

 今、美奈って言った?


 確かにレオナルドは私の前世の名前を言ったわよね。

 しかも、発音もバッチリだったし。

 明らかに、レオナルドは漢字として私の名前を読み上げてたと思う。


 どういうこと?

 なんで、レオナルドが私の名前を知っているの。

 何がどうなってるのよ。


 声を出したくても、ただ息が上手く吸えず咳き込む私に、レオナルドは盛大なため息をついた。

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