第五話 ランチタイム 二景

 四時限目が終わり、学生たちにとって待ちに待っていた昼休憩の時間となった。ある者は食堂へ、ある者は購買へ、またある者はこっそりと校外へ。

 思い思いに若さのたぎる食欲を満たそうとする。

 そんな列に加わらない者たちは、予め用意していた弁当だったりパンだったりを手にして、自らの思うところでしょくそうと動く。

 ある者は教室で友たちと机を並べて、ある者は食堂で気の合う仲間たちと賑やかに、ある者は中庭の木陰で誰かさんとこっそりふたりきりで、またある者はひとり淋しくトイレの個室でだったり。

 ちょっとした武勇伝がおかしな尾ひれや背びれをつけ、気がつけばなんだかよくわからない想像上の生き物へと変化を遂げたような怪しげな噂の数々を背負う我らが主人公・安生一誠あんじょういっせい

 そんな彼ですから、皆に避けられ独り寂しく食べてんじゃないかと思ったら、まぁどうでしょ。教室の、自分の席で、お友達と仲良く机向かい合わせて食べているじゃあ~りませんか。

 これが可愛いクラスメイトの女子だったりしたら、ケッと悪態のひとつでもついてやるところですが、幸いな事に彼と同席していたのはむくつけき男子生徒二名でありました。よしっ。

 ただ、彼らのことをチラッチラッとうかがうようにしている女生徒たちが見受けられるのは……なんか面白くありませんね。

 しかし、そんな視線に気がつくことも無く、マイペースに食する男三匹。よ~しよし。

 一誠の弁当箱は主食と副食の容器が分かれているタイプのもので、副食入れには夕べの残り物であろう、継実つぐみの手によるキャベツ尽くしのおかずの数々が並んでいた。

 ウィンナーのキャベツロール。キャベツとニンジン、ピーマン、ベーコンのカレー炒め。茹でキャベツと炒り卵のゴマドレッシング和え。これは朝作り足したのだろう、定番の厚焼き玉子といった具合。

 ご飯にお弁当パックのフリカケをかけ、箸を運びパクパクと食べていく一誠。

 その食べっぷりは作った者が見れば、嬉しさに頬の緩むだろう事間違いなしの光景だった。良かったねツグちゃん♪

 食べっぷりだけならば負けていないのが、一誠の対面に座る男子生徒である。

 梨地に艶消し黒の重厚感、肉体労働者ご愛用で有名な某社のランチジャーを持ち込み、質より量といった構成の弁当をバクバクと平らげていく。その食いっぷりも調理者冥利に尽きるものであろう。

 今時の若者には珍しい、ビシッと決めたリーゼントがイカス彼ではあるが、一誠の弁当へ羨ましそうに目をやると、

「……相変わらず、ツグちゃんの作るものは美味おいしそうだよなぁ」

 と、箸の動きをしばし止め、ポツリとこぼす。

「~ん、中野なかののも、いつも豪快で美味うまそうだが?」

 口の中のものを咀嚼し終えてからそう返す一誠。

 他意もなにも無い言葉だったが、ランチジャー・リーゼントの彼こと中野隆三なかのりゅうぞうには胸に堪える一言だった。

「知ってるだろ? うちは親父が作るんだ……、そりゃ豪快さ……」

 一誠から視線を外し、淋しく告げる中野。その眦にはうっすらと浮かぶものが……。

 ――コックに男が多いことからわかる様に、男の手料理というのはある部分では女性の作るそれを、味や出来映えなどで凌駕することが多々ある。

 が、何事にも例外はある訳で、中野の父はその例外の最たる者なのである。

 誇り高き肉体労働者である中野父の食事に対するモットーは、とりあえず食えて身になればそれでいい。

 基本は焼くか炒めるか。味付けなんかは塩コショウ、あとは醤油とソース、それで十分といった野卑溢れるモノなのであった。ん~ワイルド。

 今、中野が食べていたのも、乱雑に切られた各種野菜と豚バラ肉の炒め物。手間も時間もかけられていない堂々たる男の手料理だ。

 実はこれ、朝食の残り物だったりする辺りさすがハードワーカーの家庭、朝からガッツリだぜ。

 そして、ランチジャーなら忘れちゃいけない汁物も大方の予想通りインスタント味噌汁という、この割り切った男らしさ。素敵ッ、抱いてッ!

 もう一品、レンジで軽くチンしたもやしを醤油と胡麻油と七味唐辛子で和えたものがひっそりと添えてあるが、これはおかずがひとつではさすがに寂しいと中野自らが作ったものだったりする。

 父親よりも使う調味料が多いところに、今までの食生活に対する悔恨と研鑚の跡がうかがえた。

 そんな中野に一誠は副食入れをついと差し出す。

「……いつも、すまねぇ」

 そう言いながら箸を伸ばし、副食入れにあった厚焼き玉子をひとつ、口へと運ぶ。

 ちなみな話だが、一誠の弁当のおかずはひとり分としてはいささか量が多かったりする。

 兄からいつも友人たちにお裾分けしていることを聞いた継実が、それ用に分量を多くしているためだ。

 兄と友人たちの関係を円滑にするための手間を惜しまない。継実、なんて出来た妹! 是非一家にひとりこんな妹が欲しいものである。

 そんな継実の気持ちのこもった料理を、ゆっくりとしっかり味わうように咀嚼し嚥下して、

「……これだよなぁ、家庭の味って……」

 シミジミと感想を漏らす。その胸の内を正確に言えば "女の子が作った家庭の味" である。

 中野家は安生家と間逆で、ホワイトカラーの母親が単身赴任しているのである。そして中野家には安生家と違い他の女手は無かった。

 家事は残った男どもで分担していて隆三の担当は掃除。実は下手な女子よりも手際が良かったりするのは知られていない。

 この事実を売りにすれば、一見オールドタイプなツッパリ風の外見に対し家庭的だと、そのギャップ萌えで女子人気が高くなる事間違いなしなのだが……。

 残念ながらそれに気がついていない中野隆三、ロンリー・リーゼントの背中は淋しい。

「――弁当あるだけいいじゃん。これもらうな」

 ちょいと苦笑いを浮かべながらそう言って、一誠の副食入れからウィンナーキャベツロールをひょいと奪う第三の男。

 おそらく登校途中に買ったのであろう、コンビニの袋から惣菜パンや飲み物を出して食している彼の名は宮戸裕次郎みやとゆうじろう

 まだら気味になった茶髪、しらけた風な眼差しに皮肉気な口元で、どこか物事を斜めに見ている雰囲気を繕っている。

「作ってもらえるだけありがたいって思えよ。その点俺なんか……」

 と、宮戸が何処か芝居じみた仕草と物言いで言葉をつなごうとするが、

「自分で作れば?」

「だな」

 中野と一誠に一蹴される。

「――えっ?」

 これからカッコよいセリフを言おうとして、その出鼻をくじかれた形の宮戸。

 更に追い討ちをかけるかの様に、

「お袋さんが弁当作れないのは夜遅くまで働いてて、朝がきついからだろ? だったらお前が早く起きて作ればいいだけ。違うか?」

「い、いや。それは……」

「逆に遅く起きるお袋さんのために朝食用意しておいてもいいくらいだろ? お袋さんが真夜中過ぎまで働いてんのは、お前のためでもあるんだし」

「だ、だけど」

「普通母親が飯の支度とか出来なかったら、自分で何とかしようとするもんだぞ? お前そんな素振り、全然見せねーし」

「えっ……とぉ」

「弁当作ってもらえない俺、哀しいけどめげないぜ! って不憫な男気取るには底が浅い。化学の実験で使うシャーレよりも浅い!」

「ぐぬぬ……」

 中野が次々と正論を並べ、宮戸の口を封じ込める。一誠は黙ったまま頷いて、中野の言葉を肯定していた。

 そう。宮戸裕次郎は悲しいほどに空回りする、ただのカッコつけたがり屋なのだった。別称をお調子者とも言う。

「……ふん、いいんだよ。そのうち "お弁当ふたつ作ってきたの、一緒に食べよ♡" って言ってくれる彼女作るんだから」

「――もう何度目かな、それ聞くの?」

「現実見ろって、な?」

 言い含められうなだれていた状態から一転、強い口調で言い直る宮戸を呆れた様に諭す一誠と中野。

 しかし、

「いーや言うね、何度だって。声に出し続けていればいつか願いは届く叶うっ! 言霊バンザイ、だ」

 けして挫けない、踏まれる度に強くなる麦のごとき精神、これもまた宮戸という男。 "はだ〇のゲン" スピリットはここに受け継がれていたっ!

「だが、古今東西、妄言虚言が叶ったためしは無いな」

 そんな宮戸のたくましい言葉を、バッサリと切り捨てる一誠。

 妄執を容赦なくへし折りにかかる。残酷だけど、これも友情なのよね。

 そんなこんなのいつもの昼食を終え、弁当箱を片付けた一誠はチラリと教室内の時計に目をやり、時間を確認すると席を立って教室から出て行こうとする。

「ん、どこ行くんだ、便所?」

 中野が声をかけてくるが、

「野暮用でな、ちょっと行って来る」

 少しだけ困り顔をしてそう答え、教室をあとにする一誠。

 向かう先は屋上――。


 一年四組にも昼休憩が訪れ、皆が思い思いの時間を過ごしていた。

 四時限目終了を知らせるチャイムが鳴り始めるやいなや食堂や購買へ駆け出していく者たち。机や椅子を移動させて弁当や予め買っておいたパンなどを広げる者たち。別のところで食べるのか、弁当箱やパンを抱えて教室を出て行く者たちと様々だ。

 鈴城日輪すずしろひのわは友人たちと教室残り組みだった。

 机を並べた簡易テーブルに、女生徒らしい弁当箱やその包みが広げられている。

「あれ、ひーちゃん、今日はパンなんだ?」

 その幼げな容姿に似合う可愛らしい弁当箱を開け、先割れスプーンを手に持ちながら食べる準備は万端のお下げちゃんこと、鳥居とりい遊子ゆうこがそう言うと、

「う、うん。コンパクトのことで夕べあんまり眠れなくて、それで寝坊しちゃって……」

「弁当、作れなかった、と。でもま、たまにゃパンもいいんじゃない?」

 照れ隠しするように理由を話す日輪に、ワイルドさんこと宇佐美うさみ美由紀みゆきが言葉を被せる。

 実は彼女もパンだったりする。

「ミミちゃんみたいに、いっつもパンじゃ飽きるけどね」

 そんな風にお下げちゃん・ユーコが笑いながら茶化すと、

「ふんっ。そういうユーコもたまには自分で作って来ちゃどうだい? あ、お子様には料理は危ないか~」

 受けたワイルド・ミミがからかい混じりに言葉を返す。

「なにぉ~」

「なんだよ?」

「まぁまぁ、ふたりとも……」

 そんな感じで三人がワキャワキャやっていると、

「いや~、参った参った。相変わらず競争率厳しいわー」

 なんて言いながら、ノッポさん・細貝ほそがい達己たつきが皆の元へとやって来る。

 話しぶりからすると購買へ買い出しに行っていた様子だ。

「タッつん、おかえりー。で、首尾は?」

 ユーコの言葉にノッポ・タッつんは不敵な笑みを浮かべると、

「カレーパン、ヤキソバロール、カツサンドの三種の神器ゲットだよんっ♪」

 そう言って机の上に戦利品を広げれば、他の三人から「オオーッ」と小さな歓声と拍手が。

「タッつん、相変わらず凄いねー」

 日輪の賞賛の声に、もっともっとといった感じに胸を張るタッつん。

「でもパンを手に入れるのならさ、欲しい物が無くなってるかも知れない購買よりも、ミミちゃんみたく、登校途中コンビニとかで買って来た方が楽じゃないかなかな?」

 と、ユーコが身も蓋もない疑問を口にする。

 しかしタッつん、少しも慌てず。もっともだと頷きながら、

「ん~効率を求めるんならそっちの方がいいよね、絶対。でも、あたしが求めているのは幾多の障害を乗り越えて目的の物を手にする満足感だからね。ダメだった時は自分の力の無さを悔やんで次への活力にするまでだし」

 なんてカッコいいことをのたまったりなんかする。この男前ぇッ 素敵ッ!

「流石は体育会系。言うことが違うね」

「えー、あたしは楽した方がいいと思うけどけど?」

 日輪とユーコがそれぞれ思うところを素直に告げる。そんなふたりにガハハと豪快な笑み混じりに、

「それにさ、競い合って勝ち取ったのって、気分的に一味違うんだよね。旨味が増す? みたいな」

 てなことを言うタッつん。……君、閉店間際のスーパーとかで半額弁当争奪戦に参加なんかしていないだろうね? 所属の部活はハーフプライサー同好会とかいわんだろうな、ましてやふたつ名持ちだとかないだろうね、おいおい?

「……あたしはどっちかって言うとヤキソバよりもソーセージロールの方が好みだな~」

 それまで会話に加わっていなかったミミさんが、タッつんの戦利品を眺めながら、ちょっとケチを付けるかの様に口を挟むと、

「ふーん……おやぁ、そう言うわりにはメンチカツロール?」

 己の持てる力をかけて奪い取って来た物を貶された様に感じてか、タッつんがミミさん手持ちのパンを覗いてケチを付け返す。

「む、無かったんだから仕方ないだろ」

 ミミが不機嫌に返す。ふたりの間で見えない火花が散った。バチバチ。

「まぁまぁ、ふたりとも」

「いいからさ、早く食べよ食べよ?」

 言い合いになっては堪らないと、ふたりの間に割って入る日輪とユーコ。

「それもそうだ」

「さっさと食べるか」

 食欲の前には全てが許されるのか? 微妙だった雰囲気もあっさりと霧散し、タッつんも席に着き食べる姿勢をとる。

 「お、お腹がすくと怒りっぽくなるんだな」と、その昔どこぞのアンドロイド究極超人が言ってましたなぁ。しみじみ。

 声を揃えて、

「いただきまーす」

 と手を合わせ、食事に取り掛かる乙女たち。食べる合間合間に会話が弾む。

 話題は基本的に他愛の無いものだ。夕べ見たテレビのことやら、評判になってるお店のことだったり、誰某たれがしと誰某がアレしてコレしたとか、まぁ諸々。

 粗方食べ終わった辺りで、不意にユーコが言う。

「そう言えばひーちゃんさ」

「ん、なに?」

「コンパクト拾ってくれた先輩がさ、別れ際になんか言ってたみたいだけど、なに言われたのかなかな?」

 捨てるためのゴミをコンビニ袋にまとめていた日輪の動きが止まった。張り付いた笑顔に不穏な汗が流れていく。

「な、なんでもないよ~。もう落とすなよとか、ごにょごにょ……」

 見事なまでの棒読みでそう答え、ゼンマイ仕掛けの細工物の様に、ぎこちなく皆からの視線を避けようとする。

 あからさまに怪しくなった日輪の態度。勿論見逃す友人たちではない。

「嘘だな」

「嘘だね」

「嘘だよね~」

 異口同音に発しながら立ち上がり、日輪を静かに囲むと、

「ホントのことをキリキリ白状しようね♪」

 爽やかに恫喝するのであった。嗚呼、素晴らしきかな友情!

 にこやかに笑みを浮かべて迫る友人たち。こういう時の笑顔って本気で怖いと思います。

 こんな場合だと黙ってたり誤魔化す方がいろいろと面倒なので、あっさりと口を割ってしまう日輪である。

「話したいことがあるから、昼休みに屋上で会おうって……」

 実際のところ一誠は場所と時間の指定しかしていないので、話したいというか訊きたいことがあるのは日輪側なのだが、自分が受身に回っていた方が話が通りやすいのでニュアンスを変えていた。

 ……こういうことをナチュラルにやるから怖いですよね、女の子って。

 そんな日輪の言葉を受けて、始まる三者会談。

「どう思う?」

「言葉どおりだとして、何を話すつもりなんだか?」

「落し物届けたんだから、お礼の催促かなかな?」

「お礼って……。さすがにコンパクトの一割はないでしょ?」

「男子たちのバカ話、鵜呑みにすんのもあれだけど、女慣れしてるってのが本当だとしたら……日輪自身?」

「うわわっ。ひーちゃん、てーそーの危機なのです」

「ま~日輪は少しポッチャリさんだけど、乳でかいしエッチな身体ではあるが」

「その線はありえるか……」

「ひーちゃん大人の階段登っちゃうのかなかな? ドキドキ」

 ……この手の会話は大体において当事者はほっといて行われるもので、見事蚊帳の外に置かれた日輪は、友人たちの無責任かつ無慈悲な会話に顔色を赤や青にしながら、あわあわしていた。

 勿論、その言葉は友には届かない。が、助けの手は意外なところから来るもので、

「安生先輩なら、大丈夫よ」

「うわぁっ」

 突然背後からかけられた言葉に、慌てふためいて散らばる三人娘。声のした方へと顔を向ければ、

「――なんだ、いいんちょか」

「脅かさないでよ~」

「寿命が縮まったのだなだな」

 ほっとしながら胸を押さえたりして口々に言う。

「驚かせたみたいね。陳謝するわ」

 苦笑しつつ軽く頭を下げてそう言うのは、クールビューティなクラス委員・中禅寺晃ちゅうぜんじあきら

「話を戻すけれども、安生先輩に関する噂のほとんどは捏造だから、安心していいと思うわよ?」

「……なんでそんなに自信満々で言い切れるのかなかな、いいんちょは?」

 怪訝な顔で訊ねるユーコ。対して中禅寺。

「少しお話させてもらったから、そこからの印象ね」

 しかし、根拠はそれだけ? ってな顔して見返している三人衆。

 その反応に中禅寺晃は考える。

 交わした言葉の端々――ジャシ〇カ帝国ビッグバンビームとか改造実験帝国メ〇大博士ケフレン――から、同好の士なのだろうと知れたシンパシィが根拠だと、そう言ってもおそらくは理解はしてもらえないだろう。

 自分も含めて安生先輩がその手の趣味の持ち主であることを公言しているとは聞かないので、ここでおおっぴらにするのもためらわれる。

 となると、もうひとつの、……この胸に柔らかくほのかに生まれた感情の方を根拠にしてしまおう。

「不足?――なら……そうね、ひとめ惚れした女のカンって言ったら、どうかしら?」

 少しだけ不敵に、それでいて淡く頬を染めて中禅寺が言うと、

「信じる!」

「右に同じ!」

「女のカンなら仕方ないかな!」

 あっさりと手の平を返す三人。すげえな女のカン、万能じゃん。

 変な感じで納得している三人衆を尻目に、放置されていた日輪に向けて、

「鈴城さん、そろそろ約束の時間じゃないかしら?」

 時計へと視線を誘導させるように声をかける中禅寺。

「殿方を待たせるのはいい女の特権とは言うけれど、遅刻はしない方が誠実さを示せると思うわ。あなた、お礼を言う側なのだし、ね?」

 そんな中禅寺の言葉に時計を見、あわてて教室を出て行こうとする日輪。が、一端立ち止まり、中禅寺に三者会談をまとめてくれたことへの感謝を込めた一礼をする。

 その礼に目礼で返し、

「先輩によろしくね」

 優しい微笑で送り出す中禅寺。

 教室を出て屋上へと行くために昇降口へと向かう道すがら、その笑みを思い返し "ひとめ惚れって本当なのかなぁ" とか想像を巡らせる日輪。

「……中禅寺さんて、あーゆー強面がタイプなのか」

 つい口に出た。日輪の中では安生という先輩は怖い顔の印象しかなかったから。

 中禅寺は大丈夫といったが、日輪がそれを信じるには接していた時間はあまりにも短かったし、彼女のように特別なインスピレーションを感じなかったことが不安を膨らませていた。

 それでも脚は一歩また一歩と階段を上り、ついに屋上へと続く扉の前まで到達する。

 ゆっくりと大きく深呼吸をし、気持ちを落ち着かせてから扉を開く。

 秋も深まろうとしているこの季節では、屋上で過ごそうとする者はそう多くない。まばらな人影の中、視線をめぐらせると目的の人物がいた。

 向こうもこちらを見つけたようで、手を挙げゆっくりと近づいてくる。

 鈴城日輪と安生一誠。三度目の邂逅であった。


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『男たちの友情ってなんだ? な食事シーン』(中野)

『比べて和気藹々とした女の子たちのランチタイム。く~、混ざりてぇ!』(宮戸)

『おまわりさん、コイツです』(中野)

『俺はまだ何もやってねぇ!』(宮戸)

『何かあってからじゃ、遅すぎる』(中野)

『ひでぇ?』(宮戸)

『屋上へと向かった一誠を尋ねて来る新たな登場人物』(中野)

『そして、屋上で交わされるふたりの会話の内容とは?』(宮戸)

『次回、「第六話 屋上とそこへと至る幾つかの思いについて」』(中野と宮戸)

『一誠ばかりなぜもてるっ? 不公平だ、改善を要求する!』(宮戸)

『挫けない奴……』(中野)


  次回へ続く。

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