私の隣に誰かがほしい

春夏秋冬

私の隣に誰かが欲しい

 私の名前は九重瑠璃花。高校生になった。受験という名の戦争を勝ち抜き、晴れて高校生になった。

 私は今度こそは、と意気込んでいる。だから、少し遠く離れた所へ受験を受けたのだ。電車通学で、一時間以上はかかるけど、それでも、自分が変われるため、そう思ってここを受けたのだ。

 新しい土地。見知らぬ人たち。私は、そこで今度こそ、自分を作っていく。思い出を作っていく。青春するんだ、そう決意する。

 入学式があった日、私はさっそく壁にぶつかった。友達を作る、という事だ。

 私は友達がずっと出来ていなかった。そう。ずっとぼっちだったんだ。根暗で、人に怯えて、教室の隅で身を縮めて、存在を消していた。同い年であるクラスメイトにもびくびくしていた。

 私は目が悪かった。だから、眼鏡をしていた。絶滅したはずのあの、ぐるぐる眼鏡をかけていた。キテレツの勉三さんがしているようなあの眼鏡だ。中学の頃まではずっとそれだった。陰で笑われているのは分かっていた。勉三とあだ名をつけられていたのは分かっていた。でも、外せなかった。

 私は、不細工だ。平均以下だ。私は眼鏡が原因で虐められているのを理解していて、それが嫌で、一度普通の眼鏡にしてみた。そうしたら、クラスのみんなに笑われた。男子から、不細工に磨きがかかったと虐められた。私は目の形が変だったようだ。だから、普通の眼鏡をかけることにより、それがみんなの目に映ってしまうのだ。だから私はそれをかけ続けた。

 でも、今度からは違う。勇気を持って、普通の眼鏡にし、長い髪も結んで、明るく振る舞い、友達を作り、青春を謳歌する。そう決意したのだ。

 だけど、実際無理だった。私には勇気がなかった。話しかけようとしたけど、声が出ない。言葉が出ない。何を話したらいいのかが分からない。私は自分の新しい椅子にただ座っているだけだった。運悪く、私の周りは全員男子だった。だから、ワンステップとして気軽に話しかけられる同性である女子がいなかった。

 私は初日につまずいた。クラスの最初にある自己紹介も、アピールできなかった。

 私は学校が始まってからまだ誰とも話していない。

 高校はお弁当だ。給食ではない。だから、班のグループで机をくっつけて一緒に食べるなんてことはない。それはちょっと安心した。中学の時とか、「汚い」という理由で、机をくっつけるとそれだけで怒られた。そして、食欲が失せるからこっちを見るな、とも言われた。私は美味しくない給食を毎日食べ続けなければいけなかった。だから、お弁当制度の高校はいい。

 だがしかし、私はどのグループにも交じる事が出来なかった。だから、一人で食べなければならない。

 私は一人ぼっちで食べている所を見られたくないから、トイレで弁当を食べる。

 トイレでの弁当は、初めてだったけど、毎日続けていくうちに、なれてきた。それだけではなく、むしろ居心地がよくなった。トイレという個室の空間が、安らぎの場所に変貌したのだ。誰にも見られない。私だけの世界。外からは話声が聞こえたりするが、それは店内で流れるBGMのようなものと割り切ることで気にすることはなくなった。

 一人ぼっちの御飯、というと、小学生の頃を思い出す。

 運動会の時、親が共働きのため、運動会に来られなかった。弁当だけを私に持たせた。私は、一緒に食べてくれる人がいなかった。だから私は体育館の裏でこっそり食べた。誰も来ないでと願いながら食べた。いつも美味しいと食べている母さんの料理なのに、美味しくなかった。

 そうそう。私は、女子の誕生日パーティに誘われたことがなかった。だから私も友達とやったことがなかった。そもそも、そういった友達はいない。

 いや、一人、いなくはなかった。体育の授業とか、何かの実習の時とかでメンバーを作るときがある。私はとある男子と一緒になることが多かった。その子はいつもメンバーに選ばれず、あまりものの私とペアになることが多かった。余りもの同士、どこか感じる所はあった。少しだけ、仲が良かったといえばそうなのかもしれない。その子が唯一の救いでもあった。でも、その子は引っ越してしまった。だから、私はまた一人ぼっちになった。

 話を戻す。私は勇気を振り絞って自分の誕生日パーティを開いた。招待状も手あたり次第に出した。あの時の私はあの子という友達がいたから、そんな事が出来た。

 私は母さんに、嬉しそうに、パーティを開くことを言った。招待状を何人にも出せたよ、と胸を張って言えた。母さんは感極まってか泣きながら、「じゃあ、ちゃんと準備しなくちゃね。母さん、張り切っちゃうわ」と意気込んでいた。

 当日、あの子は、インフルエンザにかかってしまって、パーティには出られなかった。残念だった。でも、他にも招待状を出した子はいる。だから、きっと来る、そう思っていた。

 結局来なかった。母さんが作ってくれた何人分ものケーキやらおかしやら料理やらが皿の上で、寂しそうに待っているだけだった。

 私は三角帽子をかぶりながら、椅子に座っていただけだった。ずっと誰かが来るのを待っていた。お腹がグーと泣いても、じっと待っていた。なのに、誰も来なかった。

 来たのは親だった。そして、姉と弟。それだけだった。家族は私に「誕生日おめでとう」とプレゼントを渡して、本来誘った人と食べるはずだったそれを私と一緒に食べてくれた。

 それはとても冷たくて、でも温かくて、しょっぱかった。

 何故だろうか。甘い筈なのにしょっぱかった。

 私は、それと似た味を今体験している。舌があの味を覚えていたようで、私は懐かしさを感じた。

 私は、結局、何も変わっていないんだ。

 水滴がお弁当に落ちる。

 私が頑張って変わろうとしたとしても、結局のところ、何も変わらない。現状も、日々も、何もかもが変わっていかないんだ。

 私はずっとこうなのだろう。ずっとこうやって、個室の中でうずくまっているだけなんだろう。

 変わらない。本当に変わらない。それが私なのだろうな。

 私は笑う。それは震えていた。声には出さない。それを外には漏らさない。私は、口元を押さえて、耐える。

 私は一人だけではなく、誰かと昼にお弁当が食べたい。今日のおかずはなにかとか、味はどうだとか、どんなくだらない事でもいいから、お話が出来る相手が欲しい。

 でも、それは絵空事だ。ずっと私はこうやって日々を過ごしていくのだ。

 私はそんな日々をずっと歩いていくのだ。

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