第3話商売。そして新たな仲間?

翌日の朝十時頃に爆買いしていた荷物が僕の家に届く。

「こんなに注文して…転売でもするつもりですか?」

宅配してくれた業者さんは沢山の荷物を家に運び込みながら怪しんだ表情を浮かべている。

「いやいや。違いますよ。おじいちゃんが心配性で。何かあった時の備えになるって。沢山買い込んでおきなさいってうるさいんですよ」

「何を言っておる。わしは間違ったことを言っておらんぞ。最近の若いのは…」

「わかったっておじいちゃん。業者さんの前でやめて」

コンコンは現在変化の術か何かで見た目を老人の姿に変えていた。

「ですか…大変ですね」

業者さんは僕に憐憫の視線を向けるとせっせと荷物を運び込んだ。

「また大荷物を運んでもらうこともあると思うんですが…その時もどうかご了承ください」

業者さんに頭を下げて低姿勢でいると彼は後頭部辺りを軽くかいて頭を下げた。

「いえいえ。こちらこそ助かりますから。これだけの荷物を運べば…一日の宅配量のノルマも一件だけでこなせるので…実際助かっています」

「ですか。では今後もよろしくお願いします」

「はい。では」

業者さんは帽子を取って頭を下げると庭先に止めていた車に乗り込んで帰路に就くようだった。

家の中に戻るとコンコンは女性の姿に戻っている。

「早速仕分けしよう。セットを作る作業に時間を割きそうだから。頑張ろう」

コンコンはダンボールの封を開けており僕らはそこから仕分け作業へと移るのであった。

昨日言っていた通り四つのセットを百組作ると時刻は十四時辺りを差していた。

「とりあえず…十組ずつ持っていこうか。一つのダンボールにギリギリ入るぐらいの荷物で行こう」

「うん。商人に売るって感じ?」

「そうだね。顔色伺いながら行こう」

「そんな事しなくても…遠い異国の貴族とか装えば?」

「それもありだな…そうなると服装や装飾品で誤魔化すか」

「そうね。現代社会のアクセサリーなんかを付けていけば…騙されるんじゃない?」

「あぁ。ブレスレットに腕時計。ピアスにリングでも付けて派手に行こうか」

「そういう物持っているんだね。意外」

「まぁ…若い頃にいくつか買ったよ。捨てることもなく取っておいて良かった。何かの役に立ちそうだし」

「そうだね。じゃあ早速着替えて行こう」

僕はコンコンの言葉に了承すると自室で着替えを済ませる。

上下セットアップのスーツのような格好に派手だが丁度いい具合の装飾品を身に着けて部屋を出る。

「良い感じだね。向こうの世界だったら…お金持ちに見えると思うよ」

「そう?貴族に見える?」

「どうかな?髪型をもう少しどうにかしたら?」

「どうにか?」

「うん。ジェルか何かでキチッと固めたほうが良いんじゃない?」

「なるほど。やはり見た目からだな」

コンコンの言葉に了承すると鏡の前でジェルを手にする。

髪型をガッチリと固めると生真面目な貴族のような見た目になったようにも思える。

主観的な意見だが現代社会ではない向こうの世界でなら…。

僕の見た目は裕福な富裕層ぐらいには見えるだろう。

そんな自信を持つと僕とコンコンは大きなダンボールを抱えて次元を越えた。



異世界の裏路地に転移するとそのまま表通りに顔を出した。

「商会はあの大きな建物だよね?」

明らかにお店のような看板を立て掛けている大きな建物を目にして僕はコンコンに尋ねた。

昨日、二人で街を見て回った感じからその様な答えになっていた。

「そうだね。多分あそこで間違いないよ。行ってみよう」

そうして僕らはダンボールを抱えたまま商会と思われる店へと入っていく。

中に入ると明らかに異質に映ったのだろう。

僕らには数々の視線が向けられていた。

「ここは商会であっているだろうか?」

受付で威厳のある人物風に口を開くと受付嬢は背筋を伸ばす。

「はい。あっております。見受ける限り…何処かの国の貴族様とお見受けします…その様なお方が我が商会にどの様な御用でしょう?」

「うむ。我が国の商品を持って来てな。最近こちらに顔を出す機会があったのだが…どうやら殆どの人間が身だしなみが整っていないように思える。街でたまに見受ける小綺麗な人間だって…我が国の基準で言えば…言葉を選ばずに言うのであれば…汚い類だろう。どの様にして清潔感を保っているのか。甚だ疑問である」

「それは世界の常識である魔法で見た目を整えているお方も居ます。ですが…魔法を持たぬものやお金のないものは…残念ですが…貴方様の言う通り…そのままの見た目で一生を過ごすことになるでしょう」

「ふむ。それを全て解決できる品々を持ってきた。商会の長に会わせてくれ。悪い話じゃないはずだ」

「少々お待ちください」

受付嬢は裏に入っていくと誰かと話をしているようだった。

少しして顔を出したのはキャリアウーマン的な見た目をした人物だった。

「お話伺いました。ご商品を提示してもらっても?」

「わかった」

そうして僕はダンボールを受付の棚に置くと四つのセットを見せる。

「これは…」

キャリアウーマンでも使用方法が理解できないようで頭を悩ませていた。

「一つ目のセットは歯ブラシと歯磨き粉。この歯ブラシと言うものに歯磨き粉を付けて口の中を掃除するイメージです。効果としては虫歯を防止してくれるのと歯や口内の汚れを落としてくれます。そして口臭が気になる人にも最適です。見たところ…嗜好品を嗜む方々は歯が黄ばんで見えました。これを毎日使えばキレイな歯を維持できますよ」

「なるほど…口内の掃除品ですね。ですが…この様な物が出回ったら…身分の高い人達が困ってしまいそうですね…魔法使いも食い扶持に困ってしまうかも…。これは高価な品なのですか?」

「いえいえ。安価です。最安値で売ってもいいぐらいですよ」

「え…!?そんなわけ無いですよ。この様な商品は…この国には無いです…」

「そうですか。我が国では一般的な品物なのですが…」

少しだけ呆れると言うよりも肩透かしを食らったような表情を浮かべるとキャリアウーマンはゴクリとつばを飲み込んだ。

「他の商品も見たいところなのですが…商会長の部屋へご案内します。私共では是非を判断できないので…」

「ですか。わかりました」

そうして僕とコンコンは揃って商会長の部屋である二階の個室に案内される。

「これはこれは。異国の貴族様でしょうか。商会長を務めておりますゼダと申します。本日は我がゼダ商会に品物を持参して頂き感謝します」

「いえいえ。堅苦しい挨拶はやめましょう。佐藤と連れのコンです。どうぞよろしく」

「では。商品の紹介を続けてもらってもいいですか?」

「一つ目のセットの説明は良いんですか?」

「大丈夫です。この魔法装置で見て聞いていましたから」

ゼダは魔法装置と言うなの監視カメラと思しき水晶を僕に見せた。

「なるほど。では二つ目を紹介します。こちらは洗顔フォームと言いまして顔を洗う石鹸のようなものです。そしてこちらがシェービングクリーム。これが髭剃り。シェービングクリームを顔に塗ります。髭剃りで丁寧に顔をなぞっていく。するとヒゲはキレイに剃られます。男性の身だしなみを整えるのに最適なアイテムです。髭を剃ったら洗顔フォームで地肌を洗いましょう。すると毎日清潔で居られます」

「ほぉほぉ。魔法が使えぬものでも簡単に髭を剃れると?」

「もちろんです」

「でも…お高いんでしょ?」

「いえいえ。こちらも安価でお譲りしますよ」

「え…それはまずいですよ。価値あるものは高価で買い取らなければ…信用問題に関わります。私の見た感じではどれも金貨相当に値しますが…」

「それですと…貴族にしか出回らないのでは?私は一般市民にも触れ渡る事を期待しているのです」

「どうして…」

「ここにいるコンは平民の出自です。ですが今では私のお付として共に旅をしている。私が全幅の信頼をおいている唯一人の人物です。磨けば輝く人物は世の中にいくらでも存在します。何も能力に秀でているのが貴族だけとは限らないのです。血統だけで人は判断できないのですよ」

「なるほど…高尚な考えですな…ですがこの商品はどれも高価なものばかりです。それこそ金貨相当だと感じます」

「ふんふん。折れてはくれないのですね。では提案です。私が独自で店を構えたとします。こちらの商会では金貨一枚で売るとしましょう。私のお店ではそれよりも格安で売っても構いませんね?」

「そ…それは…困りますが…確かに強制は出来ませんね」

「後二つ。セットがあります。洗剤一式とタオル類です」

「洗剤とは?」

「お手洗い用の石鹸と食器を洗う石鹸のようなものです」

「石鹸はこの国にもありますが…あまり洗浄力が強くなく…高価な商品なので貴族様ぐらいしか持ち合わせていません」

「この洗剤はとてつもない洗浄力ですよ。私のお墨付きです。何なら試してみますか?」

「いえいえ。勿体なので封は切らないでください。石鹸は貴重品ですから」

「それで。最後はタオル類ですね。手を拭いたり、顔を洗った後に使うフェイスタオル。水浴びの後に体を拭くバスタオルです。きっと重宝しますよ」

「こんなキレイな布は初めて見ますね…貴方の要望通りにはいかなさそうです」

「というと?」

「これらは全て貴族様や王族様に渡ることになるでしょう。私もこんな大きな商売が舞い込んでくるとは思っても居ませんでした。正直チャンスだと思っています」

「そうですか。こちらに百組ずつ用意があります。これら全てをどれぐらいの値段で買い取りますか?」

僕とコンコンは固唾をのんでその時を待っていた。

「金貨千枚で…如何でしょう?」

「この国で金貨と言えば…どれぐらいを指すんでしょう?」

「はい。金貨一枚持っていれば家を一軒建てられるぐらいだと思ってください」

「ふんふん。わかりました」

きっとこの世界で言えば百万円から一千万円ほどの値段相当だと思われた。

流石に値上げするつもりもなく僕は了承するように右手を差し出した。

「商談成立ってことでよろしいですかな?」

「もちろん」

「では今、金貨のご用意を致します。と…その前に。その入れ物もお譲りしていただけませんか?もちろん色は付けさせてもらいますから」

「これですか?」

ダンボールを指さして首を傾げるとゼダはにこやかに頷く。

「どうぞどうぞ。初めからそのつもりでしたし。色を付けてもらえるのはやぶさかではないですが…」

「はい。では今から金貨を用意しますね」

ゼダは金庫から金貨を取り出すと僕の前にそれを広げた。

「ご確認ください」

そうして僕とコンコンは眼の前の大量の金貨を目にして一つ一つ精査していった。

「どれも本物のようですね。疑っていた訳ではないのですが…大きな商談でしたので失礼いたしました」

「いえいえ。当然の判断かと…。では今後も我が商会をご贔屓に。他にも何か商品を持ち込む際が有りましたら…是非ゼダ商会にいらしてください」

「はい。自分の店を持つまで、コネが出来るまでお世話になりますよ」

「ですか。では。またご贔屓に」

ゼダは深く頭を下げるので僕とコンコンは商会を抜けて裏路地へと向かった。

「とりあえず上手くいったね。こんな金貨抱えていたら危ないから。一旦元の世界に戻ろう」

裏路地で今にも次元を越える魔法を使おうとしているところだった。

「あんた。ちょっと待ちな。さっきゼダ商会で大きな商談をしていたね?その金貨は置いていってもらうよ」

美しい見た目をした派手な衣装に身を包んだ女性が一人で僕らの前に現れる。

「何者だ?ゼダ商会の雇われ人か?」

「そんなところさ。用心棒のようなものでね。大きな商談の後は私が金貨を回収してゼダ様の下へ返すって寸法さ。もちろん何割かは私がもらうことになるんだがね」

「そんなこと簡単にバラして良いのか?」

「いいさ。あんたらは何も喋れなくなるほど痛めつけられるんだからね」

「凄い自信だ…」

そうして僕はコンコンの方へと視線を向ける。

「丁度いい機会なんじゃない?神の力を試すチャンスだよ」

「なるほどな。攻撃系の魔法もあるかもしれないしな。やばくなったら次元を越えればいいか」

「そうそう。使ってみなよ」

コソコソと二人でやり取りをしていると眼の前の女性用心棒はナイフを手にしてこちらに突進してくるところだった。

まずは何の力が良いだろうか。

もしも相手を一撃で倒してしまったら困るため龍神様の風の力を試すことにする。

掌から風を巻き起こすようなイメージを持つと相手に向けて放射する。

突風が巻き起こって相手は前に進めないようだった。

風速が有りすぎるのか相手は正面を向くことが出来ないでいた。

きっと息苦しいのだろう。

顔を背けた相手に海の神の力を使うことにする。

水の球を作るようなイメージで相手をその中に閉じ込める事をイメージする。

掌から水が沸き起こると相手は水の球に包まれて溺れそうになっている。

「これ。使えるな。初見殺しすぎないか?」

コンコンと僕は世間話でもするようにして眼の前の光景を眺めていた。

「出られないのかな?」

僕がコンコンに尋ねると彼女は何を思ったのか数回頷く。

「多分だけど魔力量なのか力量やレベルの違いで…こちらが許可しない限り出られないんだと思うよ」

「なるほど。死なれても困るから出してやるか」

そして水の球から解放してやると相手は水を飲み込んでしまったのかゲホゲホと咳を漏らしていた。

「大丈夫か?まだやる?」

「げほっ…あんた…何者だい?」

「何者だろうな」

「私を始末しないのか?」

「するわけない。美しい人には生きていてほしい」

「ふっ。今更そんな慰めの言葉を口にしたって…私は任務失敗で始末されることになる…」

「それは困ったな…」

「仕方ないさ。決闘に負けた私が悪い」

「いいや。悪いのはゼダだろ。仕方ない。少しだけ痛い目を見てもらうか」

「え?何をするんだ?」

「まぁ見てな」

そうして僕は太陽の神から授かった力の一部を行使して中型の火の玉を作り出す。

それをゼダ商会の上に放つとそのまま放置した。

「何だ…あれは?」

眼の前の美女は慌てたような表情で怯えているようにも思えた。

「あんな物が近くにあれば…いつ商会が燃えるか。いつ爆発するか。怖くて仕方ないはずだ。これぐらいの仕置で丁度いいだろ」

「だが…私の処遇に変わりはないさ」

「いいや。あんたの名前は?」

「シル。今までゼダに従って悪いことばかりをしてきたんだ。痛い目を見るのは私も一緒だろ?」

「いいや。シルには付いてきてもらう。向こうに連れて行ってもいいよな?」

僕はコンコンに尋ねると彼女は呆れたように嘆息したが許してくれているようだった。

「シル。こっちにこい。今からお前も僕の仲間だ」

「何を言って…」

「良いから来い」

近寄ってきたシルも対象にして僕らは次元を越えて元の世界に戻るのであった。



「ここは…何処だ…」

困惑しているシルを他所に僕らは家の中に戻るとネットを駆使して今後の計画を考えるのであった。

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