第二十三話「黒幕の正体」

 東京の代表的な建物の一つである、東京タワー。様々な創作物に登場する、この東京タワーに黒幕が住んでいたのか。


「モモ。本当に、黒幕が東京タワーにいるのか?」


 サトルは、東京タワーを見上げながら、モモに話しかける。


「そうよ。黒幕が、こんな目と鼻の先に住んでいたなんて、私も思わなかったわ」


 モモの方を見ると、警官のコスプレを辞めて、鎧を身にまとっていた。


「モモ様。東京タワーに住んでいる、黒幕の女神って誰ですか?」


モモは、しばらく沈黙した。


言いづらいことでもあるのか?


サトルが、不思議に思っていると、モモは重たい口を開いた。


「東京タワーに住む黒幕の正体は……私の妹よ」


 サトルとミアは、驚いた表情でモモのことを見た。


「黒幕がモモの妹!?」


「モモ様。それって本当ですか!?」


 ミアの質問に、モモは頷いて返事した。


「私の妹トト。それが、動画投稿者潰しを操っていた黒幕よ」


 モモの手に力が入っていたのに、サトルは気づいた。


 あの陽気なモモが怒っている。


「モモの妹は、モモと似ているのか?」


 サトルは、モモの妹である、トトについて聞いた。


「ううん。トトは、私より大人しくて真面目な性格をしているわ」


「モモ様の真面目な妹様が、黒幕なんて」


「私も驚いた。子供の時は、一緒によく遊んでいて仲良かったから、なおさらね。女神としての役割をこなすようになってからは、会う事がなくなった。真面目な私の妹なら、気にかけなくても、女神の役割をこなしているかと思っていたけど……」


 モモは、東京タワーに向かって歩き始める。


「サトル、ミア。もし、トトと戦うことになっても……」


 モモの言葉が詰まる。


「いえ、なんでもないわ。これ以上、被害者を出さないためにも、ここで決着を付けましょう」


 サトルとミアは、モモの言葉に頷いた。


 サトル達三人は、東京タワーの内部に向かって歩き始める。




 サトルは、フットタウンと書かれた看板の前に立っていた。


「フットタウン? 東京タワーじゃなくて?」


 サトルは、首を傾げて、東京タワーを見上げる。


 名称が変わったのか?


「サトル。東京タワーに来るのは、初めて?」


 ミアが、サトルに話しかけて聞いて来る。


「あぁ、初めてだ。東京タワーって昔の名前なのか?」


「ふふ。違うよ」


 ミアは、サトルの質問に笑う。


「東京タワーの真下は、フットタウンって名前のショッピングセンターになっているの。そのショッピングセンターにあるエレベーターを使って、上の展望台に行くのよ」


「そうなのか」


 全然知らなかった。東京タワーの真下は、エレベーターしかないと思っていた。


「サトル、ミア。準備は良い?」


 サトルとミアは、「大丈夫です」と返事をする。


 モモは、サトルとミアの返事に頷いて、フットタウンの中に入ろうとしたが、直前で足を止めた。


「そういえば、配信は付けたままにしている?」


 モモの質問に、サトルとミアは、お互いに目を合わせる。


 そういえば、配信を付けたままにしていた。


 いつもと違う緊急事態で、配信のことをすっかり忘れていた。


「モモ様。すみません! すぐに消します!」


 ミアは、慌てて配信を切ろうとする。


「配信を切らなくてもいいわ。女神との戦いが配信に映せるのよ、撮れ高しかないから配信は付けたままにしていなさい。配信を付けてって言おうとしたのよ」


 サトルは、自分のコメント欄を見てみる。



 :俺達を忘れていたってまじ?

 :じゃあ、さっきまでのは放送事故!?

 :これは、切り抜き確定だな



 コメント欄は、いつもの感じだった。


 同接を確認してみると、二千人も視聴している。


「じゃあ、中に入るわよ」


 モモ達は、フットタウンの入り口から、建物中に入った。




「誰もいない?」


 サトルは、フットタウンの中に入って最初に言った第一声が、この言葉だった。


 ショッピングセンターって聞いていたから、人で賑わっているかと思った。


「誰もいないわね。外も、人の気配を感じなかったから、人払いの魔法でもかけているのね」


「人払いの魔法?」


「えぇ、人払いの魔法は女神が使える魔法の一つよ。この魔法をかけると、人間の本能にある危機感を刺激するの。『なんとなく嫌な感じがする』って気持ちになって、近づかなくなるわ」


「そんな魔法が……」


 ミアは、モモの話を聞いて目を輝かせていた。


 魔女であるミアは、魔法の話は興味を刺激されるらしい。


「トトは、何も関係ない人間を、巻き込むつもりはないみたいね」


 モモは、どこか安心したような表情をした。


「モモ。モモの妹は、上にいるのか?」


「おそらくね。メインデッキのさらに上、トップデッキにいると思うわ。エレベーターに向かいましょう」


 モモは、歩き始める。サトルとミアも、モモの後をついて行く。


 それにしても、普段人で賑わっているショッピングモール。人がいないだけで、こんなにも不気味なのか。


 サトルは、歩きながらシャッターで仕切られた店を見て行く。


「モモ様。ここには、モモ様の妹以外にも誰かいるんでしょうか?」


「いるかもしれないわね。実際に、建物内に入ってから視線は感じるわ」


 ミアとサトルは、モモの言葉を聞いて、周囲を見渡した。


「モモ。それは、早く言って欲しい」


「大丈夫よ。襲って来る気配は感じないから、監視しているって感じかしら」


 モモは、気にしない様子で歩く。


 しばらく歩くと、エレベーターの前に辿り着いた。


「ちゃんと、エレベーターは動くわね」


 エレベーターの扉が開いた。


「サトル、ミア。行くわよ」


 サトルとミア、モモの三人はエレベーターに乗り込んだ。




「トトには、いろいろ聞きたいわ」


 モモが、上がっていくエレベーターに乗りながら呟いた。


『メインデッキに到着しました』


「メインデッキ? トップデッキじゃないのか?」


 サトルは、不思議そうに呟いた。


「サトル。トップデッキに行くには、エレベーターを乗り換えるんだよ」


 ミアは、サトルの肩を叩いて言った。


「そうなんだ」


 モモがエレベーターを降りて、サトルとミアも、続いて降りて行く。


『お姉ちゃん。お久しぶり』


 フロア内に、女性の声が響いた。


「トト久しぶりね。元気していた?」


『元気よ。せっかく来てくれたのは、嬉しいけど、帰ってくれる?』


 人を突き放すかのような冷たい言葉だ。


「トトの頼みは聞いてあげたいけど、その要望には応えられないわ」


『そう。残念ね。帰ってくれるなら、それで良かった。帰ってくれないなら、怪我しても知らないよ』


「私と戦うつもりなのかしら?」


『それは、トップデッキに辿り着いたらね。それまでは、私の手下が相手よ。オペラ座の怪人やりなさい』


 オペラ座の怪人? まさか……。


 サトル達の前に、黒いマントをし、仮面を被った男が現れた。






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