第二十八話「女神同士の戦い」
「次は、お姉さんを狙うわ」
トトは、モモに向かって指を指す。
「姉に向かって指を指してもいいのかしら?」
モモは、余裕そうな笑みを浮かべる。
「その余裕がいつまで、持つかな? 鉄の処女!」
トトが叫ぶと、モモの前に鉄の棺桶らしきものが現れた。
なんだあれは?
「串刺しになりなさい」
トトの言葉と共に、鉄の棺桶が真ん中から開いていく。扉内側は無数の針がある。
「なんて、禍々しい者なの」
ミアが、座り込みながら、鉄の棺桶を見ながら言った。
「そんな物騒な物、私に向けないでくれる?」
モモは、鉄の棺桶に向かって、でこぴんの動作をした。
鉄の棺桶は、異様な音と共に変形して、トトに向かって吹き飛んでいく。
「素材は鉄なのよ? こんな、簡単に破壊されると、落ち込むわ」
鉄の棺桶は、モモに当たる前に消滅した。
「次は、私の番ね」
モモは、トトに向かって、でこぴんの動作をする。
鉄の棺桶が、原形をなくなるぐらい変形した攻撃だぞ。そんな攻撃を妹に向けて、いいのか?
「多重城壁」
トトの前に分厚い石の壁が、いくつも現れる。
「やるわね」
モモの攻撃で、石の壁が何個も打ち砕かれていくが、後一枚の石壁を残して、トトには攻撃が届かなかった。
「姉さん、加減していない? 今の攻撃も、私が防ぐの、わかって出した攻撃でしょ?」
俺から見れば、強烈な攻撃だったぞ。あれでも、加減をしているっていうのか。
サトルは、女神同士の別次元の戦いを、ただ見守るしかなかった。
「小手調べよ。トトが弱くなっていないか、確かめたのよ」
モモは、トトを煽るような言葉で話した。
「へぇ、言うじゃない。なら、これはどうかしら」
トトの前に、銃を持った騎士が複数現れる。
「あんな、銃身が長い銃初めて見るぞ」
サトルは、騎士が持っている銃を見ながら、言った。
「あれはマスケット銃。中世のヨーロッパで、広く使われていた銃よ」
ミアは、騎士が持っている銃を見て答える。
「トト。なにするつもり?」
「こうするのよ!」
トトの前にいた騎士が地面に膝を着き、銃をモモとサトルが立っている方向に向けた。
ま、まじか。この騎士達、俺等のことを撃つつもりだ。
「サトル、ミア。私の後ろに、隠れていなさい」
サトルとミアは、モモの命令通りに、モモの後ろに隠れた。
「銃殺刑よ!」
トトの号令と共に、銃声が部屋内に響き渡った。
なんて、轟音だ。耳がやられそうだ。
「私の魔法は、範囲指定できるの忘れていない?」
騎士達が、マスケット銃から放った銃弾は、モモの目の前で静止した。銃弾は紙面に落ちず、空中で静止している。
すごい、目にも見えないぐらいの速い弾だったのに、当たらなかった。これが、モモが使う魔法。
「さすが、姉さん。最後に会った時よりも、魔法のコントロールが格段に上がっている」
トトは、モモが銃弾を止めたことに感心している。
「銃弾を返すわね」
モモの目の前で、静止していた銃弾が、トトがいる方向に向かって発射された。
「騎士。私を守りなさい」
トトの前に、銃を構えていた騎士が立ちふさがる。
モモが、返した銃弾は、トトの前に立っていた騎士達に当たった。
「トト。次はどうするのかしら?」
銃弾が当たり、崩れていく騎士の後ろにいたトトは、表情を崩さなかった。まだ、戦う手段が残っているのか。
「さすが、お姉さん。人工物では、太刀打ちできない。なら、これならどうかしら?」
部屋が、再びガラスのように砕け、辺りは暗闇に染まった。
空間を変えているのか?
「姉さんには、これが止められるかしら?」
真っ黒な空間が、緑に色づき始める。
「草原か?」
サトルの視界には、草原の景色が広がっていく。
「トト。何もない草原に、空間を移動させて何するつもりかしら?」
トトは、モモの問いに、真上を指さした。
「人工物がダメなら、自然の猛威を借りるわ」
サトルは、トトが指を指した上を向いた。
空に赤い点が見える。
「なんだあれ?」
だんだん、赤い点が大きくなっていく。
「トト。いきなり、本気を出すじゃない」
モモは、上を見上げながら言った。
「ま、まさか」
サトルは、脳内に嫌な予感がよぎった。
「ここは、隕石の落下地点よ。姉さんの魔法で、止められるかしら?」
あの、赤い点は隕石かよ。トト、なんて空間を作り出したんだ。
「さすがに、私も、ちょっと本気を出そうかしら」
モモは、両手を空に向ける。
『モモ様! 準備できています!』
脳内に、巫女さんの声が聞こえた。
「この声は、巫女さんの……なんで、聞こえているんだ?」
「あの子、私の念話を使うことができるのよ」
モモは、空を見ながら、サトルの疑問に答えた。
『モモ様に、バフ魔法をかけます!』
巫女さんの声が聞こえた後、モモの足元に魔法陣が浮かび上がる。
「目標は、はるか上空にある隕石よ」
『はい! まずは、精度を上げるためのバフをかけます!』
モモの足元にある魔法陣が青く光り出す。
「火力もほしいわね」
『わかりました!』
足元に青く光る魔法陣を囲むように、赤い魔方陣が現れた。
「後は、あなたの任せるわ」
『また、無茶な要望を……、わかりました。いきます!』
赤い魔方陣を囲むように、紫、黄色、水色の魔法陣、三つが現れた。
「トト。あなたは空間魔法が得意らしいけど、私にも少しは心得があるのよ」
なんだ、モモの頭上にある空間が歪んでいる?
モモの頭上にある、トラック一台分の大きさであろう、空間が歪み始める。
「エアストライク。超高密度で圧縮した空気を音速越えた速さで、隕石を貫くわ。見ていなさい」
歪んでいた空間が、さらに圧縮されて、タイヤぐらいの大きさになった。
トトは、その光景を、ただ眺める。
「さあ、隕石を貫いていきなさい!」
モモの足元にある魔法陣が、さらに強く光り出し、圧縮された空間が、目に追えない速さで、天に向けて発射された。
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