第5話  レスター・ウィレム

 レスター・ウィレムは、俺を騎士の宿舎へと案内してくれた。

 先を歩くレスターは、チラチラと後ろを歩く俺を見てくるんだ。


 レスター・ウィレム……『光の国より愛をこめて』の中の悪役だぞ?


「あの……何か?」


「いや、君さ。ラスティス通りの織物問屋の前で靴磨きをしていたレイモンドではないのか?」


 今さっき付けられた名前なのに、元からこの世界にいたようになるんだ!?


「えっと……」


「オレは、織物問屋の二件先の骨董屋のせがれだよ」


 ……多分この設定は合っている。


「オレは、魔法使いで騎士なんだ。だから他の人から一目置かれてる。君も魔法使いになったのか? 東方で修行をして来たのか? バイルの姓はどうしたんだ」


 レスターは、人好きのする笑顔で右手を差し出してきた。

 俺は、ポカ~ンとしてしまった。こいつこんなに人懐こい奴だったか?

 俺の知ってるレスター・ウィレムと大分違う。

 レスターは、確かいつも一人で行動するキャラだ。


「嫌だったかな?」


 レスターは、悲しそうな顔で手を引っ込めてしまった。

 俺は、しまったと思ってレスターの右手を両手でとって言った。


「違うよ、また君に会えるなんて嬉しいよ!! 姓は、王から賜ったんだよ。たまたま、姫を助けたから」


「そうなのか」


 俺は、宿舎に個室を与えられた。

 新参ものとしては、なかなかの待遇だ。

 個室は、六畳くらいの俺の家での広さくらいはあって、板の間にベッドと小さな机と椅子が用意されていた。


 俺は、崩れるようにベッドに転がった。

 頭を整理しなくては……。


 ここは、ライトノベルの『光の国より愛をこめて』の小説の中の世界と酷似している。

 でも、微妙に設定や、キャラクターの設定が違うんだ。靴磨きのレイモンド・バイル??レイモンドは勇者の名前のはずで、靴磨きは違う名前のはず……


 その時に、俺の頭の中に声が聞こえてきた。


《お兄ちゃん、零お兄ちゃん!!》


「!!」


 妹のりんだ!!


「凜か!?」


《そうだよ、お兄ちゃん。小説の世界で青春してる?》


「なんだよ!!お前のせいか!?俺がこんな訳の分からない世界にいるのは!!」


《お兄ちゃんが悪いんじゃん。私の書いた『光の国より愛をこめて ~友情編~』を読んでくれないんだもの》


 友情編?なんだそりゃ?





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る