第二十九話「サトルvs女神トト」

「なんて、速さだ」


 サトルは、モモが発射した空間が、飛んで行った天を見上げる。


「私、すごいでしょ?」


 モモは、サトルに笑顔を向けた。


 モモの顔に汗が流れている。今の魔法、体力をだいぶ消費する魔法みたいだ。


「姉さん、隕石がどうなったか、確認する前に安心するのは早くない?」


 サトルとモモの会話を聞いていたトトが、モモに向かって言う。


「大丈夫よ。私の魔法だから」


 サトルは、もう一度、天を見上げた。


 さっきよりも、赤い点が大きくなっている。隕石が近づいてきているのか、本当に大丈夫か?


「ん?」


 今、隕石が光った気がする。


「あ、言うのを忘れていた。サトル、ミア。二人共、耳を塞いだ方が良いよ」


「え?」


 サトルが、モモの方向を見ると、モモは耳を塞いでいた。


「モモ。一体どういう」


 サトルが、モモに話しかけようとした時、大きな爆発音が天から聞こえた。


 なんだ、この爆音!?


 サトルは、あまりの大きさに、反射的に耳を塞いだ。


「流星群?」


 サトルは、爆音が鳴った、天を慌てて見た。無数の流れ星が、空を飛んでいることに気づいた。


 こんな、大量な流れ星は初めてみた。


 ふと、モモの方を見てみると、耳から手を離していた。


「手を離しても、大丈夫なのか」


 サトルも、耳から手を離す。


「モモ。空で何が起こったんだ?」


 サトルは、モモの方を見て聞く。


「隕石が空中で爆発したのよ。上手く行ったみたいね」


 モモは、天を見ながら答えた。


「もしかして、隕石が爆発したのって、モモの魔法のおかげか?」


「ええ、そうよ」


 モモは、そう言うと地面に座り込んだ。


「さすがに隕石を爆発させる威力の魔法を使うと、疲れたわね」


 サトルとミアは、モモの元にかけよった。


「大丈夫か?」


「モモ様。何か、欲しいのはありますか?」


 サトルとミアの声掛けに、モモは笑顔で「大丈夫よ」と答えた。


「姉さんの弱点は、魔法の燃費の悪さよ」


 再び、周囲の景色がガラスみたいに砕けて、暗闇に包まれていく。


「空間魔法……」


 モモは、強力な魔法を使って疲れているのに対して、トトは、ただ空間を移動するか、生成しているだけだ。トトの方が余力は残っていると見て、間違いない。


 サトルは、トトの一声で、戦況が不利なのを悟った。


「疲弊している姉さんと、人間二人には、これで充分よ」


 暗闇が明るくなっていく。


 サトルは、周囲を見渡す。石で作られた円形の球場みたいな場所だ。足場は砂になっている。


「ここは、闘技場?」


 世界史の授業で、似たような建物をみたことがある。


「あら、察しがいいね。この建物は、ローマ時代に建設された闘技場である、コロッセオをモデルにした闘技場よ。てことは、ここで行われることも、何かわかっているよね?」


 トトの背後から、巨大な狼が、二匹現れる。


 なんて、大きさの狼だ。初めて見るぞ。


「ひっ! 狼!」


 ミアは、巨大な狼の姿を見て、驚いた声をあげた。


「この狼は、私のお気に入りのペットよ。北欧で怪物と恐れられていた、狼の子孫らしいわ。仲が良い女神が、北欧にいてね、プレゼントで貰ったの」


 トトは、嬉しそうに言いながら、狼を撫でる。


「次から次と、トト、良い性格をしているじゃない」


 モモは、立ち上がろうとした。


「無理するな」


 サトルは、モモが、バランスを崩して倒れそうになったのを、受け止めた。


「姉さん。ぼろぼろじゃない。その状態で戦うつもり?」


 トトは、笑みを浮かべて、モモのことを見る。


「困ったわね。さっきの魔法で、予想以上に体力を消費してしまったわ」


 モモは、苦笑いを浮かべながら言った。


「モモ」


 サトルは、モモをゆっくりと座らせた。


「ミア。モモのことを見ていてくれるか?」


「う、うん! わかった」


 ミアは、モモの元に駆け寄る。


 サトルは、ミアが移動したのを確認して、トトの前に立つ。


「人間。私の前に立って、なんのようかしら?」


 サトルは、剣を構える。


「姉妹喧嘩は、ここで終わりだ。これからは、この俺が喧嘩相手になる」


 トトは、サトルの言葉を聞き、笑みを浮かべる。


「へぇ、私に勝てる自信があるの?」


「俺は、リスナーとモモから貰ったユニークスキルがある」


 サトルは、笑みを浮かべるトトに対して、真剣な表情で返事をした。



『スキル:リスナー選択権が発動されました』


 サトルのユニークスキルが発動した。



 :やっと、俺達の出番がきた!

 :俺達の選択肢で、俺達の娯楽が消えるか、かかっているぞ!

 :みんな、真剣に選べ!



 サトルのリスナーは、モモとトトの女神同士が戦っている戦闘を、配信越しで見ていたのか興奮気味だった。


「俺は、リスナーを信じている」


 サトルは、何の疑いを持たないで、リスナーの選択を受け入れると覚悟した。


『リスナーの皆さん。これから上げる二択のどちらかを選択して下さい』



 一:狼を倒してから、女神トトを倒す

 二:この空間から脱出する



 サトルは、両手で剣を握る。


「女神と戦って勝てる見込みがあるのかしら?」


 トトは、戦う気であるサトルを見て、余裕な笑みを浮かべた。


「やってみなきゃわからない。試す前に、諦めることはしない」


 俺は、モモから貰ったユニークスキルを信じている。人間の俺でも、女神に勝てるかもしれない。


『リスナーの投票が終わりました。投票結果は、一:狼を倒してから、女神トトを倒すに決まりました』


 サトルは、選択肢が選ばれたのを知って、一歩前に出る。


「やる気みたいね。お前達、あの人間を喰い殺しなさい」


 トトは、二匹の巨大な狼に指令を出した。


「がるぅ!」


 二匹の狼は、サトルに向かって走り出す。


 サトルも、狼に向かって走り出した。



 :いけぇ!

 :たおせぇ!



 配信を見ているリスナーも熱くなる。


 サトルは、狼の噛みつきを避けて、一匹の狼をすれ違いざまに斬りつけた。


「キャン!?」


 狼は、悲鳴をあげて地面に転がる。


「ガルァ!」


 サトルの後ろから、もう一匹の狼がとびかかった。


 サトルは、避けずに、狼の脳天にめがけて剣を突き刺す。


「これで、二匹」


 狼は、悲鳴をあげる前に、動かなくなった。


「残りは、トトだ」


 サトルは、トトに向かって剣を向けた。

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