第2話まずはお金稼ぎ!
「コンコン。ナビ役を名乗り出たのなら…まず何をすべきか教えてくれ」
異世界の裏路地で二人きりの僕らは右も左もわからずに辺りを見渡していた。
「まずは…本当に帰れるか試してみたら?」
「あぁ…それは盲点だった。これで帰れなかったら笑い話にもならない」
「でしょ?忘れないうちに次元を越える力をもう一度使って戻ってみよう」
「分かった」
コンコンの言う通りに僕は再び次元を越えるイメージを持つと元の世界に帰ることを想像した。
身体は暖かな何かに包まれるとそのまま僕らは次元を越える。
そうして元の世界に戻ってこられた僕らは次の手を考えることを決める。
「異世界はこっちの世界で言うところのどの時代だと思う?」
昔から存在しているであろうコンコンに尋ねてみると彼女は少しだけ頭を捻っていた。
「う〜ん。少なくても銃は存在していない気がする」
「どうしてそう思ったの?」
「まず裏路地って言う妖しげな場所で銃痕の一つも存在していなかったから」
「根拠が薄い気がするな。同じ様に魔法のような力を持った人間が居るんじゃないか?」
「というと?」
「だから。魔法で修復しているのかもしれないだろ。それこそこっちの警察のような機関が優秀な可能性もある」
「いくら優秀でも…裏路地を完璧に取り締まれるかな?」
「いやいや。きっと取り締まっていると思う。だって飛んだ先に怪しげな人物は一人も居なかっただろ?薬物中毒者の様な人間の一人も居なかった」
「それこそ魔法か何かで見張っているんじゃない?警察のような機関が…こっちの監視カメラ的な魔法で世界全体を監視しているとか…」
「そんな莫大な魔法が存在すると?」
「だって…佐藤が授かった次元を越える魔法だって…莫大な力じゃない?」
「そうなのか?」
「時を操るって想像している以上のことだと思うけど…」
「………」
そうして僕らは話を一度中断すると頭を悩ませていた。
「結局コンコンは僕の意見に賛同しているように思えるが」
「そうだね。否定できる要素や根拠があまりないかな。例えば銃は存在していないけど魔法のような力で争う可能性はあると思う。そして街で争いが起きても何かしらの機関が修復する魔法を使っているとも思える。時代背景は近代ではないのは確かだけど…ビルのような建物は一つもなかった。裏路地から見える限りの話だけど。私も異世界を渡った経験はないから…確かなことは言えない。佐藤と一緒になって頭を悩ませて意見交換することぐらいしか出来ないよ。今のところは…」
「そうか。ナビ役だなんて言うから…異世界を渡った経験があるのかと思ったよ…」
「そもそも時の神に力を授けてもらうのでさえ大変だっていうのに…私だって知らなかった。時の神の力に次元を越える能力があるだなんて…」
「そうなのか?他に力を授けて貰った人間は居ないのか?」
「私の知る限り…居ないよ。時の神の口癖はその時を待つ。だったかな。ある人を待っているってずっと言っていた。それが佐藤だったってことでしょ?この地に何か思い入れや縁があるの?」
「あぁ〜…父親が幼い頃過ごしたのがこの辺りらしい」
「へぇ〜。来たことあるってこと?」
「もちろん。一度だけだったけどね」
「ふんふん。その時の記憶は?」
「あまり覚えていないんだ。風が強い地域だな。って朧気に覚えているぐらいで」
「そうなんだ…忘れていても仕方ないよね。幼い頃だったんだから…」
コンコンは意味深にも思える言葉を口にすると少しだけ嘆息してみせた。
それが少しだけ気になったのだが今はスルーすることを決める。
「この先はどうしようか…」
全て任せる訳ではないのだが意見を求めるようにコンコンの方へ視線を向ける。
「う〜ん。もう一度向こうに行ってみないと分からないけれど…現代文明に追いついている世界だとは思えないから…機械類はきっと喜ばれるんじゃない?」
「機械類か…それもいい考えだと思うけど…コンセントが必要な物ばかりだろ?どうやって使用するんだ?現代文明に追いついていない世界で…」
「電気の魔法でどうにかなるんじゃない?」
「ならないだろ。ヒューズが飛んで…不良品を売りつけられたって問題になる。目先のことよりも目下の問題はいくらでもあると思わないか?例えばコンコンが昔無くて今あって嬉しいものってなんだ?」
「う〜ん。QOLが上がるような商品?」
「例えば?」
「歯磨き粉とか洗顔フォーム。男性にはシェービングクリームに安全な髭剃りとか?もっと有り体に言えば洗剤なんて良いんじゃない?お手洗い用と食器用。どちらも持っていけば…儲けられそうじゃない?」
「なるほど。現代人にはあって当然なものだったから盲点だ。じゃあ歯ブラシと歯磨き粉。洗顔フォームとシェービングクリーム髭剃り。お手洗い用洗剤と食器用洗剤。最後にフェイスタオルとバスタオル。四つのセットにして商人に持ち込んでみようか?これぐらいなら安価でいくらか集めることも出来るし」
「うんうん。セット販売は良いね。とりあえずこっちで商品を集めようよ。ネットで最安値の物を注文したら?」
「それが良いね。まずは最安値から。流行りだしたらもう少しクォリティーの高いものを提供してみよう。貴族階級があれば…そちらから大きくお金を動かせるだろうから。きっと貴族っていうぐらいだ。プライドも高いはず。良いものは逃さないアンテナが張ってあるはず。こちらでは安いものでもあちらではまだ出回っていない。そうすれば物珍しさに買ってくれる貴族も居るだろう。それが口コミで回っていけば…」
そうして僕とコンコンは皮算用してニマニマと微笑むのであった。
家の中に入っていくとネットを経由して先程挙げた日用品を爆買いしていった。
会員となっているのでお届けは明日の朝だと言うことだった。
「コンコン。とりあえず全部100セット用意出来たけど…。この後はどうしようか?」
「もう注文したの?遅れて言うようだけど…向こうで日用品が普通に出回っていたらどうするの?」
「そうか…早とちりし過ぎた…」
「注文しちゃったなら仕方ないけど…もう一度向こうに行って偵察しに行こう」
「あぁ」
そうして僕とコンコンは再び次元を越えると異世界へと向かう。
裏路地に再び降り立った僕らは表通りへと顔を出した。
「あぁ…早とちりして正解だったね…」
街にいる人間達を目にして僕とコンコンは目を合わせた。
端的に言って男性は大体が髭を蓄えていた。
にこやかに会話をしている男性たちの歯は少しだけ黄ばんでいるように見える。
きっと汚れやこちらの世界の嗜好品を嗜んでいるからだと推察された。
「これじゃあ…歯も禄に磨いていなさそうだね」
「うん。でも…小綺麗にしている人も居るよ?」
「多分。あの人達は魔法を使えるか、使える人にお金を払ってキレイにしてもらっているか…とにかく少しだけ階級の高い人なんじゃないかな」
「なるほどね。魔法はあるって思っておいて正解っぽいね」
「うん。日常使いをする魔法が存在するのは確かだね。しかも階級の高い人達には重宝されているようだ」
「そうしたら…そういう魔法が使える人達に恨まれないかな?」
「恨まれたら…逆に利用しよう。きっと魔法が使えると言っても…日常系の魔法しか使えないんだ。だからそれを必死に使って生活しているんだろう。多分だけど…害を及ぼすような魔法は使えないと思う。僕も色々と力を授かっているし…心配ないでしょ」
「逆に利用するって?」
「うん。商人に売り込むでしょ?それが周り回ったら僕らの店を出すんだ。そこに日常系の魔法しか使えない人達を雇えば良い。店員になってもらってお給料を払う。従業員確保を少しだけ悩んでいたんだ。これはいい案だと思うけど…どう思う?」
「うんうん。最悪な場合の事は考えていたよ」
「最悪な場合?」
「私がこっちの世界で店員になるって…」
「なんだよ…連れないな…コンコンは僕のナビ役なんだろ?」
「そうだけど…」
「大丈夫。他にも考えはあったんだよ」
「どういう?」
「きっとこの世界にも奴隷の様な存在がいると思ったんだ。それらを全員開放して自由を与える。僕の店で働いて貰ってもよし。帰れる場所があるなら帰ってもよし。そんな理想を思い描いていたから…」
「ふぅ〜ん。優しいんだね…」
「そんなことないよ。僕が異世界に来たらまず見たくない光景が奴隷だと思うから。僕は僕のために奴隷解放を進んでやる。それだけだよ…」
「理想があるなら良かったよ。どういう世界か…まだわからないけれど…」
「とりあえず店に入ってみたりして市場調査をしよう。食事だってもしかしたらチャンスが転がっているかもしれない。塩が足りないとか砂糖がないとか…スパイスがあまり存在しないとか。色々と偵察していこう」
「うん。食事をしたいけど…こっちの世界のお金もないし…匂いを嗅ぐだけしかできなさそうだね」
「だね。街を見て回ろう」
「そうしよう」
そうして僕とコンコンは日が暮れるまで街を歩いて回る。
結果から言って調味料や香辛料も不足しているように思える。
ここにも商売のチャンスが転がっているが…。
「塩とか香辛料って扱いが難しいよね。きっと貴族階級が独占しているはずだし…いきなり市場に出すわけにもいかなさそうだよ。もしかしたら貴族しか使ってはいけないものかもしれない。売るときは商人の顔色を伺う必要が有りそうだね」
コンコンは夜の裏路地で僕にその様な言葉を口にした。
「分かった。覚えておく」
「じゃあ今日は帰ろう。明日の朝に荷物が届いたら…また来よう」
「了解」
そうして僕らは次元を越える力を使って元の世界に戻っていくのであった。
明日から本格的に商売の計画を実行するのであった。
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