第6話 陰謀渦巻く、お嬢様バトロワ(つまり昼ドラ)




山田やまださん……!」


「っと……、霙子みぞれこさん、困ります、そんな、抱きつかれては……!」


 霙子は恐怖に怯えるか弱いお嬢様を装って、山田に抱きついた。


 その目的は明白である。再び山田の胸に触れ、この青年が「女」であることの確証を得るためである。


 霙子は覚悟を決めていた。


あられが実の父親を切って私を本気で獲りにきた。実家がヤバくなった今、なりふり構わずといったところかしら。私も道連れにしようという魂胆ならば、私も手段を選んではいられない。仮にこの山田が霰の手の者だとしても――)


 霙子は手にしていたナイフを山田の胸に押し付けた。

 山田は突然の凶器に一瞬表情を硬くさせたが、それより胸に触れられることを避けるかのように軽く後ずさった。


「これを貴方に託します。私が持っているよりも、貴方の方が使えるはず」


「…………」


 それは霙子の信頼の証だ。山田にそれを託すことで、霙子が山田に全幅の信頼を置いていることを行動で示したのである。


 無論、ブラフだが。


 いざとなれば近くのお巡りさんを呼び寄せ、銃刀法違反でしょっ引いてもらおうという保険である。学校までの道中に少しでも不審な動きを見せれば、であるが。


(うまく利用してやるわ、山田何某なにがし……。お前がどっち側の人間だとしても、「男装の麗人」というキャラは霰の趣味に合うはず。あの女に近付き、その寝首をかく、お前はこの私、霙子のナイフとなるのよ――)


 霙子は密かにほくそ笑む。


 天now次てんのうじ・霰の方から仕掛けてきたのなら、逆に好都合。


 あの温室育ちで汚れを知らない、清楚にして可憐な真のお嬢様には裏の顔があったのだと明らかになった。もはや罪悪感などない。

 その化けの皮、必ずや白日の下に晒してやる。


(そして、私が真のお嬢様に――天now次の名を受け継ぐのよ)


 ……しかし、その天now次家の現当主たるパパが現在絶賛逃走中というのは、やや気がかりだが。


(いや、これぞ好機――この私が天now次を乗っ取ってやるわ……!)



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