第6話不意に特訓スタート
商会を開くのに何かしらの手続きが必要なのかと調べた結果。
そういった類の法整備もされていない世界らしい。
勝手に店を開いても構わない。
けれどこの地を治めている領主に対して上納金の様な物を収める必要があるようだ。
ただしゼダ商会の様な大きな商会になるとそれもなくなるんだとか。
何故なら貴族とパイプが繋がっているゼダ商会は成金貴族さながらの立場になっているようだった。
何を隠そう領主お抱えの用心棒が月に一度訪れてゆすりのようなものをしてくるんだとか。
「僕らには関係なさそうだね」
コンコンとポコを交互に見ると彼女らも平然とした表情で頷く。
「佐藤の力があれば敵無しでしょ」
コンコンは僕の目を見つめると苦笑するような表情を浮かべた。
「あの火球を発生させたのも…佐藤なの?」
ポコは僕の力を疑っているわけではないだろうが信じられないとでも言うような表情を浮かべている。
「はい。太陽の神の力です」
「嘘だろ…自然の神の力を授かっただと…?」
「そうですね。幸運でした」
「他に何の力がある?」
「えっと…」
そうして僕はポコに自身の力を細かく説明して聞かせる。
「信じられん。長い人生で自然の神の力を揃えた人物などいただろうか?」
ポコはコンコンに視線を送る。
コンコンも呆れたような表情で首を左右に振るだけだった。
「だよな。そんな人物がいたら…世界を統治してしまう恐れがあるもんな」
「神は気まぐれ。だなんてよく耳にしたけど…ここまで重なると偶然や気まぐれでは無いような気がするよな」
「ホントね。何を思って力の授けたのか…」
「佐藤にしてほしいことでもあるんじゃない?」
「その可能性は高いな。それに加えて時の神に選ばれたのだろ?それはつまり…」
「そういうことでしょ。その時が来たってことでしょ」
「その時って一体何だったのだろうな。昔から疑問だったのだが…」
「私もさっぱりわからない」
「ともかく。狐が仲間になった経緯を教えてくれ」
「それは…」
そうしてコンコンは自らの経験をポコに話して聞かせていた。
「ふぅ〜ん。面白そうだったから話しかけた?にわかには信じられないな」
「ちゃんとした理由もあるよ」
「なんだ?それは?」
「今度話す。二人の時に」
「なるほど。わかった」
コンコンとポコは内緒の話を終えると僕の元まで向かってくる。
「ここではどんな物を売るつもりだ?」
ポコから話しかけられた僕は少しだけ悩むような仕草を取る。
「う〜ん。今までゼダに降ろしていた日用品を格安で売るつもりだよ。一般市民に触れ渡ってほしいから」
「そうか。従業員も確保したいんじゃないか?」
「そうだね。でもそれはその内勝手にやってくると思うな」
「どうして?」
「ん?僕が格安で日用品を売り出したら。職に困る人が出てくるでしょ?どの様な形で僕の前に現れるか分からないけれど…その人達にはここで働いて貰えば良いわけだし」
「そうだが…そう上手くいくか?」
「きっとね」
ポコと話を終えると僕とコンコンは今までゼダ商会に降ろしてきた物を再び思い出していた。
「この区画をまるごと日用品にしようか。シャンプーとかリンスやコンディショナーにトリートメントなんかも置くのが良さそうだな。ボディソープにボディタオルなんかも…」
そんな独り言の様な言葉を漏らしているとコンコンも頷いていた。
「日用品で攻めよう。もしも貴族が来たら…その時こそポコの出番だよ」
コンコンはポコに視線を送ると微笑んで見せる。
「分かっている。これみよがしに時計を制作していれば良いのだろ?」
「そう。それで興味を惹かせて高価で買わせる。簡単なことでしょ?」
「当然だ」
そんな僕らの悪巧みのような計画が徐々に進んでいくと元の世界へと戻るのであった。
家の庭先に戻ってくると家の中でぐうたらのんびりと食事を取っていたシルは驚いているようだった。
「何度見ても不思議な力だな…おかえり」
「ただいま。僕らが飛んでから何日ぐらいが経過した?」
シルに問いかけると彼女は僕がプレゼントした腕時計を眺めて口を開く。
「まだ三時間ぐらいしか経っていないけど?」
「なるほど。じゃあ殆ど時間の流れは一緒だね」
僕らはゼダ商会で商談を済ませて自分たちの商会へと向かい話をしていた。
正味三時間ほどの時間だったと思われる。
「商談は上手くいったのか?」
「上手くいきすぎたよ。僕らの商会を手に入れた」
「嘘だろ?トントン拍子にいきすぎじゃないか?」
「僕もそう思うよ。多分だけどゼダが裏で何かしら動くと思う」
「だろうな。私のような用心棒を向けてくるだろう」
「問題ないよ。どうとでもなる」
「まぁ…佐藤が本気を出したらな…」
「シルは心当たりないか?」
「何の?」
「次に襲撃してくるだろう相手に」
「あぁ。それなら領主の用心棒だろ」
「そうか。どんなやつなんだ?」
「ドンクって呼ばれている。大柄な男性で力じゃ誰も敵わない。何でも戦闘で敵の刃が首に掛かったらしいんだが…傷一つ負わなかった。なんて噂もある。力自慢の大男だよ。並大抵な魔法も効きやしない」
「戦ったことあるの?」
「模擬戦でね。あの時は見せしめのようなショーだったよ…」
「どういうこと?」
「私もゼダ商会の用心棒で有名だったんだ。あの辺じゃあ私に逆らうやつもいなかった。それを聞きつけた領主が街で模擬戦を開催した。私はドンクに手も足も出ないでボコボコにされたよ。それ以降領主に歯向かおうとする人物はいなくなった」
「なるほど…」
街で強者として有名なシルでさえも全く刃が立たなかったのであれば。
他の住民が逆らうわけもない。
いい具合の見せしめになったのだろう。
そんな事を想像して少しだけむかっ腹がたった。
借りにもシルは僕の仲間になったわけで…。
そこで僕はいい案が思いつくとニヤリとほくそ笑む。
そこからは思考を切り替えて日用品をネットで爆買いするのであった。
荷物が運び込まれて、いつもの業者さんはもう動じたりしなかった。
「いつもありがとうございます」
深く頭を下げて庭先を出ていった彼を見送ると僕らはその荷物を持って再び異世界へと飛ぶ。
今回もシルは留守番となったが彼女は納得してくれていた。
次元を越えて飛ぶと今回からは自分たちの商会の中に転移した。
「便利な機能だね」
コンコンとポコは少しだけ呆れたような表情を浮かべていた。
「佐藤だからな…」
「そうね。佐藤だもんね…」
コンコンとポコの言葉を受け流すと二人に日用品を並べてもらうように指示をした。
「佐藤はどうするの?」
コンコンは僕に尋ねるのでニヤリと微笑んで口を開く。
「領主に喧嘩を売ってくる」
その言葉を聞いた二人はやれやれとでも言うように首を左右に振って呆れていた。
そして僕は地図を広げると領主の屋敷へと向かうことを決める。
「そう言えば…龍神様が力をうまく使えば空も飛べるって言っていたな…」
そんな事を思い出して試しに強風を足元に溜めるようなイメージで力を行使する。
フワッと上空に飛ばされた僕はそのまま腹を地面に向けるように倒れ込んだ。
そのまま身体全体を支えるように風を纏わせると後方から風を巻き起こすように力を使う。
やはりと言うべきか空を飛べている。
スピードも自由に変更できる為かなり便利な力と思われた。
そのまま猛スピードで領主の館まで向かう。
地面では衛兵の様な人物が何やらこちらに向けて声を発していた。
だが聞こえるわけもなく。
僕は全身に暴風を纏いながら領主の屋敷の窓を突き破ってダイナミックな侵入をする。
バリンッと窓が割れた音が聞こえたのか用心棒や衛兵がいくつも部屋へと集まった。
「私は佐藤。今のところは商人である。この様な侵入の仕方で申し訳ない限りだがご了承願う。何故ならば私は喧嘩を売りに来たからだ。そちらの用心棒であるドンクと手合わせを願いたい。もちろん街での模擬戦でだ。しかし私では一方的な試合になってしまうため大変恐縮だが私の右腕であるシルと戦闘をしてもらう。よろしいか?まぁ許可など取らない。逃げたければ好きにすると良い。模擬戦は後三回陽が登った昼頃にしよう。場所は街の中心。好きなだけ宣伝すると良い。一度勝ったことのある相手なら楽勝だろ?もしもシルが負けたならば…ゼダ商会に降ろしていた貴重品を独占してこちらに流すことを約束する。非常に高価な物だ。それを全てこちらに流すことを約束する。では」
そうして呆気に取られていた相手に有無を言わさずに僕は再び飛んで自らの商会へと戻っていくのであった。
「コンコンとポコには悪いんだけど…ここで商売していて貰っても良い?」
戻ってくると二人にお願いするように問いかけた。
「もちろん良いけど…佐藤はどうするの?」
「ん?戻ってシルを鍛える」
「どうして?」
「シルにはドンクに勝って貰う必要があるから。その為の大げさな演出をしてきた」
「そう。確かにシルにも強くなってもらわないとね。いずれはこちらの世界に戻ってきてもらうんだし」
「そうだ。今はまだゼダ商会や色んな用心棒に狙われているだろうから身を隠してもらっているわけだが…ドンクに勝てばシルに逆らうものは再び居なくなるだろう」
「そうね。シルのためね」
それに頷くと彼女らに店を任せることを決める。
「二人は戦闘能力あるの?」
その答えはポコがくれる。
「長生きだからな。逃げたり誤魔化したり煙に巻くのは得意だ。純粋な戦闘能力とは言えないが…負けることは無いだろう。店に被害が加えられたら…佐藤が黙ってないだろ?それに私のカモフラージュの術があればどうにでもなる」
「そう。じゃあ任せたからね。値段表はメモを見て」
彼女らはそれに頷くので僕は元の世界へと戻る。
シルは家の掃除をしていたようで不意に帰ってきた僕に驚いていた。
「なんだ?忘れ物か?」
「シル。ドンクとの模擬戦を取り付けてきた。盛大に喧嘩を売ってきてやったぞ」
「ん?佐藤なら簡単に勝てるだろ」
「違う。シルが戦うんだ」
「え…無理だよ…」
「大丈夫だ。今日から三日間…特訓だ」
「………マジ?」
「マジだ」
そうして不意にシルの特訓は始まるのであった。
目標 シルがドンクに勝利
特訓スタート!
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