第16話 一歩ずつ回避の道へ
「アーシエ様はとても聡明な方であると同時に、とてもお優しい方でございました。公爵家はそこに付け込んだのです」
何かを考えるように言いよどむレオナルドの代わりに、侍女が声を上げた。
「サラ、辞めるんだ」
「ですがレオ様!」
レオナルドは隣に立つ侍女を手で制止する。
「レオナルド、私には話してはくれないの?」
「そういうわけでは……」
「レオナルド?」
顔を覗き込む私と、レオナルドの視線が重なる。
そしてため息を一つ吐き出すと、レオナルドは諦めたように話始めた。
「……公爵家に弱みを握られたのは姉上ではなく、ボクなのです。そしてあいつらのいじめの一番の標的は姉上ではなくボクだったんです」
「え? ちょっと待って。私ではなく、ユイナ令嬢たちはレオをいじめていたってこと?」
「そうです。だから姉上はボクの名誉のために、抵抗することも殿下に言うことも出来なかった」
「そんな……」
弟の名誉を守るために、アーシエはいじめも我慢してきたってことなのね。
頭がいいというか、なんていうか。
「ホント最低な奴らね」
最低だ。
アーシエにダメージを与えるために、わざとそんなことをするなんて。
ムカムカと嫌な感情がこみ上げてくる。
「すみません、姉上。ボクのせいで……」
「どうしてあなたが謝るの? 一ミリもレオのせいではないでしょう。どうしていじめられてたレオナルドが謝らなきゃいけないのよ」
「ですが結果として、姉上を苦しめていたことには変わりません」
「苦しめていたのは公爵家だし、あなたも苦しかったんだから謝る必要性なんてないのよ。あああ、なんかすごく腹が立ってきたわ。なんなの全く。陰湿すぎるでしょう」
間接的に、それでいて一番アーシエにダメージを与えていたってことか。
向こうも頭がいいわね。
効率的だし、弟思いのアーシエにはどうすることも出来なかっただろうな。
それにレオナルド自身も、ね。
弱みを握られてる以上強くも出れないし、かといって姉の重荷になりたくない。
きっと想像なんかよりも大変だったはず。
陰湿なのも、ここまでくれば相当だわ。
言えなかったのは分かるけど、それでもただ二人だけで耐える必要性もなかった気はする。
ただ耐えるんじゃなくて、誰かに相談出来ていたら。
結果は変わっていたんじゃないかな。
そう思うと、歯がゆいし、二人が気の毒で仕方ない。
「記憶があろうとなかろうと、貴女は変わらないのですね、姉上」
「ん? 私、そんなに変わらないかな……」
「アーシエ、話はついたかな? そろそろココへ帰ってきて欲しいんだが」
考え込んでいた私は、ルドが部屋をノックする音に気づかなかったらしい。
ルドの目は、一ミリも笑ってないし。
おぅ。相手が弟であってもこれなのね。
もしかしたら義弟になるかもしれないのに、そんなに敵対心剥きだしちゃダメだと思うんだけど。
ヤンデレ様って、そんなものなのかな。
立ち上がり頭を下げるレオナルドの横を通り、私は急いでルドに駆け寄った。
嫌々であったとしてもこの場を設けてくれたルドには、まずは感謝をしないと。
「ルド様、おかえりなさいませ」
「アーシエ、ただいま。どうだい、弟との対面は終わったかな」
「はい。ルド様のおかげで、ちゃんと話し合うことが出来ました。お心遣いありがとうございます」
思ったよりルドが早かったから、まだ肝心なアーシエの過去とかいじめの内容までは確認できていないけど仕方ないわね。
まずはとにかくルドとの関係性が何よりも大事だし。
追々、レオナルドから話を聞き出すしかないわ。
家族だし、連絡取るのもそう難しくないでしょう。
「そうか、それは良かった」
「殿下には……いえ、義兄上には、姉上を保護して下さったこと、一族全ての者より感謝いたしております」
「いや、他ならぬアーシエのことだ。問題はない」
「姉上とも話をしたのですが、本人の記憶が曖昧ではありますが、
「君も彼らと同じ意見かい、アーシエ」
「はい。私にはルド様しかおりません。他の殿方の顔すら、覚えることもありませんので」
「そうか……それなら僕もうれしいよ」
この言葉だけは、本当なんだけどな。
どうせその他大勢の顔も覚えていないし、それに病むほど自分を好きになってくれてる人なんて、そうもいないだろうし。
それにしてもちゃっかり義兄上とか言っちゃうレオも大したものよね。
ルドの性格良く分かってるわ。
あれだけ敵意むき出しにしてたルドの雰囲気が柔らかくなったし。
でもこれで、私も一族もこの婚約を望んでるってちゃんと伝えることが出来た。
まずは一個進んだって思っても大丈夫かな。
一個ずつ着実にが大切だもんね。
焦って間違えたら、人死に出ちゃうし。
うん。頑張ろう、ヤンデレルート。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます