第三十一話「その後」
次の日、サトルは、神殿内にいた。
「サトル。暇していた?」
声の方向を見ると、豪華な椅子に座り、頬杖をついているモモの姿が見える。
「暇をしていたというか、休暇を楽しもうとしたところでした」
サトルは、ふてくされたかのようにして言う。
昨日、ダンジョン攻略と女神の戦いを終えたから、今日は休むつもりだったのに、気づけば転移魔法でモモがいる神殿内にいた。モモこそ、暇なんじゃないか?
「暇だったのね」
女神なのに、人の感情を考えることできないのか。
サトルは、心の中で、ツッコミを入れた。
「モモ様。私も呼ばれたのですが、一体なにがあったのでしょうか?」
サトルは、声の方向を振り向く。そこには、パジャマ姿のミアがいた。
寝起きに転送魔法で、来たのだな。
サトルは、ミアの寝癖がついている髪と、パジャマの姿を見て推測する。
「私が呼んだのはね、昨日の一件『おつかれさま』って言うのを忘れていたから、それを言いたかったの」
「それだけ?」
サトルは、つい心の声が漏れてしまった。
わざわざ、そのために、こんな朝早く転送魔法で、ここに召喚されたのか?
「まさか、もう一つ報告があるわ」
モモは、三回手を叩く。
「入って来なさい」
モモの部屋の扉が、音をたてて開いた。
「い、いらっしゃいませ……」
ツインテールをした、メイド服の女性が顔をふせながら挨拶をしている。髪の色がピンク色だ。もしかして、この女性は。
「私が言った通りの挨拶が、できていないじゃない。もう一度言ってくれる?」
モモは、いじわるそうな顔をして、メイド服の女性に、話しかける。
「いらっしゃいませ……お客様」
メイド服の女性は、耳まで真っ赤にさせて、赤面させた顔を上げた。
「紹介するわ。しばらく私の神殿で、召使いのメイドとして、働くことになったトトよ」
トトは、潤んだ眼で、モモのことを見ている。
「モモ、これは?」
サトルは、この状況に理解が追いつけず、モモの方を見る。
「姉妹喧嘩した時の、仲直り方法よ。負けた方が、勝った方の言うことを聞くの。シンプルでしょ?」
仲直りできるのか? 明らかに、トトは前よりも、トトのことを恨んでいそうな目で見ているぞ。
「お姉さん」
「トト。お嬢様よ」
「お嬢様」
今の会話を見る限り、明らかに主導権は、モモにあるのか。
「モモ。この関係は、いつまで続くんだ?」
「そうね。ことが、ことだから、最低でも一年かしらね」
「い、一年も」
トトが、小さい声で、悲鳴をあげた。トトの顔は、真っ青だ。
「トトが、撒いた種よ。しっかりと、反省しなさい」
トトは、モモに言われて黙り込んでしまった。
こうしてみると、トトとモモは姉妹なんだなと思う。
「あ、サトルも、お祝いしないとね」
「お祝い?」
サトルは、モモの言ったことに対して首を傾げた。
「知らないの? 昨日のダンジョン攻略から、登録者数を確認していないの?」
「登録者数?」
サトルは、不思議に思いつつ、自分のチャンネルを確認してみる。
「え」
サトルは、言葉を失ってしまった。
今のは、見間違いか?
サトルは、アプリを消して、もう一度開く。
「じゅ、十万人・・・・・・!」
「そうよ。昨日の忍者屋敷のダンジョン配信と、私達姉妹の戦いが話題になったのね」
モモは、サトルの驚いた顔を見て、笑顔で話した。
「あ、私もチャンネル登録者数、増えている」
ミアも、自分のチャンネルを確認して、驚いた声を出した。
「ミアは、チャンネル登録者数は、どれくらいなんだ?」
俺が十万人に増えたから、順当に考えたら十万人ぐらいかな?
「えっとね、十五万人」
「そかそか、良かった十五万人で・・・・・・十五万人!?」
サトルは、思わず大きな声を出してしまった。
なんで、五万人も俺より、増えているんだ!?
「あら、本当だわ。ミアの方が、登録者数の人数が多いわね」
モモは、興味深そうな顔で、データを見ていた。
「俺は、女神と戦ったのに・・・・・・」
サトルは、落胆した様子を見せた。
「仕方ないわよ。生配信系のコンテンツは、女性配信者が伸びやすいから、気長に継続していけば伸びていくわよ」
「そういうもの……って納得できない!」
サトルは、悔しさを声に出した。
「仕方ないわね。ほら、変わった場所に出来た、ダンジョンを教えてあげるわ」
モモは、紙きれをサトルに渡す。
「よし! これで、二十万人登録者数だ!」
「そんな、簡単に上手く行くなら、配信者みんな苦労してないわよ」
モモは、呆れた表情でサトルを見る。
「俺なら出来る!」
サトルは、部屋の出口に向かいながら、顔だけモモの方向を向いて話す。
「まぁ、応援しているわ」
「ありがとう! 次帰ってくるときは、二十万人登録者だ!」
サトルは、扉を開けようと手を伸ばした。
サトルの手に平に、柔らかい感触を感じた。
「ん? 扉ってこんなに柔らかかったっけ?」
サトルは、扉の感触を確かめるために、よく触ってみる。
「この触り心地は、布か?」
サトルは、正面を向いてみる。
「あ」
サトルの正面には、今にも火を噴きだしそうなほど、顔が真っ赤なトトがいた。
俺が今触っていたのって……。
サトルは、自分の手を確認してみると、トトの胸の位置に手があった。
ミアの時とは、違い胸を触っている気がしなかった。
「わ、わわわ」
トトは、口をパクパクさせている。
この状況を打破するには、気を使った一言を言わなければ。
サトルは、脳内の思考回路をフル回転させた。
「えーと……貧乳もあり」
「変態ー!」
トトの強烈な右ストレートが、サトルの顔面を捉えた。
サトルは、トトのパンチで宙に浮いた。
「あなたって、女性の敵になるかもね」
暗くなっていく視界に、モモの声が聞こえた。
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