第7話  騎士隊長、ヴァㇽ・ライナス

 俺は、早々にベッドに潜り込んだ。

 万に一つでも、起きたら元の世界に戻れるかもしれないと思ったからだ。


 そうだ。妹の凜は、学校帰りに車に轢かれたんだ。

 俺は、母親といっしょに病院に駆け付け、手術中の凜を待ってる間に、凛の荷物の中から、スマホを見つけて友達に連絡をしてるうちに、勝手にスマホの画面があるサイトに入ったと思ったら、小説サイトだった。

 凛の奴、堂々と本名で作品発表をしてやがったんだ。


 気が付いたら、その世界なんてマジかよ!!


 凛の事も心配だから、早くこの物語のクエストを終わらせて戻ることが先決だ。


 俺はなかなか寝付けなかったけど、無理やりベッドで横になって頭から毛布をかけた。


 ――知らないうちに寝入ってたらしい。

 チュンチュン、スズメのような鳥のさえずりで目をが覚めた。

 もとの世界には、戻っていなかった。


 扉をノックする音「コンコン」


「はい」


「起きたか?レイモンド。今日は、騎士隊長に挨拶にいくから」


 入って来たのは、緑の髪のレイモンドで、俺の方をチラリと見ながら、


「その服は、こっちじゃ見かけないから、東方の神殿の神官服なのか?」


 俺は、ブレザーを脱ぎ、ネクタイを外してシャツとズボンを穿いたまま寝ていた。当然シャツはヨレヨレだ。


 う~~凜の奴、何とか俺をこの世界に溶け込ませたくて、設定に無理があるのが分かってるのかね~?


 レスターは、俺の部屋のクローゼットを開けて言った。


「着替えは、ここに入っているから、寝間着はこれ、今日はこの上着と、このズボンでどうだ?」


 悪役レスターなら絶対に言わないようなセリフが出て来て、俺は吹き出してしまった。

 しかもセンスも悪い。グレイの上着に、白色のズボンは無いだろう……。


 クローゼットの中には、これでもかってくらいの服がつるされていた。


「君が貴重な魔法使いだと知って、騎士仲間がこぞって服の提供をしてくれたんだ。羨ましいよ、こんなに慕われるなんて」


 レスターは本気で俺を羨んでいた。


「王の推薦だからじゃないのか?」


 俺が言うと


「そうかもな……」


 レスターは、小さく呟いていた。

 後で聞いた話では、騎士団の目上の人に会う時は、自分の無垢の心を証明するために白いズボンを穿くのが一般らしい。



 ▲▽▲



 騎士団長は、ヴァル・ライナスという中年のオッサンだ。

 でも身長が高くて、ガタイもしっかりしている。

 もと冒険者出身でSランクの強者らしい。騎士隊長として、王が直に推薦したようだ。

 あの王様は、見る目はあるのかなぁ……? 凜の作った世界だし……。

 怪しいぞ、どんな世界になってるのか想像もつかない!!


 

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