最後の町

オカメ颯記

見送り

「はい、お土産だよ」


 今日もあの人は訪ねてきた。彼女はこの町に来るたびに私のところにやってくる。

 私が小さいときから彼女はまるで変っていない。年を知らない美しい人だ。


 彼女は冒険者といわれる魔物を狩る職業の人。魔王を倒すために活動をしている戦士だった。


「龍石で作ったネックレス。お守り代わりね」

 キラキラと光輝くネックレスを渡される。それに、きれいな指輪。幸運をもたらす石が付いているのだ。見たこともない高価なお土産。私は何度も礼を言う。


 本当に久しぶりの再会だった。今では腕利きの冒険者になった彼女がこの町にいる時間はどんどん少なくなっている。そして、お土産もだんだん質が上がってきている。


「ありがとう。大切にする」


 いつものように礼を言って、いつものように彼女と買い物に行く。

 武器屋によって、剣を見る。彼女は新しい盾を買いたいという。だから、防具屋にもよる。

 それから道具屋に行ってポーションを買いだめる。道具屋も冒険者と分かっているから、たんたんと薬を売る。


「ごはんにしようか?」


 用事が終わると彼女は私を食事に連れていく。冒険者御用達のお店だ。いつもは食べられない変わった料理が並ぶ。


「いただきます」

 そう挨拶するのよ、と教えられた。

 彼女は私がご飯を食べる姿を見るのが楽しいという。

 いつもの彼女との休日、いつもの彼女との行動だ。


「あのね、今度のクエストは大変そうなの。ここによるのもだいぶ先になりそう」


 食事が終わって、デザートを食べているときに彼女はそう切り出す。

 めいんしなりおで長いクエストの連続になるのだという。


「北のほうに行く必要があるのよ。一度も行ったことがない場所なの」


 そうか、と思う。彼女のれべるが上がって、難しいクエストが回ってくるようになったのだ。


「実はね、私、隠していたことがあるの。このクエストの前にあなたに話しておかないと、と思って」


 なんだろう? 彼女はためらいがちに切り出す。


 彼女がこの世界の住人ではないこと、いずれはそちらに帰りたいと思っていること、そしてこの長いクエストの後にそこへ戻れるかもしれないこと。


「ごめんね。これが最後になるかもしれない」


 うん、いいよ。とわたしはいう。まおうを倒しに行くのでしょう? 世界の平和のために。


 ごめんなさい。何度も彼女は繰り返す。仲間が待っているから行かないと、とも。


 彼女を笑顔で見送る。これで見納めになるかもしれないと思いながら。





 彼女は私が知らない町の外へと旅立っていった。


 私も貴女に秘密にしていたことがある。

 あなたの話したことはすべて知っていた。

 ここの住人はみな知っている。冒険者以外は全員。

 だってここは異郷の神の力によって冒険者のために作られた町だから。

 あなたたちは異邦人だ。私たちの在り方をゆがめる憎むべき存在だ。


 それでも、私はあなたを愛している。


 いってらっしゃい、お母さん。

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