第8話魔王討伐へとシフト

こちらの世界に戻ってきた僕らはドンクを歓迎する。

「ようこそ。ドンク。唯一の同性仲間としてこれから仲良くしてくれよ」

右手を差し出すとドンクはそれに同意とでも言うように同じ様に右手を差し出す。

「こちらこそ頼む。それにしても…お前らはここまで強くなって何をするつもりだ?まさか魔王討伐なんて…だいそれたこと言わないよな?」

「魔王?なんだそれ?」

僕は今までシルからも聞かされていなかったワードを耳にして首を傾げた。

「シル。お前は説明しなかったのか?」

ドンクは先程戦闘をして負けた相手と簡単に話が出来るぐらい器のでかい男性だと思われた。

「言う必要がないと思ったし…そんな暇もなかったわ」

「なるほどな。それじゃあいい機会だから説明したほうがよくないか?」

「そうね…」

そうしてそこからシルとドンクは異世界の事情について話を聞かせてくれるのであった。



「なるほどね。不毛な大地で魔王軍が幅を利かせていると。侵攻の予定は今のところないが勇者誕生を世界は待っていると。その勇者が魔王を討伐するという記述が残されているんだな。曰く勇者は自然の神に愛されて時すらも操る…うん…何処かで聞いたことのある人物だな…それに加えて?勇者は異世界より現れる?その記述に間違いはないのか?」

僕はコンコンとポコに視線をやって彼女らの反応を伺っていた。

だが彼女らは呆れたような表情を浮かべて首を左右に振るだけ。

こちらの世界から情報を求めようと思ったのだが…。

どうやら的はずれな考えだったようだ。

「まさに佐藤が勇者そのものとしか思えないんだけど?伝承を知っている住人だったら…あそこで確信したと思うよ」

「マジ?じゃああそこで戦闘するのは愚策だった?」

「しても良かったと思うけど…私のせいでもあるし…力加減を謝って…」

「それを言うならば俺のせいでもあるだろう。ムキになって負けが確定しているのに立ち向かおうとした…そのせいで時を操ってくれたのだろう。申し訳ない」

シルとドンクは僕に頭を下げるのだが全ては僕が悪かった。

「いやいや。二人は悪くないよ。僕の自分勝手が招いたことだから。失敗したかな」

「別に良いんじゃない?勇者になっても」

コンコンとポコは僕に視線を向けて自然な表情で頷いた。

「でも生きるためにはお金が必要だし…僕の目的にも…」

「勇者なんだから旅の駄賃は貰えるでしょ?それにまだ手つかずのお金も残っている。沢山の美女と仲良くなるのだって勇者なら叶えることが出来るじゃない。もちろん美味しい料理だってご馳走になれるんじゃない?味が合わなかったらこっちに戻ってくれば良いんだし」

「なるほど…少し考えさせて欲しい」

「うん。考えると良いよ。もしも向こうの世界とこっちの世界を佐藤の力無しでも渡れたら良いんだけどね…」

コンコンの何気ない発言に僕は何かを感じ取っていた。

「ちょっと神社に行ってくる」

「なんで?」

コンコンとポコは首を傾げていたが僕は軽く笑って手を振った。

近所に存在している氏神様がいると言われている神社へと向かう。

しっかりとした手順で今までの感謝などを心のなかで唱えると神主さんが現れた。

「おぉ〜。いつぞやの。どうだい?こちらの暮らしは」

「はい。快適に過ごさせていただいております」

「そうかい。神様に感謝するとは良い心がけじゃな」

「えぇ。しっかりと感謝を告げさせていただきました」

「きっと届いておるぞ」

「ですかね。では」

「あぁ。またいつでもいらっしゃい」

深く頭を下げると僕は帰宅するのであった。



「何か良いアイディアは浮かんだ?」

帰ってくるとコンコンとポコは僕に問いかける。

「まぁ。まだわかんないけど」

「そう。時間がかかることなの?」

「多分。明日には分かるかも」

「じゃあ今日はこっちで過ごしましょう」

それに頷くと僕らはドンクの歓迎会を兼ねて豪勢な食事を配達してもらい宴会は夜まで続くのであった。



眠りは深かったはずだ。

だが僕は夢の中でその人物を待っていたのだ。

件の人物は要件が伝わったのか僕の夢に現れてくれる。

「要件は分かっている」

時の神は何もかもを理解しているようで僕の願いを理解していた。

「だが力は授けている。後はお前の使い方次第だ」

「というと?僕らが考えていることも可能だということですか?」

「当然だ。ゲートの作成も力の中に含まれている」

「でも…そんな予兆は無いのですが…」

「気付いていないだけだ。気付けば後は簡単だ。お節介を言うのであれば。今のこの瞬間、空間を思い出せ。以上だ」

そこまで会話をした所で僕は目を覚ますことになる。

頭の中はぼぉ〜っとしていたが夢の中の内容は覚えていた。

軽い二日酔いの様な状態だった為、冷蔵庫の中から水のペットボトルを取り出す。

一気に半分以上を飲み干すと少しだけさっぱりとした頭で庭先に出る。

庭先ではドンクが既にトレーニングに励んでおり僕は軽く破顔した。

「おはよう。あれだけ飲んだのに元気だね」

「あぁ。こちらの飯は美味すぎてな。昨夜は食べすぎてしまった。だからそれらを燃焼中だ」

「なるほど。しっかりと励んでいるんだね」

「当然だ。俺だけ置いていかれるわけにはいかないからな」

「そうだね。勇者パーティにはドンクの存在は不可欠だし」

「そう言ってくれるか…負けた俺に…」

「負けの数なんて数える必要ないさ。最終的に立っていたものだけが勝者だろ?」

「ふっ。励ましの言葉だと思って素直に受け取る。ありがとう」

「あぁ。なんてこと無い」

そんな他愛のない会話を終えると僕はぼぉーっとした頭でイメージを膨らませる。

もちろん向こうとこちらを繋げる見えないゲートを作るイメージだった。

瞑想のように目を瞑って夢の中の空間のこととあの瞬間のこと。

ただそれだけに集中してイメージしていると…。

ドンクの慌てたような声が聞こえてくる。

「何だ…何が起きている?」

ドンクの動揺を無視して僕はイメージを最後まで膨らませた。

きっとこれで完成だと思い目を開けると…。

そこには大きな塔の様な物ができている。

「こんな物を建てたら…」

僕は少しだけ焦っていたのだが…。

「こんにちは。今日もご注文ありがとうございます」

いつもの業者が姿を現して僕は少しだけ動揺する。

だが彼にはこの塔が見えていないようだ。

荷物を運び終えた彼は何事もなく帰っていく。

「仲間にしか見えないのかも」

僕はドンクと顔を合わせると未だに眠っている仲間を起こしに向かう。

彼女らは庭先に出るとその塔を見て驚いていた。

「これで佐藤無しでも行き来出来るの?」

コンコンとポコは察しがよくて僕に問いかける。

「まだわからない。向こうに行ってみるよ」

「私達も行くわ」

そうして僕らは全員で塔を渡ると向こうの世界に飛ばされる。

「おぉ〜。凄いわね」

彼女らは驚いていたようだが僕は少しの懸念も消すために元の世界へと再び戻った。

「あぁ。大丈夫みたいだね。塔の力で行き来は出来るようだよ」

「良かった。それならば…私とポコは商会に残るわ。お金稼ぎは私達に任せて。戦闘能力もないし」

「でも…」

「旅がこれっきりってわけじゃないでしょ?それに簡単に魔王を討伐したら…いくらでも時間があるじゃない」

「だが…」

「大丈夫よ。佐藤なら簡単にやってしまうと思うから」

「そうか…」

「そうよ」

そうしてここから僕らのパーティは二つに別れることが決定した。

コンコンとポコは商会で商売。

僕とシルとドンクは一先ず異世界へと向かうことになる。


異世界に向かった僕らに待ち構えていたのは…。

王様直属の兵士達だった。

「来て頂きたい。貴方様こそが勇者である」

僕はドンクとシルに視線を向けたが彼らは苦笑とともに一緒について来るようだった。

ここから僕らの旅の目的は魔王討伐へとシフトしようとしていた…。

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自然の神々に愛された僕だけが現実でも異世界でも優位に行動できる件について ALC @AliceCarp

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