第十八話「最終階層」

「見えた最終階層だ!」


 サトルは、階段の先に広がる空間を見て、ミアに言う。


「あいつら、追って来ていない」


 ミアは、後ろを見て、投稿者潰しが追って来ていないことを確認する。


「このまま止まらずに走って、ダンジョンコアを破壊する」


 サトルとミアは、最終階層である第五階層に辿り着いた。


「はぁ、はぁ。ここが最終階層……」


 サトルは、周囲を見渡しダンジョンコアを探す。


 全力で走り続けたから息が切れている。なにか、あった時のために、呼吸は整えておきたい。


「ねぇ、サトル」


 ミアは、サトルの肩を叩いた。


「どうした?」


 サトルが振り向くと。ミアは右を指でさしていた。


「ダンジョンコアって、あれじゃない?」


 ミアが指をさしている方向を見ると、一体の大きなロボットが壁にもたれる形で座り込んでいる。ロボットの胸には、白く輝くダンジョンコアらしき物が、はめ込まれていた。


「まさか、ダンジョンコアか?」


 サトルは、ゆっくりとロボットに近づく。


 ロボットの外観は、木で覆われている。頭部と手、関節部分は球体だ。


 全体的に丸く、マスコットキャラクターみたいだが、ここは最終階層、そんな可愛らしい存在ではないだろう。


「起動しないでくれよ」


 このまま大人しく、ダンジョンコアを破壊できたら最高だ。


「サトル。待って」


 ミアは、ゆっくりロボットに近づいて行くサトルを止めた。


 サトルが振り向くと、ミアが杖をロボットに向けて構えている。


「我が魔眼の力による魔法で、ロボットごと粉々にさせる」


 魔法を使うつもりか。


 サトルは、ミアの魔法に巻き込まれないように、ミアとロボットの直線上に入らないように道を空けた。


「ユニークスキル『不運の馬鹿力』で、威力が底上げされた、我が魔法を受けてみろ! ファイアーボール!」


 人の頭と同じぐらいの大きさである火の玉が、真っ直ぐロボットに進んで行く。

 やったか?


 サトルは、火の玉が。ダンジョンコアに当たり、ダンジョン攻略が終わると思った。


「なに?」


 ロボットが、ダンジョンコアを守るように、ミアのファイアーボールを片手で防いだ。


「テキケンチ。ターゲット……ニメイ」


 ロボットは、機械音声で喋り始めて、立ち上がった。


「我が魔法を一度防いだぐらいで、良い気になるな! ファイアーボール!」


 ミアは、再び魔法をロボットに向けて放つ。


「テキ……コウゲキ」


 ロビットは、ミアの魔法を叩き落とした。


「私の魔法を、そんな簡単に……」


 ミアは、二度の攻撃を失敗し、後ずさりをする。


「ピピ……アラタナ……セイタイハンノウ」


 ロボットが、サトルとミアから視線を離し、違う場所を見る。


 新たな生体反応って言ったか?


「まさか」


 サトルは、ロボットが向いた方向と同じ場所を見た。


 ロボットが見ていた先は、サトルとミアが降りて来た階段があった場所だった。そこには、三人の人が立っている。


「リーダー! 変なカラクリがいますぜ!」


「くくく。あれは、カラクリって言うより、ロボットだなぁ」


 階段から現れたのは、リーダーと取り巻き二人の投稿者潰しだった。


 さすがに、魔法紙の魔法だと威力が足りなかったか。


「リーダー。ロボットの胸に光物が!」


「あれは、ダンジョンコア。くくく。ロボットにダンジョンコアが埋め込まれているなんて、初めてみたなぁ」


「リーダー、どうしますか?」


「動画投稿者を潰して、ダンジョンコアを取り込んでいるロボットの部品を出来るだけ回収する。ダンジョンコアの影響を直接受けているんだ。確実に高値で売れる素材だぁ」


「へへ。わかりました」


 リーダーの取り巻きが、笑みを浮かべながら、サトルとミアの方を見る。


「サトル、どっちを先に倒すべき?」


 ミアが、ロボットと動画投稿者潰しを両方見ながら、サトルに話しかける。


「できれば、片方ずつ倒したいが、両方相手にしなければならないようだ」


 サトルは、動画投稿者潰しとロボットを両方相手にしなければならないことを悟った。




「まずは、サトルだぁ!」


 リーダーが、サトルに向かってナイフを投げる。


「撃ち落とせる速度!」


 サトルは、飛んでくるナイフを瞬時に叩き落した。


『サトル! 油断しないで! もう一度来るわ!』


 モモの声が頭の中に響く。


 サトルは、自分が叩き落したナイフを見る。


 地面に落ちていたナイフは、勝手に動いた。刃の先端をサトルに向けて、再び飛んでくる。


「くっ!」


 サトルは、無理やり体を捻り、ナイフの攻撃を避けた。


「なに、今の」


 ミアは、その光景を見て驚きの声をあげた。


『やつのユニークスキルよ。スキル名は「追尾弾」、投げた物を一回だけ、投げた時と同じ速度で、標的に向かわせる』


「なるほど、厄介なスキルだ」


 だが、仕掛けがわかれば、対策ができる。叩き落しても、もう一度避ければ良い。


「くくく。俺のスキルを初見で気づくなんて、やるじゃねぇか。こういう才能を持っている動画投稿者は、潰さないといけないな」


 リーダーは、両手にナイフを一本ずつ持って構える。


「お前のユニークスキルは、見破っている」


 サトルは、投稿者潰しの動揺を誘うために、あえてリーダーのスキルを知っていると言った。


「さすがに、ここまで知名度が広まっていると、俺のユニークスキル『百発百中』を知っているか。くくく」


 リーダーのユニークスキルが、百発百中?


 サトルは、リーダーの言っていることに疑問が浮かんだ。


「我が魔眼の前では嘘はつけない」


 ミアが、リーダーに向けて杖を向ける。


「ん? 嘘? くくく、何を言っている?」


 リーダーは、笑みを浮かべながらミアの方を向いて首を傾げた。


「主のスキルは、百発百中ではなく。『追尾弾』であろう」


 リーダーは、ミアの言葉を聞いた瞬間、顔から笑みが消えた。


「それは、どこから聞いた? あぁ?」


 さっきまで、とは違い、言葉が威圧的になる。


「そんなことは、魔眼に誓って口が裂けても言わない」


 ミアは、威圧に屈しないで強気に言い返した。


「なら、口を割らすまでだ。お前等、まずは魔女の方を狙うぞ」


「へい」


 リーダーと取り巻きは、ミアに向かって走り出す。


「近づかせるか!」


 サトルは、リーダーと取り巻きの前に立ちふさがる。


 インパクトの魔法を使えば、確実に一人は足止めできる。その後は……。


「サトル。頭を下げて!」


 ミアが、サトルに頭を下げるように、指示を出した。


 サトルは、思考を辞めて、瞬時に頭を下げる。


「ファイアーボール!」


 ミアの魔法は、火の玉になって放たれた。


「くくく。こんな魔法」


 リーダーが、ナイフを構えてミアの魔法に対して、迎撃の構えを見せた。


「ピピ。シンニュウシャ。タオス」


 ダンジョンボスであるロボットが、サトルとリーダーの間に割って入る。


 ロボットは、拳を振り上げて、リーダーに向けて振り降ろした。ミアが、放ったファイアーボールは、ロボットの拳に当たり粉砕した。


「くくく。まずは、ボスからかぁ?」


 リーダーは、ロボットの攻撃を避けて、ロボットの胸にあるダンジョンコアをめがけ、ナイフを投げた。


「キケン」


 ロボットは、そう呟くと胸部から、小さな手が飛び出し、ダンジョンコアに向かうナイフを掴んだ。


「けけけ。なんちゅう仕掛けをしている。さすが、ボス一筋縄で終わらないな」


 リーダーは、ロボットから距離をとる。


 サトルも、ミアの所まで下がる。


「サトル。どうする?」


「できれば、先に投稿者潰しのあいつらを倒したいが、あのロボットは、大人しくしているとは思えない」


 サトルは、思考を巡らせる。


 どうすれば、この戦いに勝てる。


「けけけ。ボスが来たら、お前達が二人で相手しろ」


「へへ。了解」


 リーダーと取り巻きが、再びサトルの方に向かって走り始める。


「サトル。あいつら」


「ミアは、後ろに下がって、先頭は俺が立つ」


「わかった。後方支援なら、私に任せて」


 サトルとミアは、リーダーと取り巻き二人の突撃に、迎撃をする構えを見せた。


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