第3話 影山陽向の場合

 なんだよ、苗字と名前がおかしいって顔してるな。


 そうだよ、苗字は変えられないからせめて名前を明るくしようと親が一生懸命考えたらしい。


 でも、苗字が勝ってしまったからクラスでも陰キャだ。


 そして、当たり前だがぼっちだ。仲の良い友達はいないが、少しは話す奴はいる。それが下川だ。


 最初は単純に五十音順で後ろの席だったが、話すと気さくなやつでそこそこ休み時間には話すようになった。


 そうなってくるともっと仲良くなりたいと思い、メッセージアプリはもちろん、SNSは全て網羅している。同じアイコンに同じ名前、紐づけもしているから特定は簡単だった。


 そして、下川が水瀬さんを好きなこともわかってしまった。アイツ、隠す気無いのな。ぼかしているつもりでも特定できるキーワード盛り沢山のことばかりつぶやいている。『ポニーテールの君』なんてうちのクラスには水瀬さんしかいない。


 その投稿を見つけた時は何だか胸が痛んだ。いや、下川は俺より仲の良い友達なんてたくさんいる。放課後の飯の誘いにも『用事がある』と言っている。俺より大事な友達がいるのだろう。


 でも、俺は皆が知らない下川を知っている。

 ちゃんと後ろ姿や加工をしてあるけど、SNSには想い人の写真で溢れている。だってポニーテールだからバレバレだ。


 昨日は水瀬の家を突き止めたと投稿していた。でも、そのままだと炎上するからうまくカムフラージュして「帰り道に見かけた家から彼女が出てきた、もしかしたら彼女の家なのか? すっげー偶然」としてた。


 ストーキングして突き止めたんだろ。俺にはわかる。


 だがな、ストーキングしてるのはお前だけじゃないんだよ。リアルじゃなくてもネットでもストーキングできる。

 まあ、俺の想いは叶う確率低いけどな。いや、異性であっても確率は変わらないと思うが。


 だが、俺は確信持って言える。下川のことを誰よりも知っているのは俺だけだ。ま、これも含めて秘密だけどな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る