第二十六話「トップデッキへ」

「この指輪をしているっていうことは……」


 オペラ座の怪人は、自分の指にはめている指輪を丁寧に撫でている。


「そうよ。クリスティーヌは、あなたが死んだ後、約束を果たして、あなたの死体に指輪をはめたのよ」


「クリスティーヌ……」


 オペラ座の怪人は、溢れてくる涙を拭う。


「サトル、ミア。トトがいる、トップデッキに向かうわよ」


 モモは、トップデッキへ繋がる、エレベーターに向かおうとする。


「女神様、待ってください」


 オペラ座の怪人が、モモのことを呼び止めた。


「どうしたの?」


 モモが、オペラ座の怪人の方を振り向く。


「クリスティーヌは、幸せに生涯を送りましたか?」


「えぇ。当時のフランスに住んでいた人の中で、一番幸せな人生を送ったと思うわ」


 オペラ座の怪人は、モモの返事を聞いて、優しそうな笑みを浮かべた。


「当時のフランスに住んでいた人の中で、一番幸せな人生。それは、良かった」


 オペラ座の怪人は、懐から本を取り出した。


 あれは、自分の心臓の代わりになっている、本じゃないか?


「あなた、それは大事な物じゃないの? それが、あるおかげで、この世で生き続けられているのよ」


 モモは、オペラ座の怪人が命とも言える本を出してきたことに、疑問を感じているみたいだ。


 俺も、オペラ座の怪人が何をしようとしているのか、想像がつかない。


「私には、もう未練がありません」


 オペラ座の怪人は、マジックのように、手に銀色の缶を出現させた。


「クリスティーヌの、その後を調べるのこと、その目標が達成された」


 オペラ座の怪人は、缶に入っていた液体を本にかけ始める。


 モモ達は、オペラ座の怪人がやっている行動を、ただ見守っていた。


「これで、私の魂も安らかに成仏ができる」


 オペラ座の怪人は、指を鳴らす。すると、本に火がついて燃え始めた。


「オペラ座の怪人」


 サトルは、独り言のように言った。


 オペラ座の怪人の体から、黒い塵が落ち始める。


「女神様。あなたに出会えて良かった」


 オペラ座の怪人は、最期に笑みを浮かべると、黒い塵となって姿を消した。


「愛する人のために、死んで百年以上も魂が成仏できなかったのね」


 モモは、呟くように言った。



 :オペラ座の怪人……

 :あんたは、漢の中の漢だ

 :私、将来、こんなに愛してくれる人と結婚したい



 自分の配信を見てくれているコメント欄を見ると、リスナーの感動コメントが流れていた。


「サトル、ミア」


 モモが、サトルとミアが立っている方向を見る。


「トップデッキに向かうわよ」


 モモが、自分の妹であるトトがいる、トップデッキに向かって歩き始めた。


「黒幕との戦い」


 ミアは、緊張した様子で、モモの後をついていく。


「次が今日最後の戦いだ」


 サトルは、自分に気合いを入れて、モモとミアの後を追った。



 サトル達は、エレベーターに乗り、トップデッキを目指す。


「モモ」


 サトルは、静寂で包まれていた中、モモに話しかける。


「なに?」


 モモは、前を向いたまま返事をする。


「モモの妹であるトトは、どんな女神なんだ?」


 これから、おそらくモモの妹トトと戦うことになる。戦う前に、トトについての情報が聞きたかった。


「私の妹は、私と真逆の性格をしているわ」


「真逆の性格?」


「私は、インドアなんだけど、トトはアウトドアで、良く外に出て遊んでいた。活発で、体育祭だと応援団長も務めていたわね」


 女神にも体育祭があったのか、見てみたい気がする。


「特徴をあげるとしたら、元気で、短気、そして貧乳ってことかしら。ふふ」


 モモは、サトルの方を振り返って笑顔で答えた。


 東京タワーに入ってから、初めて笑顔を見た気がする。血がつながった妹と戦うから、緊張していたのか?


「最後の貧乳って、情報はいるか?」


 サトルは、首を傾げた。


「大事な情報よ。トトは、貧乳をコンプレックスに感じているんだから」


 モモと話している間に、エレベーターはトップデッキに辿り着いた。


 エレベーターが開くと、ピンク色の部屋が視界に広がった。


「トップデッキって、こんなに広いのか?」


 サトルは、エレベーターから降りて、周囲を見渡した。


 メインデッキよりも広い空間だ。こんなに広いなら、下から見上げた時点で、気づきそうな気がする。


「トトの空間魔法で、広くさせているのね。トトは、空間魔法の使い手よ。自分の望むままの空間を構築して、自分が有利な戦いに持ち込むの」


「お姉ちゃん。よく、私の得意な魔法を覚えているね」


 何もない空間から、突然ツインテールで、ピンク色の髪をした女性が現れた。着ている服は、メイド服か? よく見てみると、頭にも黒いカチューシャを付けている。


 前に、オススメ動画で出て来たゴスロリファッションと似ている服装だ。てか、どこに隠れていた?


「トト久しぶり。服装のセンス、いつ見ても、あまりにも奇抜な服装をしているわね」


「お姉ちゃん。これが、最先端のファッションなのよ」


 トトは、モモと比べて痩せているように見える。こうして比べると、モモは胸以外も、出ているとこは出ているんだな。


「サトル。これから、重要な戦いが始まるのに、なにを見ているの?」


 サトルの近くに立っていたミアが、サトルの耳を引っ張る


「いてて、悪かったよ」


 サトルは、モモとトトの顔を見るように注意する。



 :おい、視線を下に下げろ!

 :貧乳で、ゴスロリファッションってありだな

 :俺は、貧乳も守備範囲内だ。ラブレターでも書いておこう



 視界のすみで映るコメントが、視線を下げるように要求してきていたが、サトルは見てなかったことにする。


 それにしても、予想していたより雰囲気は悪くない。このまま戦わずに終わることができるか?


「トト。配信者潰しをするのは、辞めてくれる?」


 モモが、その言葉を言った瞬間、トトの雰囲気が重くなった。


「それは、できないわ」


 サトルは、ついさっき脳内でよぎった、戦わずに済む、という希望が一瞬で打ち砕かれたと悟る。







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