第二十七話「女神トトとの戦い」

「なんで、そんなにも動画投稿者を嫌うの?」


 モモも、さっきまでの和やかな雰囲気とは違い、真剣な表情をして聞いた。


「私が、動画投稿者を嫌っているのは、動画投稿者が女神に対する信仰心がないことよ。お姉さんも、わかるでしょ?」


 トトは、モモの真剣な表情でも臆せずに言った。


「トト。それは、負の側面を見過ぎよ。女神もそうだけど、人間にも色んな性格がある。女神から与えられたスキルのおかげで、感謝する配信者もいれば、鼻を伸ばして自慢げに俺の力だと自負する者もいる。それは、わかっていたことでしょう?」


 サトルは、モモの言葉を聞いてドキッとしてしまった。


 確かに、俺のチャンネル登録者数が増えたのは、モモが与えてくれたユニークスキルのおかげだ。俺は、モモに感謝の言葉を言っていない。俺も、後者の動画配信者になるところだった。


「わかっていたけど、酷すぎるわ。私が授けたユニークスキルで、初めて一万人以上の動画配信者になった投稿者は、酒におぼれて、暴行罪で逮捕。次の動画配信者は、薬物乱用を起こして、今精神病院で隔離されている。私は、人が堕落していく所を見るために、ユニークスキルを与えていないわ!」


 確かに、動画投稿者の事件はニュースに流れることがある。同業者である自分にとっては、胸が痛くなるニュースだった。


「トト」


 モモは、トトの気持ちを聞いて、言い返さなかった。


 俺でも、トトの話を聞いて胸が痛くなったんだ。姉であるモモは、同じ女神として、気持ちもわかるだろうし、血の繋がっている姉妹だからこそ、もっと胸が痛くなっていると思う。


「だから、私は決めたのよ。動画投稿者を根絶して、堕落する人を出さないようにする」


 トトは、右手でくうを切るように振り払う。


 なんだ、空間が変わっていく?


 一面ピンク色だった部屋がガラスのように砕けて消えて行く。天井、壁、床が黒に染められる。


「中世ヨーロッパの拷問部屋って、知っている?」


 トトは、不気味な笑みを浮かべた。


 サトルは、背筋が凍るような感覚を覚えて、もう一度周囲を見渡した。


 真っ黒だった空間に、石で造られた部屋が構築されていく。


「トトの空間魔法、いつ見てもすごいわね。数百年以上前の部屋でも、完璧に再現させるなんて」


「モモ様。感心して、大丈夫ですか!? 私、とても嫌な予感がします!」


 今まで、黙っていたミアが声を発した。


 俺が感じた背筋が凍る感覚、ミアも感じたのか。


「大丈夫よ。私から離れなければ、安全は保証するわ」


 モモから離れたら、ダメだってことか。


 サトルとミアは、モモの邪魔にならない程度に近づいた。


「私の空間魔法から、人間を二人守りながら戦えるかしら?」


 トトは、自信ありげな表情を浮かべた。


「モモ様。私にできることは、ありますか?」


 ミアは、杖を構えながら、モモに聞く。


「わかったわ。ミア、早速トトに向かって、ファイアーボールを撃ってみてくれる?」


「わかりました! え?」


 ミアは、モモの命令に思わず二度聞きした。


「大丈夫よ。私のことを信じて」


 モモは、笑顔でミアに言った。


「わ、わわ、わかりました! 妹様ごめんなさい! ファイアーボール!」


 動揺しすぎだろ。


 サトルは、ミアが動揺しながら魔法を放つ姿を見て、心の中でツッコミを入れた。


 ミアが、放った火の玉は、真っ直ぐトトの元に飛んで行く。


「初手から、魔法攻撃、手を抜かないでやるって意味ね」


 トトは、ファイアーボールに向けて、手をかざした。


「隔離」


 トトが呟くと、火の玉は徐々に縮小していき、トトに届く前に消滅した。


「え、なにが起こったの?」


 ミアは、自分の魔法が消滅したことに驚いた。


「火の玉とその周囲を、小さな空間で区切ったのよ。火は、酸素があって燃え続けることができる。ここまで言えば、わかるかしら?」


 トトは、驚いているミアに対して言った。


「空間を、道具を使わないで、区切ったってこと? そんなの、でたらめな力すぎるよ」


 ミアは、後ずさりをする。


「ミア。私から離れないで!」


 モモは、ミアが後ろに下がろうとしたのを見て、慌てて声をかけた。


「あ……」


「気づくのが、遅かったわね」


 ミアの背後に、大きな棺桶が現れた。


 あんなもの、さっきまでなかったぞ!?


 サトルは、慌ててミアの元に駆け寄ろうとした。


「たすけ」


 ミアは、助けを呼ぼうとする中、棺桶の中に閉じ込められる。


「トトの思い通りにさせないわ!」


 モモが、ミアの棺桶がある方向に片手を伸ばし、掴む動作をする。手を後ろに引き抜く動きをした。


 モモが直接つかんだ訳でもないのに、棺桶の蓋が、引きはがされた。


 今なら助けられる!


 サトルは、棺桶の中にいたミアを引きづり出した。


「ミア大丈夫か!?」


 サトルは、ミアに声をかける。


「う、うん」


 ミアの表情は、憔悴していた。


 一瞬とはいえ、棺桶の中に閉じ込められたんだ。恐怖だったのだろう。


「お姉さんの魔法も相変わらず、すごい威力ね」


 トトは、感心しているかのように言った。


「私の魔法は、対象物を視認できる範囲で、引き寄せるか、弾くの、どちらかができる効果しかないわ。トトの方が、応用効いているじゃない」


 モモは、トトの方を見ながら言った。


「異次元すぎる」


 サトルは、女神の戦い方を見て、心の声が言葉になって出てしまった。








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