第4話悪巧みをしているようだ…

「ここは何処で…お前たちは一体何をしているか聞いている!」

元の世界に連れてきたシルは家の中に入るとパソコンやスマホを操作する僕らを見て声を上げていた。

パソコンを打つ手を止めると一度シルと向き合った。

「ここは向こうとは違う世界だよ。向こうの世界の住人であるシルからしたら…こっちが異世界とでも言えばいいだろう」

「異世界…夢物語のように話をしていた吟遊詩人がいたという話を聞いたことがある…それと同じ様な話なのか?」

「まぁ。そっちの吟遊詩人がどれくらい異世界について知っているのか…僕には計り知れないけど…あちらとは別の世界を差しているのであれば…ここはその中の一つと言っていいだろう」

「なるほど…だがどうやって…?」

「あぁ…それは…僕の力で」

「お前の力?何者だって言うんだよ…さっきの魔法と良い…何なんだよ…私を助けてどうするつもりだって言うんだ…」

「うん。シルにはやってもらいたいことがあるんだ」

「何をすればいい…助けたお礼に身体を差し出せとか言うつもりはないよな?そこまでのことをしてもらったとは…」

「そんな事言うわけ無いだろ。当面はこっちの家で身を隠しておいて欲しい。時間が経ってからやってもらいたいことやお願いが増えるはずだ」

「そうか…今はとりあえず留守番をしていれば良いのか?」

「うん。怪しい人なんて来ないと思うけど…家を空けておくのは少し心配でね」

「了解した。そうしたら私にも今いじっている物の扱いを教えて欲しい」

「まだ早いと思うな。洗濯機や電子レンジから慣らしていったほうが良いよ」

「なんだ?それは?」

「まぁ後で説明するから。今はとりあえず休んでいて。お風呂沸かすから入ってくると良いよ。コンコンも一緒に入って。使い方を一通り教えてきてよ」

コンコンの方へと視線を向けると彼女は仕方なさそうに頷く。

「そっちのコンコンというのはお前の恋人か?」

「そう見える?こんな幼そうな女の子が?」

「あぁ…違ったか…」

「当然でしょ。それにコンコンは元は狐だよ。男にも化けられるし女にも化けられる。元の性別が何なのか…僕も知りはしないんだ」

「そうか…じゃあ男の可能性もあるのか!?そいつと一緒に風呂に入れと!?」

「まぁ気にしないで。僕と入るよりマシでしょ?」

「一人で入る!大丈夫だ!」

「じゃあお風呂場見てきなよ」

自信があるのか恥ずかしくて仕方がないのかシルは顔を赤くするとそのまま風呂場へと向かう。

そして数分の後にシルは俯きながら戻ってくる。

「なんなんだ…あれは…私には何一つわからない」

「でしょ。だからコンコンに教えてもらいなよ」

「だが…!」

「大丈夫。コンコンが襲ってくるようなことはないから」

「そう…なの…か?」

コンコンの方へと視線を向けたシルだった。

「襲うわけ無いでしょ。全く興味ないね」

コンコンはぶっきらぼうに告げるとスマホをポチポチと操作していた。

「佐藤。次に売りつけるものは決まったのか?」

「あぁ。さっき思いついたんだ」

そんな言葉を口にしながら風呂の湯を溜めに風呂場へと向かった。

広間に戻ってくると僕はコンコンの方へと歩いて向かった。

「髭剃り関係の物を売りつけたでしょ?だから化粧水を売ろうと思うんだ。しかも男性用の」

「え?髭を剃った後に使うスースーするやつか?」

「そう。それとクリームを売りつける」

「どうして女性用を売ろうと思わない?」

「あぁ。それはタイミングが大切だと思うんだ。男性の肌がキレイに清潔になるに連れて…女性たちが黙っていないだろ?そのタイミングが来たら女性用の化粧品関係を大々的に売り始める。きっと何処の世界でも女性は美容品に目がないはず。良いものを見極める審美眼だってあると思う。だから売り始めたら本格的に売り続ける。僕らの商会が出来てからだけど。うちで独占するつもりだよ。商会が出来るまでシルにはこちらの知識を揃えておいてもらう。こちらの現代の知識があれば…向こうでも多く活躍することが出来るだろう。ネットを扱えるようになったら好きなように勉強すると良いよ」

最後の言葉だけをシルに向けて言うと彼女は理由が分かっているわけでもないが頷いていた。

「こっちの世界は概ね平和だから。でも間違いなく危ない人も居るからね?極力戦闘は避けること。良いね?」

「あぁ…魔法はどうなる?」

「こっちでは極力使わないで。向こうみたいに魔法がある世界じゃないから。もちろんその存在は知っているんだけどね」

「どういうことだ?」

「あぁ。さっきの吟遊詩人の話と同じだよ。そういう話をこっちでも考える人が居るってこと」

「なるほど…分かった」

再度風呂場まで向かうと湯が溜まってきていたので僕はコンコンとシルに視線を向ける。

「お風呂入ってきな」

彼女らに催促するように言葉を放つ。

シルは何度も言われるのが気に触ったのか少しだけ怪訝な表情を浮かべていた。

「そんなに臭うのか…?」

「いやいや。そういう意味じゃないよ。キレイにしていたほうがこっちの世界では得だよ」

「何処の世界でも一緒だな…」

「いってらっしゃい」

そうして僕は彼女らを送り届けるとネットで男性用の化粧水やクリームを百セット購入するのであった。



初期費用は都会で暮らしていた頃に稼いだお金である。

殆どブラック企業同然の業務内容だったが給料だけは優遇されていたと思える。

それ故に貯金額はかなりのものを有している。

だがここに来て少しだけ貯金額に不安を覚え始めていた。

このまま百セットずつ購入した場合…。

そんな事を思うと僕の頭は少しだけ悩まされていた。

異世界の金貨をこちらに持ってきていたが…。

これが何の役に立つだろうと軽く想像する。

「換金…もしもこの金貨がこちらの世界の純金と同じ扱いであるならば…」

そんな事を想像して軽く頭を振る。

「待て…何処で手に入れたと言う話にならないだろうか…」

再び頭を悩ませていると何かしら吹っ切れるようなアイディアが思い浮かぶ。

「持ち込むだけなら…鑑定してもらうだけなら…」

そんな言葉が口を吐いて再び天を仰いだ。

「向こうの世界では大金持ちでも…こっちでは微妙は困るなぁ〜…バランス悪いもんな…その内に行き詰まるだろうし…」

悩み事は絶えないでいると風呂場のドアが開く音が聞こえてくる。

「シル。バスタオルでしっかりと拭いてから脱衣所に出るのがマナーだぞ」

「わかったわ。色々と教えてくれてありがとう」

「まだやることはあるからな。ドライヤーで髪を乾かしたり。顔に化粧水や乳液にクリームを塗るなど現代人は大変なんだ」

「へぇ。これらを向こうで売るつもりなの?またゼダ商会に売りつけるつもり?」

「もちろんそのつもりだろう。佐藤の魔法が消えない限り…ゼダ商会は怯えて仕事をすることになる。その弱みにもつけ込むつもりだろう。佐藤も良い性格しているな」

「ホントね。あんな巨大な魔法を商会の天空に放たれたら…誰だって怯えるわよ。そこまで計算しているだなんて…佐藤を怒らせるのは得策じゃないわね」

女性陣の話が聞こえてきて僕は苦笑とともに嘆息した。

そんなつもりで力を使ったわけではないのだが…。

その様に捉えられても仕方がないか…。

そんな事を思いながらこちらの世界のことを考えていた。

「お金の用意をしないとな…どうしようか…」

思わず漏れ出た言葉をキャッチしたのかコンコンはこちらに続くドアを開いた。

「私にいい考えがあるぞ…」

「ちょっと…!コンコン!開けないでよ!まだ着替え終わってない!」

シルの叫び声が聞こえてきて僕は目をそらした。

顔を背けて後方を見ている様な仕草を取るとドアは再び閉じられた。

ふぅと息を吐くとこれからの生活のことを考えていた。

シルも仲間に加わったわけで…。

本格的に女性が一人仲間になったのだから色々と考えないといけなくなる。

頭を悩ませる問題はいくつも浮かんでくるのだが今はまずコンコンの話を聞くのが最適だと思われた。

彼女らは数十分後にこちらに姿を現した。

「それで?コンコンのいい考えって?」

「うむ。多分だが金貨について考えているんだろ?」

「あぁ。こっちの世界の純金なら換金もできると思ったんだが…何処から出た物か調べられるんじゃないかって心配になっていてね」

「それなら大丈夫。私の友達の狸に売りつければ良い」

「狸?」

「古い友人でね。人間に化けて手広く商売をしているんだ」

「ふぅ〜ん。その狸に金貨を売りつけることが出来るの?」

「もちろん。相場と同じ価格で買ってくれるだろう。だが…そこでも恩は売った方がいい。出どころ不明な金貨を買ってくれるんだ。一割ぐらいは渡すのをオススメするよ」

「だな。内緒にしてもらわないといけないし…そもそも狸に純金かどうかなんて判断できるのか?」

「もちろん。私と同じぐらいに長生きな狸なんだ。わからないことの方が少ないはずだ」

「コンコンには分からないの?」

「私はさほど金に興味はない。それよりも美味しいものや美しいものに興味がある」

「そうか。じゃあ今度でいいから狸を紹介してよ。もうそろそろ貯金も心もとないんだ」

「大丈夫だろ。純金だとしたら…千枚の金貨があるんだぞ?いくらになると思っている。心配するな」

「そうだけどさ…」

「シルの事を思っているのか?」

「まぁ。それもあるよ。こっちで暮らしてもらうんだから。十分な資金を置いていきたいし。僕らが一日以上家を空ける時だってあるはずだ。その間はシルに自分で生活してもらわないといけないわけで…」

「とりあえず数日間はシルの教育に時間を割こう。そうすればきっとゼダ商会の天空にある火の玉の効果も発揮できるだろ?」

「そうだな。相手が頼むから消してくれって泣きつくまであそこに置いておくのが得策だ。その時が商売にも一番効果があるだろうし…」

「な?やっぱり佐藤は怖いだろ?」

コンコンはシルに視線を向けてコソコソと話をしていた。

完全に聞こえていたが僕は無視をする。

「とりあえず。今日の夕食の準備とか…シルに教えてあげて欲しい。同性の見た目をしているコンコンの方が教えやすいだろ?」

「そうだな。じゃあ佐藤は他にも計画を練っていて」

「了解」

そうして僕は再びパソコンを操作する。

シルとコンコンは台所に立つと何やら夕飯の支度をしているようだった。



こちらの世界のノルマ 狸に会って金貨を換金。


異世界ではゼダ商会を掌握 再び商談へと…。

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