第三章 黄昏パートタイマー
第十話 超常者のルーティーン
幾多の武勇伝|(笑)を誇る、残念系強面男子高校生の
彼が後輩にして土地の霊的管理人と称する高位精神体から街の安全保障、その実務代理執行を託された
季節は移り変わり、穏やかな秋を過ぎ、静かな冬を迎えていた。
師走。
年の終わりを控え、街全体が何か慌ただしく、そして妙に浮かれ気分になってきている、そんな時期。
「……この先、雪が積もるようになったらここへ上がってくるの、危なくないかな?」
「確かに。けっこう勾配急ですし、道路にしても階段にしても滑りそうで怖いですね」
「ふむ、積雪期には集合場所の変更も検討しておく必要がありそうだね」
のんびりと世間話を交わすのはご存知、チーム サニー・ベルの面々。
学校指定である青灰色の男子用コートを羽織り、ハリウッド俳優が宇宙人に扮したCMで有名な缶コーヒー(微糖)を片手にした安生一誠。
こちらは冷えは大敵と、女子用のアイボリーのコートに
これにフェイクファーのイヤーマッフルでも装備されていれば完璧だ。ちなみにインナーは勿論吸湿発熱素材のを着込んでいるぞ。
両者の間に漂う光球、永いこと物質世界に居過ぎてなんとも俗っぽくなってしまっている高位精神体。呼び名は管理人さん、旧名はジョン。
果たして彼が飲食を必要とするのかは、大人のひ・み・つ。
「ここみたいに人目につかないところって、結構条件厳しくありませんか?」
白い息を吐きながらこぼす日輪に、
「その言い方はどこかいかがわしい想像を招くね……なに、探せば意外とあるものだよ」
大人ジョークを交えつつ返すは管理人さん。日輪相手にそれはいけない。
「じゃあ、変更する集合場所の選定はこの中じゃ一番古株の管理人さんに任せるとして、そろそろ
管理人さんの言葉に困った笑いを浮かべつつ、自分の分と日輪の分、飲み終えた缶をダストボックスへ捨てながら一誠が言う。
その言葉にこくりと頷き、少し離れたところに移動する日輪。
スカートのポケットからあの日輪〇面のコンパクトを取り出し、それを構えながら変身ワードを唱える。
「変身ッ! ――サニー・ベルッ!」
日輪が眩い光に包まれたかと思うと、一瞬にして現れるサニー・ベル。勿論決めポーズ付き。
「今日は
一誠と管理人さんにそう告げると、いつもの様にフェンス側へと駆け出し、宙へ身を投げ出して飛翔する。
変身するならそれっぽいアイテム使った方がらしくなって気持ちも入るんじゃないかと、己の趣味の領域でのアドバイスを施し「それもそうですね」 と日輪から言質を取り付け、彼女の思い入れの品でもあるあのコンパクトを使うことを薦めた一誠。
現在の、いや古くから変身ヒーロー物に必須なもの、それは変身デバイス。
作品の見せ場的にも番組のスポンサー的にも、これが無ければ画竜点睛を欠くというものだ。
変身アイテムにすれば今まで以上に大切に扱うようになるだろうから、うっかり落としたり失くしたりはしなくなるぞと、いかにもな助言をしたこと、そして管理人さんにお願いしコンパクトを使わなければ変身出来ない仕様にしてもらったことも付け加えておこう。
……抜け目ねぇ。一誠って意外と策士キャラ?
軽やかに空高くへと舞い上がっていくサニー・ベル。その姿を目で追いつつ、
「では、こちらも参りますか?」
一誠が管理人さんに軽口で言いながら、先程の日輪と同じ様にフェンスへと走り出し、心の中で "イー・エス・パーッ!" と唱えながら、フェンスに足をかけ中空へと飛び出す。気分はとってもババババ、バキューン♪
身体が宙に舞う瞬間、異相空間へとシフト。
ジャンプした一誠の体は通常では考えられないほどの距離を滑空し、眼下に広がる住宅街へと重力にしたがって落ちていく。
加速のついたまま民家への屋根へと激突。そのままぶち貫いて大惨事と思われたが、落下の衝撃を与えること無く軽やかに着地しそこを足場にしてさらに力強く飛び上がる。
そしてその行為を繰り返しながら、本日の目的地である小鹿地区へと向かっていく。
はためくコートがヒーロー気分を盛り上げる。
コスチュームのマテリアルにしてしまうため手荷物が消えるサニー・ベルと違い、鞄を手にしたままなのでいささか様にはなっていないのが玉に瑕。
だけれども、ジャンプを重ねる一誠の顔に堪えきれない笑みが浮かぶ。
自分が嗜好する世界、憧れ敬ってきたその中の登場人物たちと同じ様なアクションが出来るこの瞬間が、堪らなく楽しく嬉しかった。
この気持ちが味わえるだけで、日輪たちの手伝いを始めて良かったなぁと思う一誠であった。
奪われる時間や抱えねばならない秘密からすれば対価として安いと思われるだろうが、問題ない。この快感、プライスレス!
協力者となることで管理人さんから与えられた一誠の能力、その一端がこれ。
異相空間限定ではあるが、常人の数十倍の身体能力を使う事が出来るのだ。
この驚異的な肉体能力を駆使し、空を行くサニー・ベルを地上から追う一誠である。
また管理人さん随伴という制限付きではあるが、自由意志で異相空間への出入りが出来るようになったことで、先程の様に日輪の変身の際に異相空間へと巻き込まれるのを意図的にキャンセルすることも可能になっていた。
そう。これでもう一誠は変身の度に日輪の
望む望まざる関係なく一方的にうら若き乙女の全裸を拝むことになっていた一誠は元より、意図せずとは言え見せびらかしていた側の日輪――その事実を知らないとしても――の精神衛生上、とても良いことがらなのは間違いあるまいて。
……誰、そこで残念とか言ってるの?
やーねぇ、それってセクハラよセクハラぁ。
けして書き手が、あの手間のかかる肉体変化の様子や、それに付随する場景の描写をすることを嫌がった訳ではない。えぇ、ありませんとも。
変身シーンの描写は文字数を稼ぐにはもってこいだった上に、お約束的なサービスシーンを挿入することが出来るから色々と都合がよかったのである。
むしろそれに代わる何かを書かなければならなくなることで、実質的に執筆する労力に差はなく、いや、どっちかってーと新しい文章を捻くり出さなきゃならないだけ負担は増えていると言ってよいだろう。
そう、まさに今こうしてメタなことを書きまくって字数と行数を稼ぎまくっている現実を見よ。文章量をそれなりに見せる水増し作業、それはそれで大変なのだよ、えっへん。
救助要請現場へと真っ先に駆けつける
まー、することは
ん、となると押っ取り刀で後からやって来る一誠は
キャラ的には管理人さんは
あ、TBは勿論
「パスュート・エコーッ」
小鹿地区上空で滞空しながら精神を集中し、超感覚を発動させるスキル名を唱えるサニー・ベル。
ある特定の波動を地上に向けて放ち、反ってくる様々な情報の中から必要なものを選択する。レーダーとかソナーみたいなものだと考えていただきたい。
感覚を研ぎ澄まし目的とするものを探す。流れ込んで来る処理すべき情報量の多さから脳が悲鳴を上げ、引き起こされる頭痛にサニー・ベルの表情が歪む。
「……あった」
脂汗を額に浮かべながらそう口にするとスキルを解く。発動させていたのは二分にも満たない時間であったが、彼女の消耗度はかなり高い。
深呼吸をし全身の緊張を解いたのち、手のひらで耳を覆うようにすると、
「――聞こえますか先輩? 反応ありました」
まるで携帯電話を使っているかのように会話を始める。
「――わかった、北町三丁目のどこかだな? 見つけたら連絡する。それまで休んでな」
跳躍を続けながら交わしていた会話を終わらせる一誠。次のジャンプで行き先を変え、今しがた聞いた場所へと向かう。
契約を結び実務代理執行者とその協力者となったことで、両者の間には管理人さんを介して霊的な絆、言わば魂のホットラインが生まれており、先程の会話はそれを使った思念波の通信である。
ぶっちゃければテレパシーのケータイだ。
電話と同じく相手が受け取らなければ繋がらない様に、一方が相手の思考を勝手に読み取ったり出来るものではないところがミソ。プライバシーは守りましょう。
ちなみに管理人さんにはこの法則は通用しません。やろうと思えば思考を覗き放題です。
本人は否定してますけれども一応「神様」と崇めたてられていい存在ですから。ホントはすごい管理人さん、態度は結構軽いけどね(笑)
目的の小鹿地区北町三丁目近辺に到着すると、あたりに人気が無いことを確認してから通常空間へと戻る一誠。
それから何気なく町内をぶらついている風を装いながら、管理人さんから与えられた能力のひとつで通常空間でも使える
超常者のサニー・ベルが使ったそれと違い、協力者の索敵範囲は狭くパワーも小さいため精神の消耗率は低い。
だがしかし仮に同じ条件下で能力を駆使したとしても、先に消耗するのはサニー・ベルの方であろう。
理由は簡単で、超常の力の源は使う者の体力と精神力にあるからだ。
変身したとしてもベースとなる体力・精神力、鈴城日輪のそれは安生一誠に大きく劣るのである。
鈴城日輪はその太ましく健康的な見た目と違い、脆弱なのだ。
彼女にあるのは人の役に立ちたいと言う思いだけ。
ただその思いのみで街の安心と安全を守ろうと日々活動を続けているのである。
協力するようになって日輪のその思いの強さを知るところとなった一誠はその志に素直な敬意を抱き、彼女を支えることに注力するようになっていた。
異相空間内ならば時間はかからないはずの探索をあえて通常空間で行うのも、能力を使って消耗しているであろうサニー・ベルに少しでも休息をとってもらうためであった。
安生一誠、気遣いの出来る男。ダバダ~ダ~ダッバダバダ~♪
ごく普通の街中である、ただの学生が歩いていても怪しまれることはないだろう。
探索の能力を発動させたまま時間をかけて北町三丁目を回る一誠。思っていたよりも探査範囲が広く、そして人の流れもあったために索敵は上手く行かなかった。
さすがに同じ町内をぐるぐると歩いていれば不審に思われだす。道に迷ったような振りをして誤魔化すにも限度がある。
一誠はサニー・ベルも十分に休息をとれた頃合いだろうと判断し、戻った時にリスクが無いだろう場所へ移動して異相空間へと移る。
シフトしたのち軽くジャンプして傍に立っていた電柱の天辺に着地すると、そこを基点にして三百六十度のサーチ。勿論能力のパワーは上げて、である。
「――!」
張り巡らせた網の一部に微かに引っかかる感覚。広げていた範囲をそこに集中させ改めて索敵。返って来る情報は求めていたものだった。
ジャンプ一閃、反応のあった場所へと向かう一誠。
近づくにつれて大きくなる反応に導かれるまま進み、辿り着いたのは一般家屋が幾つも並ぶ住宅地。
民家の前を通る生活道路脇、コンクリート製の蓋ありの側溝。その一角から強く反応がある。
「――管理人さん?」
「ああ、あるね」
うかがいを立てる一誠と答える管理人さん。一誠は索敵の能力をオフにすると側溝へとしゃがみ、重さを感じさせずに蓋の一枚を捲り返す。
「……当たり」
本来なら雨水などの排水が流れるであろう側溝には、落ち葉や空き缶、スナック菓子の空き袋といったゴミなどに混ざって、明らかに異質なテニスボール大の黒い靄の塊がいくつか存在した。
触れればあっという間に霧散してしまいそうなもろい存在、それこそが一誠たちが探していたモノ。
人々が日々こぼす小さなマイナスエネルギーから生まれ、いずれ起きるであろう大災害を呼ぶひずみを作る、その源・
立ち上がり顔を上へと向けると一誠はそっと耳に手のひらを当て、念話通信を起動させ、
「見つけた。出番だ、サニー・ベル」
空で待つ、彼女を呼んだ。
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『やぁ、みんな。サポーターの安生一誠だ。
好きなものはカレーパン!
俺のカッコイイとこ、読んでくれたかな?
異相空間の中なら超人だぞ(笑)
ちなみに飛び出すときの掛け声が、光速エ〇パーなのはわかったよな?
赤青ツートンの強化服、かっこいいよねぇ。
それはさて置き、案外地味なスーパーズの活動。
意外と思うなかれ、何事も地道な一歩一歩からなのです。
そして見つけた目的のもの。
さてさて、これをどう片付けるのか?
次回「第十一話 休息時間に彼女は憂う」
……へえー、あの外装ってそんな機能もってんのか、便利だなぁ。
で、鈴城はなんに悩んでんだ?
俺で良ければ相談に乗るぞ、仲間じゃないか!』
(ナレーション・安生一誠)
次回へ続く。
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